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黎明  作者: 明月 えま
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書記官への道

 もうすぐ春になろうとしていた。


 学院も卒業した。


 父の助力もあり、私は王城の図書室に勤務することが決まった。図書の把握は文官にとっても重要な事。特に、書記官を目指す者の入り口でもあったのだ。


 無数にある蔵書を把握し、王国の歴史を学ぶ。


 一般業務につく文官、見習いとなり、まだ、禁書庫への出入りはできない。

 禁書庫にも二つのランクがある。一つは高等書記官が閲覧できるもの。一つはさらに上の王族や、宰相閣下など、国の要職についているものだけが閲覧を許されるもの。


 もちろん、禁書庫の出入りは魔術で管理されており、普通に入室などできない。新しい環境に慣れるように、ひたすら、書物を読んで学ぶ日々を過ごす。地味だ。記憶力が悪いわけではない。だが、肩がこる。目が疲れる。



 四月になり、王城内図書室勤務が始まった。

 ここには多数の文官だけでなく、武官も通う。取り揃えている蔵書量が国一番だからだ。本は部屋には収まらず、増築を繰り返し、やや歪な形をしている。1室、2室、3室と数えていって、7室まである。そして、1室の奥に高等書記官までが出入りできる禁書庫の入り口。2室の奥に更に機密とされる文書の禁書室となっている。


 時折、宰相閣下がお見えになる。だが、私はまだ駆け出しで、そうそう話しかけていいお方ではない。視線が合うと、少し、微笑み返して下さるが、王城内で会う宰相閣下は黒の宰相と呼ばれ、笑顔の奥に底知れぬ恐ろしさを感じるのだった。


 季節は夏になり、秋になり、あっという間に冬になる。


 父は、私の縁談は全て断ってくれているようだ。貴族の中に、図書室で働く私を見初める物好きがいるらしい。月に一回ぐらい、辞めたくならない?と、確認される。

 多分、辞めたいという意思表示をすると、すぐに縁談を勧められるのだろう。今でも、想いは変わっていないのかという、確認なのだ。


 正直、結婚には全く興味が無かった。上位貴族からも婚約の打診があったと後から母に聞いた。そういえば、図書室に熱心に通っていた公爵家の息子がいたな。やたらと話しかけられたが、仕事中なので迷惑極まりなかった。相手があの彼だとすると、断って正解だと思った。彼だったかは、分からないが。


 伯爵家のイング家が上位貴族の申し出を蹴ることができるのは、旧家であり、王国の歴史を綴る要職についているからだ。当代のイング家当主は王国の歴史を綴る。それには、表と裏がある。


 表は一般に広く公開されるもの。裏は、国として公表できないもの。当主家はその裏の歴史を、過去約百年間分だけを次代に伝える。百年以上昔の出来事は、国の要職にある者しか閲覧出来ない。


 裏を知るイング家は、王家によって手厚く保護されている。だが、代わりに大きな権力を持たせぬよう、伯爵家以上になることも無い。



 冬の夜会に久しぶりにイング家の令嬢として出席した。

 秋までは、仕事を覚える為に控えて来たのだ。頑張ったおかげで、来年の春は文官室に異動できるかもしれないという期待もある。


 久しぶりの豪華な王城広間。キラキラと輝く天井と、壁に描かれた美しい細密画。王城に勤務していることで、知り合いも増えた。挨拶回りを終え、知り合いと話していると、とある伯爵家の令嬢に絡まれた。


「あらあら。イング家のお嬢様は、お仕事をしないと食べていけないなんて、お気の毒ね。」


 なあに?この方。


 上から目線の不躾な態度に内心、苛立ちを覚えるが、ここで問題を起こす訳にはいかない。さらに、我が家を貶めるかのような発言。この令嬢、同じ伯爵家で、商家を沢山抱えて裕福な生活をしているのは知っているが、本質が見えていないと。


 誰に喧嘩を売っていると思っているのだろう。


 愚かだな。王家や要職の者に繋がりの深い我が家を貶めようとするなんて。だが、自分も育てられ方によっては、そうであったのかもしれないと思えば、スッと冷静さが戻ってくる。


「イングは常々、王家にお仕えしておりますれば。イングの名に恥じぬよう、努力している所でございます。」

 王家を匂わせてニッコリ笑って返してやると、少し相手が怯む。これくらいで狼狽えるのならば、初めから喧嘩なんか売って来るなよ。


 その後、夜会での情報収集の結果、私が話していた貴族子息の中に、彼女の意中の方がいるらしいと知った。本当に馬鹿馬鹿しい。そんな息子、くれてやるから、絡んで来ないでほしい。


 本当は、今もルークスタッド様が好きなのかはわからない。だが、接点を持とうにも、何もなかった。あんなに、お父様は自信あり気に長期戦だよと言われたのに。ただ、自分の中で想いだけが強くなっている。相手を美化しすぎているのかもしれない。


 でも、ただ、私を見てほしかった。言葉を交わしたかった。


 報われない恋でもいい。その時は、書記官として一生を終えればいい。


 すでに評価は最低のはずだ。最低から始まれば、上に上がるしかないだろうと思って努力をしている。あの人の事を、よく知らないまま。


 幻想を追いかけるように、夜会でも姿を探す。


 でも、王城に勤務してからも、ほとんど彼を見かけた事が無い。騎士団所属だそうだ。0団で。王族関係の。だから、あまり表に出ないと。


 今日もまた、姿すら見えなかった。


 落胆し、無意識に溜息が零れ落ちる。


 その後、普通に夜会は終わったのだが、お父様は急な仕事で王城に留まるとの事。お母様と二人で馬車に乗り込み、帰路につく。


 伯爵家までもう少しの所で、なぜか馬車が止まった。

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