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第三十八話

 これが初めてやるのだが、中々面白かった。

 途中で画面が止まることもあって、そうしたら隣のノートパソコンに原因などを書いていくだけのアルバイトだった。

 このゲームは初めて遊ぶが、それぞれのサムライ達が刀を基本とする武器を使って戦うゲームだった。

 ダメージを受けると激怒ゲージが上がって、攻撃力が上がる一発逆転もある対戦格闘ゲームだ。

 武器同士を同時攻撃した時に起きる無防備状態や激怒ゲージを消費して使う特殊必殺技など、ウルフォ4とは違った面白さのあるゲームだった。

 俺はこのゲームがデバックするうちに、だんだん好きになっていった。

(やっぱり対戦格闘ゲームは面白いっ!)

 忘れていたことを思い出させてしまった。

 真柴は黙りながら、時々指示を出して俺に操作の命令などをした。

 最初は嫌な感じのする真柴だったが、段々と短い時間で慣れていった。

 仕事ってこういう人間関係とかが深く考えられなくなるものなのだろうか?

 俺の普段の感情が麻痺しているのかもしれない。

 そんなことを覚えながら、俺は真柴と一緒にデバックを続けた。



「今日はこんなもんだろ。後は俺がやるからお前は帰れ」

 真柴にそう言われてスマホを見ると、志穂や熊倉さんの言っていた平日のアルバイト終わりの時間だった。

「あ、はい。帰ります」

「無理に敬語使うなよ、苺大将」

「で、でも」

「黙って帰ればいい……ところでフジケンのバカは……元気か?」

「えっ? なんでうちの高校の先生の名前知っているんだ?」

 真柴は煙草をくわえて火をつけた。

 ここ喫煙しても良いんだっけ?

 一服すると真柴はこう言った。

「あそこは俺の母校、言わば俺はお前の先輩だ」

 意外な事実だった。

「熊倉さんから聞いた後で、あの志穂って女の子にもお前のこと聞いたよ」

 真柴が俺と同じ母校で先輩?

 マジかよ、世の中狭すぎ。

「フジケンは俺がゲームに夢中になってた頃によく叱られてな。今はあいつの言う通りに大学生になって気持ちの悪い『正しい大人』ってやつを目指す羽目になった」

 俺もその『正しい大人』ってやつに違和感を覚えていた。

 その時の真柴も俺と同じようにゲームを通して何かを目指して探しているのかもしれない気がした。

 俺は黙って真柴の話を聞くことにした。

「俺はお前くらいの年の頃にな。本当にやりたい仕事がゲーム関係のものだったんだ」

「はい」

「アルバイトもそこらのサラリーマンも結局は生活の為に働いているだけでよ。誰もが本当にやりたい仕事に就いている訳じゃないんだ」

「本当に……やりたい仕事……」

「まだお前くらいの年じゃわからないだろうがな。」

 真柴は言葉を続ける。

「俺は今でもフジケンの言葉を覚えている。お前はゲームばかりでゴミみたいな人生を送りたいのか? って言葉をな」

「俺も言われた」

「だろうな、今はそんなあいつの言葉と戦っているんだよ、俺はさ。来年で大学4年生だ。もう絶対に就活しなきゃいけない。だけど、俺は卒業後もここで働きたいと思い続けている」

 真柴は俺を真剣なまなざしで見た。

「ゲームは『商品』だ。同じものがいつまでもあるわけじゃない。だけど俺はゲーム会社の業界で働き、商品扱いされて無くなるかもしれない格闘ゲームを世代を越えても残したい。それが俺の望む俺だけの『正しい大人』だ」

 その言葉がなんだかとても純粋で真柴の寂しい気持ちが届いた気がした。

 ゲームは商品。

 確かにそうかもしれない。

 真柴は俺を見て、話を続ける。

「俺は新しい格闘ゲームを作る夢のために、ここでデバック以外にも色々覚えている。そういう進路もある。俺は間違いだと言われても、過程を得てそうじゃないと言う結果で示してみたい」

 過程を得ての結果か。

「真柴さん」

「あん?」

「俺もその言葉を聞いて、一か月だけど考えてみたい」

「そうだな……お前なりに考えろ……俺はお前に義務とかそういう強要はしていない」

 俺は真柴に頭を下げた。

「一か月よろしくお願いします」

 頭を上げて顔を見ると、真柴は少し驚いた表情をしていた。

 そして静かに笑った。

「あのな、お前覚えているか? 対戦前に俺がお前に言った言葉」

「ええと?」

「努力だけではどうにもできない下級ゲーマーの実態をお前自身で知るだろうって言葉」

「ああっ! はい! 覚えてます」

「あれな、お前も俺と同じ間違いを起こすかもしれないリスクにだけはなるなって言う言葉の裏返しだ。もう帰れ、後悔する選択だけはするな。お前らしい選択をしろ」

 不器用なんだな、真柴さんって。

 なんかゲームにムキになっている俺みたいだな。

 カルロに負けたこと言うべきかな?

「あの、真柴さん……実は……」

「いいから帰れ」

「はい」

 俺はそう言われて会社を出た。

 帰りの電車で考えた。

 俺の選択肢をバカなりに考えた。

 もう一度アイツに挑むべきか?


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