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第2話 顔合わせ 前編

 あっという間の一週間だった。

 あまりに週末が憂鬱すぎて、何度バックレようと思ったことか。流石に出来ないから、諦めたけど。


「セレナ様、準備はできましたか?」

「ええ。問題ありません」


 とにかく、腹をくくるしかないのだ。いざ、王子の元へ!

 と言っても、どうやらシリウス王子は公務でこちらに数日滞在するらしく、その合間を縫って面会の時間を作ってもらったから馬車で数時間もあれば着くんだけど。そんなに忙しいなら会わなくてもいいのに……ま、向こうの希望なんだから仕方ないか。

 というわけで、厳戒態勢の迎賓館へ到着。あーあ、きっと誰が訪ねて来たのかバレちゃうんだろうな。


 王子がいるというオリーブの間の前に着くと、執事のブレットが警備員と何か話をし始めた。

 ああ、ついにご対面か……! どうしよう、最後に会ったの自体ニ年前くらいだし、一対一で話すなんて初めて。緊張する。ヘマだけはしないようにしないと……!


「どうそ、お入りください」


 部屋の中からそんな声が聞こえ、扉が開く。


「失礼します。ご無沙汰しております、シリウス王子殿下。本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます」


 緊張を悟られないよう丁寧にお辞儀する。あーもう、帰りたい……。

 しかし私の気を知らない王子は、朗らかに挨拶を返した。


「いえ。こちらこそ、急な申し出に応じていただき大変喜ばしく思います。さ、どうぞお掛けになってください」

「恐れ入ります」


 ゆっくりと椅子に腰掛け、バレないように息を吐く。


「飲み物はどうされます?」

「えっと……では紅茶を。品種はお任せします」

「かしこまりました」


 すぐに紅茶の香りが部屋を満たす。というか、よく見たら王子も紅茶だ。やだ、被せたみたいで恥ずかしい。


「……フェガリの紅茶はどれも絶品ですね」


 そして私の思考を読んだかのようなコメント。やめてください、ことちら平静を装うのに必死なので。


「はい。茶葉そのものの品質はもちろんですが、加工の技術も素晴らしいんです」

「なるほど。セレナ様は紅茶がお好きなんですね」

「もちろん。フェガリ国民は皆紅茶を愛しています」


 へぇ、と王子が感嘆の声をあげた後訪れる静寂。

 ……私のバカッ! どうして話を広げられる方向に持っていかなかったの!


「大変お待たせいたしました。ラベンダーティーです」

「ありがとうございます!」


 沈黙に耐えかねていると、使用人さんが紅茶を差し出してくれた。

 救世主現る! しかも私の好きなハーブティー! 私はすかさず香りを嗅ぎ、そっと口に含ませる。紅茶は熱いうちに飲まないと――というのは言い訳で、本当は話さない口実が欲しかったのだけれど。


 私は余裕ができたので、ゆっくりと王子を観察する。

 シリウス=サラサマーレ。イリオス王国第一王子で、銀髪に青い目の美男子。現在二十歳で、昨年イリオスの士官学校を卒業してからはイリオス国軍の王宮警備兵として活躍中。国内外問わず人気がある――というのが、この一週間でかき集めた情報だ。


 そして、こうして実際に見ても……美しい。

 私のことを子供でも見るかのような微笑ましい表情で眺めているこの男は、議論の余地無くイケメンだ。そりゃまあ、私だって転生してから美人だと言われるようになったし自分でもそう思うけど、それはあくまでもセレナの顔であり、本来の私の顔は見る人全て不快にする顔面だったわけで。そんなイケメンが私の顔を見てると思うと辛い……。


「……そんなに見つめられると、恥ずかしいです」

「! す、すみません」


 やば! ついネガティブになってしまった。大丈夫、私は生まれ変わったんだ。もうそろそろ現世の方が長く生きたことになるんだから、いつまでも昔の姿に囚われていちゃダメだ。


「いえ、気にしないでください! あ、何か茶菓子でも食べますか!?」

 なぜか慌てた様子の王子。いや、長居する気は無いのでいりません。

「いいえ、結構です。……あの、この度はどうぞよろしくお願いします」

 そう言って深々と頭を下げると、王子も「こちらこそ」と慌てたようにお辞儀をした。


「それで、あの……その……どうして私に話を持ちかけたのでしょうか? 恥ずかしながら、思い当たる節がないのです」

 早速本題に入る。多分「顔」って言われるんだろうなーと思うけど、そこから縁談を流す予定なのだから問題はない。


「それは……」

 すると、なぜか王子はしばらく考えてから、


「……あなたは、わずか八歳で魔道士ライセンスを取得し、十三歳にして全国から将来有望の魔道士が集まるバトルロイヤルで圧勝しましたね。それに一昨年には独自の魔法を編み出し発表した、まごうこと無き才女です」

「なっ!?」


 まさかそっちで攻めてくるとは! そしてそれらはほぼ全て黒歴史だから思い出させないでください!


「あ、あれは若気の至りといいますか……生命の安全が保証されている中戦うのと、実際に戦地に赴き戦闘するのでは全くの別物です!」


 ちょっと言い過ぎだったかもしれないけど強めに否定しておく。まさか私に戦士になって戦えと!? 人を傷つけるとかチキンだから絶対ムリです。イリオスは軍事も圧倒的に強いし、めったなことでないと戦争にはならないと思うけど。


「分かっています。ですが、あなたのような優秀な魔道士をイリオスに迎えられれば、間違いなくイリオスはさらに発展するでしょう。イリオスは、魔法が盛んではないので」


 いいじゃない、その分科学技術はお盛んなんだから。大体そんな強くなってどうすんのよ。世界征服でもするつもりなの?


「……まさか、王子殿下のような武功を挙げているお方が、私を魔道士として認めてくださっているなんて光栄です……」


 もちろんそんなことは言わない。営業スマイルで王子アゲをしておく。そう、実際にシリウス王子は剣の才能があるんだし。


 ちなみに、この世界での剣技っていうのは、ただ生身で剣を振り回すものではなく、魔力なる超自然的な力で身体能力が底上げされてる、下手な兵器より強力なもの。歴史上にはたった一人で国を滅ぼしたとかいう伝説の人物もいるくらい。

 対して魔道士には歴史に残った人物なんてほぼいない。たぶん史実が殆どないから発展しようがなかったんだと思うけど……ま、わざわざ魔法を練らなくても剣に魔力を乗せられるんだから、戦いに必要なかったのかもね。つまり、魔道士の地位は剣士よりずっと下。それに魔法で出来ることなんて、イリオスの科学力なら大体実現できると思うし。


「…………」


 ……あれ? これって本当に、私を嫁にするメリットなくない?


「……本当です! 私にはあなたが必要なんですよ」


 私が疑っているのを察したのか、追い討ちをかける王子。うーん……嘘を言っているようには見えない。まあ、たくさんのものに恵まれている王子が、唯一不完全な魔術を発展させたいというのは分からなくもないな。


「……いえ、あの……嬉しいです。結婚も、謹んでお受けいたします。ただ、私はまだ王子殿下のことをあまり存じ上げておりませんので……」


 魔道士としてそこそこ有名で、家柄も文句なしの私は、未来の国王の妻にはピッタリだったってことなんだろう。……それだけでフェガリの王女との婚約を破棄するとは思えないから、他にも理由はあるんだろうけど。


 しかし、王子は私の言葉で何かを閃いたようで、


「! ルイス、次の予定まで時間はあるか?」

「はい、シリウス様。あと半刻程度でしたら問題ありません」


 と、執事に訊いていた。ていうかルイスさん超イケメン! 黒髪でクールな顔つき。きっと仕事も良くできるんだろうな。イケメンはイケメンを呼ぶのね。と私がルイスさんに気を取られていたのもつかの間。


「では、二人きりで散歩に行くというのはどうでしょう?」


 ……は? いきなり何言ってんのこの人?


「シリウス様! 一国の王子が他国をうろつくなど問題行為です!」


 開いた口が塞がらない私に代わって、王子に文句を言うルイスさん。そうそう、危険だよね。


「平気ですよ。中庭を少し見て回るだけです。それなら人目にもつかないですし、そもそも何者かが襲ってきたとしても私とセレナ様なら撃退できます」


 えっ!? 今さらっと私を戦力に入れたよね!?


「それは……まあ、警備も万全ですし……敷地内から出ないというのなら……」


 ルイスさん! もっと抵抗してくださいよ!


「では、二十分ほどで戻ってきますよ。さあセレナ様、行きましょう」

「え? は、はい……」


 あれ? 私の意思は確認しないんですか? いえいえ、もちろん行きますけど!


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