曇天、想う人たち
少年は数々の扉をくぐり抜けて行きました。
そして、その扉の先で数々の人々と出逢い、そしてそのことが少年の心を打ちつけていました。
時は次第に過ぎて行きました。
少年が扉を開けた先はすでに朝となり、登校者で溢れている学校でした。
教室に入っていくとそこではすでに授業が始まっていました。しかし、クラス内はいつもとは大違いでとても静か・・・そして全てが暗い気持ちで包まれていました。
少年は、二つ空いたままになっている席の内、自分の席で無い方の席を選び、腰掛けました。
そして、その席から担任がおこなうその数学の授業を見ていました。
担任は、淡々と授業を進めていきます。
淡々と、静かに、冷静に授業を進め行くその姿をただ見ただけならば、担任のことを冷たい人、として見ていたかもしれません。
しかし、少年は知っていました。見ていました。
担任があの部屋の中で溢した幾つもの雫を。
担任があの部屋の中で呟き、叫んだ幾つもの言の葉を。
担任は、どんな時であろうと少年のことを想っていてくれる、少年にとってそれだけで十分でした。
たとえ、その姿が見えなかったとしてもそれが一つの繋がりでした。
それを肌で感じ取りながら少年は開かれた扉を抜けて行きました。
初めから、終わるまで、少年の存在に気づく者はいませんでした・・・・・。
その姿を、一つの影が見ていました。
その影は、何も言うこと無くその場を立ち去って行きました。
自分自身が落としているその雫に気がつくことも無く・・・・・・・・。
次の部屋に入って少年は首をかしげます。
そこは、少年が眠る病室と似たような病室、しかし少年と違ってここは四人部屋でした。
しかし、少年はその場所に対する記憶がありませんでした。
だから、少年はその場を直ぐに離れて行きました。そこにいることに何の意味をも見出せなかったからこそ。
少年は
気づいていなかったのです。
柱の陰にいる
一つの影に
少年の声を呟きながら
すすり泣くその姿に
少年は気づかなかったのです。




