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第十七区二番街 異世界商店街  作者: 藤沢大典
2/4

第二話

難産

2-1

「異世界って……」


 いやいや。

 いやいやいやいやいやいや。

 突然何を言い出してるんだこのおっさんは。

 突然の意味不明カミングアウトに呆然としている俺を尻目に店主は続ける。

 

「ちなみにな、この商店街で店構えてる奴はだいたいが異世界人( そう )だ。ここ来る前にも他に店あったろ? 俺とニィナは人族だから異世界人って言われてもピンと来ねぇだろうけど、あっちの店なら一目瞭然だと思うぜ。兄ちゃんはエルフとかドワーフとかって知ってっか?」

「え、ええ。小説とかで、ですけど……」


 幸いにもファンタジーものの小説とかは大好きだ。

 よくバイトの休憩中とかにWEB小説とか読んでたりもする。

 もちろんご多分に漏れず、もし自分が異世界に召喚されたら……などと妄想したことも無い訳では無い。

 なんだが、いざ実際に目の前に提示されても意外と信じられないものなんだなぁ……。

 物語の主人公とかってやっぱ順応性ハンパないんだな。


 そして他にも異世界の方がいらっしゃるとな。

 しかも人間以外の可能性で。

 人族なんて言い方、普通に生活してて聞いたこと無いわ。


「なら予備知識としては十分ね。それ食べ終わったら見に行ってみると良いわよ。多分面白いと思うから」

「ありがとうございます! 行ってみます」


 店主の言葉を引き継いだ夫人の誘いに、茉莉が元気に返事した。

 え、何で君が返事してんの?



2-2

「すごいねゆー兄! 面白いって聞いてたけどまさか剣と魔法の商店街だったとは!」

「というか俺はまだ半信半疑どころか一信九疑くらいなんだが……。お前信じるの早えーな」


 お代を払い、店を出た俺達は先ほど通り過ぎた二店へ向かうことにした。

 てか中々なパワーワードだな、剣と魔法の商店街って。

 しかも話に挙がっただけでまだどっちもお目にかかって無ぇ。


「そう? あのくら焼き食べた時に『今まで食べたたこ焼きとは世界が違うな』って感じたけど」

「それは比喩表現であって物理的に違う時に使う言葉じゃねぇ」


 というか世界って物理で比べていいもんだっただろうか。

 理数はそんなに得意じゃなかったからよく分からん……


「とりあえず壺屋さんと革屋さん、どっち先に行ってみる?」

「あれは壺屋じゃなくて骨董品店だと思うぞ……。まそっちから行ってみるか」


2-3

 店の入り口のディスプレイには先ほどと同じく、地面から腰の高さほどある一抱えとはいかなそうな大きな壺が置かれてる。

 これも商品なんだろうか。雨の日とかうっかり傘差しとして使ってしまいそうだ。

 入口の扉は開け放たれており、店の中は両端の壁と真ん中に棚が据え付けられている。

 その棚には等間隔に何かしらが置かれているようだが、遠目では何なのかよく分からない。

 オレンジ色のランプで照らされている店内はアーケードの薄暗さのせいか、暖かな雰囲気がより際立っているように感じる。

 奥にいた人影が自分らの来訪を察知したのかこちらにやってきた。

 

「あらあら、いらっしゃ~い。ゆっくり見ていってね~」


 腰まで伸びた流れるようなストレートの金髪で背は俺よりやや低いくらい。

 街中ですれ違ったら十人中十人が男女問わずに思わず振り返ってしまいそうなモデル体型と美貌だ。

 そして何よりも特徴的なのがその髪から覗く耳の長さ。一般的な耳と比べて明らかに長く、尖るような形状をしている。

 はい、どう見てもエルフです本当にありがとうございました。


 まぁそれはいい。いやよくはないんだが。

 それよりも気になるのはこの人の恰好だ。

 黒一色で長袖の、足元まで隠すロングスカートのワンピース。

 これだけ一見すれば修道女のようにも見えることだろう。

 その上に纏っているのはフリル感満載の白いエプロン。

 胸元から下の体前面をほぼ全て覆っている。

 更に頭にはこれまたフリルのついたカチューシャ。

 

 メイドだった。

 その手にお詳しい方々にはクラシカルメイドと言えば通じるだろう。

 金髪ストレートロングのメイドエルフだった。

 なんでさ。

 

「あ、どうも。あの……ここって何のお店なんです?」

「ここは古道具とかを置いてるわ。珍しいものばっかりだと思うからどういう物なのかは遠慮なく聞いてちょうだいね~」


 なんかいろんな意味で聞いてみたくなったが、意外と普通の店のようだった。

 折角だし、入口の壺のこととか聞いてみようか。

 なんかの貴重品だったりするんだろうか。

 どこかの城で使われていたとか。

 

「ありがとうございます。早速ですけど、お店の前にある壺ってあれも売り物なんですか?」

「あ~、あれね~。あれは『老耄(ろうもう)の瓶』って言ってね~、むか~しの呪術師がとある貴族を暗殺するのに作ったらしいの。あれに入れた水を飲んだり浴びたりすると老いやすくなるのよ~。すぐ死ぬわけではないし見た目はただの水瓶だから貴族が死ぬまでバレなかったらしいわね~」


 ……思った以上に物騒な代物だった。

 そんなのを誰でも触れるようなとこに置いていていいんだろうか。


「あ、さすがにちょっと扱いが難しいから非売品よ~」


 ええ、そうでしょうとも。

 というかそんなバイオハザードなもの売らないでください。

 

「上手に使うと便利なのよ~。漬物とか果実酒に使うと美味しくできるの。食べる前に解呪しないといけないけどね~」


 発酵とか熟成も老いのカテゴリなのかよ。

 そして実用してるのかよ。

 情報の処理が追い付かず唖然としている俺達をよそに、メイドさんは店内の商品の紹介を続けていく。

 

「そっちの石は『虹晶石』ね~。魔力を蓄える性質を持ってるから長期持続型の魔法陣用インクとか魔法剣の素材なんかに使われるわね~。とはいってもこっちの世界じゃ役に立たないからただの綺麗な置物ね~」


 ラグビーボール大の七色に煌めく石を指してそう説明してくれた。

 綺麗なんだけど、どっかのゲームのガチャ石に見えなくもない……


「それは『怨霊の鏡もどき』ね。覗き込むと人影が映り込んだり、ガタガタ振動しだしたり、うめき声みたいなのが聞こえたりするけど、霊的にも呪術的にも何もない普通の鏡なの。気温と湿度によってパターンがあるみたいだから天気予報に使えるわよ~」


 一体何を考えて作ったんだこんなもん。

 

「そのゴブレットも飾り用ね~。注がれたお酒を美味しくする術式が内部に刻まれていたらしいんだけど、壊れちゃっててお酒を入れると真っ黒な泥水に変わって溢れ出てくるようになっちゃってるの。今は忘れられた技術で刻まれてて、直すことも無効にすることもできなくなっちゃっててね~」


 あげくの果てにはどっかの英霊バトルロイヤルの賞品っぽいもの出て来ちゃった!

 これ以上聞いてるとそのうち顔のついた卵やら反転した魔法少女の魂やら数十万の人間を素材にした万能の石とかも出てきそうだ。

 てかなんか呪われたアイテム系多くないっすか?

 なんでこんなキワモノだらけなんだろうか。

 

「わたし、いろんな珍しいものとかを集めるのが好きでね~、こっちの世界に来る前も成人してからず~っと旅をしていろんなものを集めてたの。そうしたらある時ふいにこっちの世界に飛ばされちゃってね~、せっかくだからわたしが集めたものをみんなにも見てもらおうと思って、このお店をやってるの」

「はぁ……。さらっと言いましたけどやっぱり異世界の人なんですね」

「うふふ、こっちにはエルフっていないんでしょう? みんな私の耳を見てびっくりするわ~」


 びっくりする程度なのか。


「ゆー兄! これ! これすごい! なんかオーラ的なのがぶわってしてる!」


 店内をうろうろしていた茉莉が反対側の棚にある物を指さして大声で呼ぶ。

 そこには10㎝角ほどの小さな箱に収められた指輪があったのだが、何かこう、紫色の湯気のようなものが立ち上っている。

 いやもう立ち上っているというか噴き出しているというか、うまく表現できないが強いて言えば某スーパーな野菜の人みたいな感じになっている。

 なんだこれ!? というか色がすごい禍々しい。


「あらお嬢さん、お目が高いわね~。その『とこしえのリング』は私のコレクションの中でも超一級品よ~」


 メイドさんは嬉しそうに語りだす。


「2つあるでしょう? ペアリングになっててね~、それを嵌めた二人は永遠に結ばれる……こちらで言う結婚指輪みたいなものね~。二人で嵌めたら二度と外せないし、手指を失うような怪我を負っても『指輪を嵌めている』っていう概念を固定して、そこから欠損部位を補ってくれるんですって。更に魂同士も強力に結び付けちゃうから輪廻が終わるまでずっと共に居続けられるそうよ。ロマンチックよね~」


 話の入りは確かにロマンチックだったが後半はただの呪いだ。


「簡単に試せないのが難点だけど、二人にも目に見えるくらいの魔力量だしあながち偽物ってことは無いと思うのよね~」

「は、はぁ……」


 この見えてるオーラ、魔力だったのか。

 なんだか突っ込み入れるのも疲れてきた。

 魔力ってすげぇ。


「カーレナちゃ~ん、遊びに来たぞ~い!」


 ふいに店の入り口の方から声がかかる。

 紺色の作務衣姿に下駄を履いた、白髪の人物が入ってきた。


「あらゲンさん、こんにちは。この服さっそく着てみたけどどうかしら?」

「お! ええのう! 超似合っとるぞ! 萌え萌えじゃ! ……こりゃミニスカメイドでも頼めば着てくれたかも知れんの……」


 メイドさんはスカートの裾を摘んでふわりと翻す。

 ぐっと、親指を立ててスマイルを浮かべる爺さん。

 何で古物店でメイドなんだろうと思ったらあんたの仕業か。

 後半いかがわしいセリフが聞こえたぞエロジジイ。

 

「ありゃ、接客中だったかスマンかった。ちょっと寄っただけじゃからまた出直すとするかの。すまんの兄ちゃん。ゆっくり楽しんでっとくれ。ちゅーてもカレナちゃんに手ぇ出しちゃいかんぞ。せっかく可愛い彼女連れてるんじゃしな」


「いや、彼女ではな……もういねぇ」

「あらあら、相変わらずせっかちねぇゲンさんは」

「今の人は……?」

「ゲンさんって言って、この商店街の会長さん? みたいな人かな」

「みたいなって……」

「私もあまり詳しくは知らないんだけどね~。お店出すときに色々お世話してくれた人なのよ」


 聞けば相当面倒見のいいジジイらしい。

 エロいけど。

 このメイドさんに限らず、ここにお店を出している人はみな、資金やら店舗やらあのジジイが都合をつけてくれているとのこと。

 このご時世に人情優先の珍しいタイプの人間のようだ。

 エロいけど。

 

「他のお店は見てみた? うち以外にもいいお店いっぱいあるのよ~」

「えぇ、隣の店もこれから行ってみようかと」

「あ、スーさんのお店ね~。ちょっと気難しいとこあるけど、根は良い人よ~。作ってるものも本当にいいものよ~」

「ありがとうございます。お邪魔しました」

「あ、ゆー兄待って。……すみません、この指輪おいくらですか?」

「買おうとしてるんじゃない。誰を呪うつもりだお前は」


 こいつ声がマジだった。

 このままでは未来永劫片時も離れることの出来ない誰かと誰かが誕生してしまう。

 一刻も早くこの場を立ち去るべく、茉莉の手を引いて店を出る。


「いってらっしゃ~い、また来てね~」


 メイドのカレナさんに見送られ、俺達は隣の店へと移っていった。

エルフの最初のキャラ設定はGATEのテュカみたいな感じだったんだが

どうしてこうなった。

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