終わり、そしてこれから
「・・・ふあぁ〜あ・・・あ、あれ?」
達也が目を覚ましたのは、ベッドの中でした。
訳が分からないまま周囲を見渡すと、達也の足元に何やら違和感が・・・。
「zzz・・・♪」
・・・どうやら“友達”は、気疲れとショックによるねぶそくによってか人の病室で眠ってしまったようです。
達也は少し迷った後、自分の背丈よりも頭一つ分小さな少女の頭に手を置きました。
彼女もまた、自身の罪の意識に悩まされ、苦しみ続けてきたのでしょう。
「ごめんね、お前のことを考えてやらないで。拒絶ばかりしてしまって。苦しい気持ちでいたのは君も一緒のはずだったのにな」
そんな声は眠りつづける少女には届か・・・か・・・!?
「あ・・・天宮・・・君!?」
「えっ・・・あっ・・・もしかして起きて・・・たっフギャッ!!!」
憐れ達也は突然少女にダイビングされて体勢を崩し、少女共々ベッドの中へと飛び込みました。
「天宮君、良かった・・・生きてたの・・・生きてたの!?」
「ちょっ待って土井さん!!土井友紀さん!!痛いって点滴がずれて痛いっていうか胸、胸がなんか当たって・・・ちょっとやーめーて!!!」
達也は、友紀の手から必死に逃れながらとりあえず点滴を外します。
友紀も、渋々達也の上から下りて自分の手で眠るときに倒してしまった椅子へと座りなおしました。
「それよりも・・・天宮君、貴方脳死だかで死んだんじゃないの・・・嬉しいけど・・・・・」
「それなんだけど俺自身も何が何やら・・・」
それでも達也は、自分を落ちつける意味も込めて友紀に説明をし始めました。
「〜てなわけで」
一通り話し終えると、達也はベッドに寝っ転がりながら言いました。
「信じてくれ、なんて甘っちょろいことは言わないよ。ただ、俺がどんな思いでいたかを話しただけだから」
「ううん、私は信じるわ。だって天宮君の
「ストップ!!俺のことをそんな名字なんかで呼ばないでくれよ。呼ぶなら昔みたいに名前で呼んでくれ」
「え、なっなんでかな?そ、それなら私も昔みたいに呼んでほしいな。ちゃんとユキって女の子っぽい感じで呼んで欲しいな♪・・・それよりもなんでいまさらその呼び方に?」
達也の提案に、どぎまぎしながらも友紀が答えました。
「え、だっだって確か友・・・ユキが小さいころに言ってただろう?『貴方は一人でいても何でも出来る《達》人だけど・・・私と一緒にいれば、ね、それだけで″友達″になるでしょ♪』って。だからこれでまた友達・・・だろ?」
「友達か・・・ねぇ・・・あっ何でもないよ」
友紀が少し悲しげな顔で呟きました。
「ねえ達也?」
「何だ?」
「そういえば貴方にまだ、バレンタインの贈り物してなかったね」
「・・・ああ、そういえばそうだけど別にいいよ。今更」
「ううん、もらってほしいの。貴方に・・・私の大切な・・・・・・・・・」
「えっ・・・なにぉんぐっんーーーー」
何の構えもせず無防備に振り向いた少年の唇に、強引にもう一つの唇が重ねられました。
無理やり達也が引き離すと、そこに映ったのは恍惚とした表情をした友紀の姿。
「な!?何するんだよ!!」
「私からの・・・贈り物です・・・では・・・お返しは結構ですから・・・・・・」
自分から突然始めて突然事を終えた友紀は、素早く席を立ちあがると扉へと向かって歩き出します。
「!!あっちょっと待てよユキ!!」
一方、ショックから無理やり立ち直った達也は、ベッドから急ぎ飛び降りてフラフラと歩く友紀を抜かして扉を閉ざしました。
「・・・い、いったい何よ」
「いや、別に。とりあえず好きな女から先に口づけされちゃったっていう事実はなかなか堪えるわけですよ。お前のしたがっていたことは実は俺もやりたかったってことぐらい察してくれよ、そう簡単に言えないんだし」
「っひゃっひゃあ〜・・・」
そう言いながら友紀の腰元に腕をまわして抱き寄せる。
「・・・一日遅れだけどホワイトデーのお返しってことでいいよな?」
そして、互いに唇をそっと重なりあわせます。
それは、先ほど受けた一方的に押し付けるようなものではない、二人が互いに互いを想ったその上での抱擁でした。
まあ、お互い顔を面白いぐらいに赤く染めた状態ではありましたが・・・・・・。
死神が一人、そんな光景を笑いながら見つめていました。
「これがお前の望んだ結末か龍太、いや今は式部であったか?」
閻魔が、死神の横に座って問いかけました。
「まったく、お前もムチャをする。わざわざまだ死ぬ時期でもない少年を管理局のミスに乗じて記憶の回廊へと連れてくるなんてな。もし、死なせてしまったらどうするつもりだったんだ」
「・・・あの子があんなになったのは僕のせいなんです。僕が、死ぬことが怖くてこのような立場に立ったことによって、そうやって突然失った絆を求めていって失って、弟は、壊れてしまった。だから僕は、それをどうにかしたかった。あのままあの子が苦しみ続けるくらいなら、いっそのこと自身の手で楽にしてあげたかった」
「・・・はい、これはエゴです。僕の勝手なエゴでしかありません。ですが、貴女のような上司にも恵まれて、あの子は無事に自分を取り戻すことが出来ました。・・・や、止めて下さい、棒で叩くのやめてください。痛いですから、痛いってや〜め〜て」
死神は、必死で防ぎながら話を続けます。
「自分としては、あの子が僕のことを思い出してくれて、庇ってくるところまでしてくれたことだけで十分なんです。それに、こんなものまで残してくれましたし」
「これは?」
「これは、家族の写真です。本来なら、存在を失った僕は写ることはないんですが」
「えっあっう、写ってる!?」
「はい、どうやら弟が僕のことを想ってくれているそのあいだだけ存在が復旧するようです。僕にとってこの姿は罪であり、罰であり、懺悔でもあります。それでも、この写真に写ることが出来るその間だけは、僕は一人の兄になれるんです」
「・・・うつけ者が・・・・・・・」
閻魔が笑いながら言いました。
「どうも、こんな弟バカが部下ですみません」
そう笑いながら言って死神は、卒業証書を手に笑いながら帰る少年の姿を穏やかな表情で眺めていました。
FIN




