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第三十六話

 熊倉さんはスマホ画面を見る。

 そして電話に出る前に立ち上がってこう言った。

「すまない君たち、ちょっと外れる。志穂ちゃんも来てくれないか?」

 呼ばれた志穂が不思議な顔をする。

「あっ、はい」

 そう言って、玄関前に志穂と熊倉さんは行ってしまった。

 会話のようなものが聞こえるが、内容までは聞けなかった。

 俺と大槍だけのまた長い沈黙が始まる。

 俺はフジケンの言葉を思い出して、大槍に話しかけた。

「なあ、大槍」

「何だ? どうしたじゃんか?」

「俺たちってさ、まだ先のことだけど、いつかは就職したり、大学に進学して将来社会に貢献して役に立つことするよな?」

「は? そうだけどさ。それがどうしたじゃんか?」

「フジケンがそう言ってたんだ。大人になるって言うのはそういうことだって」

 大槍は黙って俺の話を聞いていた。

 俺は話を続ける。

「フジケンの話を要約すると、まっとうな職に就いて、老後までまっとうに生きる。それが正しい一人前の社会人という世間のお手本になるってさ」

「正しい?」

「ああ。だからいつまでもこんなゲームやっていることなんて、俺たちにはいいはずがないんだよ」

 大槍は俺を見て、静かにそしてこう言った。

「そりゃあ他にも楽しいこともあるじゃんか。やらなきゃいけないこともあるじゃんか」

「だろ? 大槍もフジケンの言う通りだと思うだろう?」

 しかし大槍は次に大きな声を出して、俺の肩を叩いた。

「でもそんなことゲームバカのお前口から聞きたくなかったじゃんかっ!」

 俺はイラっとして言い返した。

「フジケンが言ってたことなんだ。世の中そうなっているから、ゲームなんて必要ないだろ? 仕方ないだろ?」

「世の中って何だよ! 俺たちが大人になったら世の中が変わっていくことだってあるじゃんか!」

 俺は黙る。

 黙って聞くことにする。

「俺らより多少長く生きているフジケンがそう言うから、お前そのままそれが正しいと思って信じるのかよっ!」

 俺は黙っていたが、その言葉にイラついて言い返す。

「仕方ないだろっ!」

「仕方ないで済ませて、お前それでいいのかよっ!」

「大槍君、沖田君。喧嘩は止めて」

 志穂の声が聞こえたので俺たちは息を切らして、お互いに黙った。

「沖田君。突然だけど、来週からアルバイトしてみない?」

「志穂。アルバイトって、いきなりなんだよ?」

「そこは私が志穂ちゃんの代わりに説明する。ゲームのデバックのアルバイトだよ」

「熊倉さん俺は……もうゲームなんてやらないって……」

「わかっている。ただの新作格闘ゲームのデバックだよ。対戦じゃない」

 熊倉さんがそう言って、志穂が俺の隣に座って説明した。

「2年後にアーケードで稼働する予定の対戦格闘ゲームだよ。そのゲーム会社は志穂ちゃんのお父さんの同期の友達が社長として経営していてね」

 志穂のお父さんの友達が経営?

 志穂って直接ではないけど、ゲームに関係してたんだな。

 熊倉さんは話を続ける。

「平日は午後6時から午後8時まで、休日は午前10時から午後6時までのアルバイトをしてみないか?」

 俺がアルバイトなんて今までしたことないけど、対戦じゃないならいいかな?

 でもゲームだろ?

 そんな俺に志穂が俺の肩をポンッと叩く。

「大丈夫だよ、沖田君。お父さんには私がさっき言ってたから履歴書だけ作って私に渡してね」

「け、けどよ。いきなりアルバイトなんて……そりゃうちの学校ではアルバイトは深夜を除けば良いって……校則に書いてあるけどさ」

「それならやっても大丈夫だよね?」

 志穂がそう言う。

「履歴書を志穂ちゃんに渡したら、この住所まで言って5階の社長室にいってくれ」

 熊倉さんはそう言って、住所の書かれた紙を俺に渡した。

 ただの対戦じゃない、ゲームのデバックなら対戦じゃないし、別にいいか。

「わかったよ。明後日までには履歴書書いてくる」

「決まりだな。雨もやんだようだし、時間ももう遅い。君たちは帰りたまえ」

 熊倉さんはそう言って、俺達はそれぞれ家に帰って行った。

 ジャージは明日返すことを熊倉さんに約束して、俺は最後に部屋を出た。


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