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第二十三話

 2回のコールの後に母親が出た。

「何? あんた忘れ物でもしたの?」

 母親の声が聞こえたので、俺は歩きながら昨夜から考えていた嘘をついた。

「いや、なんか昨日あたりから熱が出てた気がして、さっき外に出てたら頭も痛くなったんだよ」

「なんで学校行く前に言わなかったのよ? 今から家に戻れるの?」

「ちょっと今しんどくて歩けそうにないから、落ち着いたら家に戻るよ」

「わかったわ。学校には欠席するって言っておくから早めに戻りなさいよ」

「うん。わかった」

 電話を切って俺はアドアーズの店内に入っていった。

(母さん、嘘ついてごめんな。けど俺嘘をついてでも試してみたいんだ。社会に出ても俺が今からやっていくことはもしかしたら……もしかしたら本当にフジケンの言うように無駄なことかもしれないけど……どんなことでも試してもいないのに出来るはずがないと決めつけて、それで諦めるなんておかしいと思うからやってやるんだっ!)

 そう思って、俺はゲームセンターの大会が行われる地下の階段を降りていく。

 いつもの俺が通っている馴染みのゲームセンターなのに、初めての大会で雰囲気がちょっと違う気がして緊張していた。

(はたして俺は全国大会へ行ける腕なのだろうか? いや優勝できるはずだ。優勝できる理由はある。それは俺はこのゲームセンターでの店内対戦では負けなしだったからということだ。だから学校の放課後によく通い続けたこのゲームセンターでは、どんな奴が相手だろうが勝てる自信があるから大丈夫だ)

 格闘ゲームのコーナーに着くといつもより多くのプレイヤーがいた。

 サラリーマン風のスーツを着た男にアロハシャツを着た中年オヤジ、俺と同じように学校をさぼったと思える俺と歳は同じくらいのぼさぼさ髪の男、大学生に思える男性とキャスケット帽が目立つ大学生くらいの女性など色んな人達がウルフォ4を公式試合前の野試合で遊んでいる。

 ネットでかじった知識だが、ゲームセンターなどの対戦格闘ゲームなどの大会がある日は参加費さえ払えばその大会の競技となる作品が入っている筐体のゲームは無料で遊べるらしい。

 公式試合が行われる前や終わるまでの間にそういった無料プレイできる他の筐体で対戦することを野試合というらしい。

 これにはメリットとデメリットがあるように俺は思えた。

 メリットは相手の戦い方や実力が少しでもわかること。

 逆にデメリットはこちらが野試合で手の内まで見せていたら、いざ始まる公式試合で見破られているため負ける確率が高いということだ。

 もし野試合するならこちらは手加減してわざと弱いふりをして、相手の実力を把握しておこう。

 人数が異常に多かった。

 関東代表を選ぶ大会だから、いろんな所から来たんだろう。

 みんな強そうに見えたが、俺も強いんだと思い、ゆっくりと足に力を入れて歩いた。

 エプロンをつけた店長と思える人物がいたので、話しかけた。

「あの……今日行われるウルトラストリートファイト4の大会に出たいんですが……」

「おおっ! 君もかい。じゃあこのエントリーシートにプレイヤー名を書いて500円払ってくれるかな?」

 俺は大会に出場できることがまるで高校受験で合格した時のような喜びが出て、いよいよ俺の対戦が始まるっと興奮していた。

「わかりました」

 大会エントリー用紙に名前を書いて、参加費の500円を払う。

「君さ、うちの店によく来るよね?」

 ハンドルネームである名前を書き終わった後に、その店長らしい人がそう言った。

 黙ったままというのも精神衛生上よろしくない気もしたので、答える言葉を短めにして答えた。

「はい、まぁ、来ますね」

「今日は関東から凄腕の人らが集まっているから、いつもの店の雰囲気と違うかもしれないけど、君が勝つと思っているよ。店側としても常連の人が勝ってほしいしね。いつも通り頑張って、練習を本番。本番を練習だと思って対戦すれば大丈夫だよ」

 そう言って、その店長らしき人は口を開いて歯が見える笑顔を見せた。

 なんだか、このやり取りでリラックスできた気がしたのでお礼を言うことにした。

「はい、ありがとうございます。頑張ります」

 この短いやり取りをした後に、大会に登録する次の人が後ろにいたので、俺はさっさと試合のある筐体の方に向かった。

 大会前に野試合で戦っている人が多かった。

 空いている筐体が無かったので練習は出来なかったが、昨日まででかなり対戦したので今練習を兼ねた野試合しなくて大丈夫だろう。

(以前熊倉さんが言ったように俺にはプロゲーマーの素質が本当にあるのだろうか?)

 そんなことを考えていたら、いよいよアドアーズの地域大会が始まり動画配信のテストを店員がして、俺の一回戦の相手が大きな画面に映ったトーナメント表で決まった。

 俺の一回戦の相手は真柴という名前のプレイヤーだった。

「おい、聞いたかよ。この大会全国50位がいるらしいぜ」

「マジかよ。俺全国大会行けねーじゃん」

 ギャラリーが騒ぐ。

「お前が俺の一回戦の相手のちょっと有名な平日負けなし野郎か?」

 髪が天然パーマの大学生くらいの年齢の男が俺に声をかけた。


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