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第二十八話

 それにしても一回戦ということもあって、緊張もあったが気持ちよく勝てて良かった。

 テストで満点を取る気分とは違う喜びだと思う。

 そして俺は50位の相手にこれだけ戦えたんだ。

 先ほどの大勢の人に認められたことをとりあえず心の奥に閉まった。

 その閉まった後に達成感と喜びが混じり合った気持ちが出た。

 だがテストで満点なんて小学校の頃から一度もないが、そんなことよりも勝ったことが嬉しかった。

「マジかよ……このキャラで俺は50位に入っているんだぞ。五万人以上いるプレイヤーの中でこの50位の上位ランカーのこの俺が負けるなんて……」

 そう言った真柴は、筐体の椅子のそばで立っている俺に近づき、同じく立ったまま俺を見る。

 そして口を開いてこう言った。

「苺大将っ! その名前と顔は確かに覚えたからな。今度は負けねえぞ」

 そういって真柴は早歩きで階段まで進んで、アドアーズの地下のゲームセンターコーナーから出て行った。

「あの、すいません……次俺なんで……もういいっすか?」

 後ろで次の試合をする白い毛糸の帽子を被った大学生風の茶髪のお兄さんが俺に呼び掛けた。

「あっ、すいません。どうぞ」

 俺は慌てて次の人に席を譲る。

 そして対戦する相手から少し離れたところにいるギャラリーの中に混ざった。

 少し離れたところで席を譲った次のプレイヤーの戦い方を見ていた。

 しばらく見ていると、アロハシャツを着た中年の男に話しかけられた。

「君、たしかこのアドアーズで噂になっている無敗の苺大将君だよね? 俺の試合が始まるまで俺と一回だけでも良いから野試合してくれないかな? 君と対戦して君が世界一のプレイヤーになった時に周りに対戦したことを自慢したいんだ。おっと、プレッシャーをかけているつもりはないよ。どうかな?」

 そう言って、その人は野試合用の筐体に座る。

(まぁ、野試合も公式試合も無料でプレイできるし、対戦する必要ないとは思ったが念のためにこの野試合でわざと負けて、そんで相手の勝ちパターンなどを研究して実戦での感覚もつかむか)

 さっきあんなことがあったのに、今はいつもと変わらない俺がいた。

 感動ってものは一瞬で過ぎ去るようなものだと、この時に実感した。

 一瞬で通り過ぎるものだから、感動は普段からないものなのかもしれない。

 そんなことをバカな俺なりに考えて、そう思った。

 そうして他の試合に参加するギャラリーだった人や、大会に出るプレイヤーと戦うがどの相手も真柴ほど強くはなかった。

 2回戦から決勝までは長かったが、相手は真柴より弱かったので本戦はすぐに終わった。

 試合内容としては必殺技のアッパーで倒したり、時間判定でこっちの体力が上の状態で勝てたし、ガチャガチャとボタンやレバーをめちゃくちゃに入力しているどう見ても大会記念参加の初心者プレイヤーの行動の読めない展開もあったが、負けることはなかった。

 真柴ほどではない強さの人もたくさんいたが、なんとか普段の実力を出して倒した。

 決勝の相手は全国ランキング1400位のエイリアンみたいな人外のキャラを使っていたが、ノーダメージであっさり勝てた。

 店員がマイクで大きな声で話した。

「地域大会突破おめでとうございます。楽しいファイトでしたね。全国大会のチケットを苺大将選手にプレゼントします」

 周りのギャラリーから、おめでとうという声が聞こえる。

 拍手の嵐が地下のゲームセンターに響き渡る。

 今なら俺に説教していたフジケンにも言える。

 こういう言葉に出来ないことが格闘ゲームにはある。

 こんな気分は格闘ゲーム以外では決して味わえない。

 それを伝えても、たぶんフジケンはわかってくれないだろう。

 それでもいい。

 俺は何かに本気になれないままだが、格闘ゲームを通して出てくる『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化への答えに向かって進むだけだ。

 そして真柴の対戦の時に聞こえたあの声は、地域大会が終わっても二度と聞くことは無かった。

 店員から全国大会のチケットを貰い見てみると、開催日時は10月の初めのようだ。

 その間にもっと熊倉さんとかと練習しようと思った。

「お疲れ様」

 ゲームセンターを出ようと階段を登ろうとすると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ると、そこには参加費を払った時の店長らしいあの店員の人がいた。

「やっぱり勝てると思っていたよ」

 この人のおかげでリラックスできたし、感謝して話しておこう。

 でも志穂との約束まで時間をかけないように短めにしよう。

「あっ、あの時はありがとうございます」

「何かお礼でもされることしたかな?」

「はいっ! 参加登録後に話してて、リラックスしていつも通りに対戦出来ました」

「そうだったんだ。いやー、よかった。全国でも頑張ってね。優勝したらウチのお店に凄いプレイヤーがいるって聞いて、たくさんの人が来るからね。はっはっはっ!」

 そう言って、その店長らしい店員さんは持ち場らしい場所に戻っていった。

「……本当に……ありがとうございました」

 小声そう言って階段を上った。

 スマホを見ると、もう授業が終わる17時だ。

 公式試合が終わったので、その後の野試合を申し込むプレイヤー達を断りながら、志穂のいる公園に向かった。

 公園に向かう途中で思っていたことがあった。

 それは一つの疑問だった。

(なぜ熊倉さんは大会に出なかったのか?)

 それは考えても答えが出ないままだった。


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