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豊穣の女神は長生きしたい  作者: うすいかつら
第六章

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第60話

 この窓から出るにも、いろいろ準備がいる。

 まずは窓が開かないと話にならないので、開けてみた。

 鍵はあったけど内鍵で、留め具を外したら横開きに開いた。


 次にカーテンを外さないといけない。

 カーテンの上部はわたしの身長よりずっと高いところにあるので、踏み台がいる。

 部屋を見回して、椅子とテーブルに目を付けた。

 お茶会にでも使うような、優雅な椅子とテーブル。

 まずは椅子を一つ窓際まで持ってきて、上に乗る。

 その上で背伸びをしたら、どうにかぎりぎりカーテンの上の留め具に手が届く。

 そうして窓の両側に寄せて結わき留められたカーテンのうち、一枚を窓から外した。


 次は、お話だったらこうよね……とカーテンを裂こうとしてみたけど、これはできなかった。

 小説なんかじゃ女の子でもびりびりっとシーツやカーテンを裂いてた気がするけれど、わたしの力じゃほんのちょっとも裂けない。

 わたしに腕力がないせいか、王宮のカーテンが厚手だったせいか、はたまたお話は所詮フィクションだったというせいなのかはわからないけど、とにかくカーテンを裂いて長さを増すことはできなかった。


 だけど、絶望するには及ばない。

 この部屋は窓が二つあって、その二つに二枚ずつカーテンが下がっているから、全部外せば四枚。

 繋げれば、それなりの長さになる。

 この部屋は二階だから、それできっと足りる。


 結び目のロスが大きくて足りなくても、自分の身長分は足せる。

 ちょっとくらいなら、飛び降りてもどうにかなる。

 ということで、残り三枚のカーテンも外す。


 窓際の作業だから外から見えて見つからないか少しひやひやしたけど、意外に下を歩いてる人はすぐ上の窓は見上げないものだなと思った。

 まあ、普通、前を見て歩くよね……

 副宮と少しずれて建っているのも助けになったかもしれない。


 無事カーテンを外して、それを斜めになるように端と端を結わいて、長く繋げた。


 次は、これの端を留めておく場所。

 あるいは錘。

 伝って降りるなら、わたしの体重を支えられないといけない。

 窓のところにカーテンの端を結んで留めておけるような場所はなく、これはもう部屋の中に一つしか該当しそうなものはなかった。


 テーブルだ。


 持ち上がらなかったのでずりずりと押して、テーブルを窓際まで寄せる。

 その脚にカーテンを結びつける。

 わたしの体重よりはまずこのテーブルは軽いから、これでは錘として不十分だ。

 でも窓にひっかかってくれれば、少しはもつかも。


 これで、準備は終わり。


 でも準備が終わっても、さあ実行、とはいかなかった。


 下の人通りが、思った以上に途切れない。

 外の人通りは多くなったり少なくなったりと波はあるけれど、今のところ途絶えたと思えるところまで少なくならない。

 たまに王宮騎士、あるいは近衛騎士と思われる人も足早に通りすぎていく。


 今は椅子を踏み台にして、錘の役目をするテーブルの上に乗っている。

 そうでないと、いざって時にすぐ飛び降りることはできないから。

 窓の高さはそれなりのところまであるから、ドレスなんて着てるとよじ登って跨ぐなんて、さっとはできない。

 それでチャンスを逃さないように窓枠の影に潜むようにしながら覗いているけど、騎士が通る時には慌てて隠れた。


 通り過ぎた頃合を見計らって、また覗く。


 探されている、と思う。

 下を走って行ったり、周りを注意深く見ながらも早足で行く騎士たちは、だいたい二人一組だ。

 そのすべてではないかもしれないけれど、そのほとんどは男女二人組だった。

 男性同士の組み合わせは、多分いない。

 男性では、わたしを傷付けずに確保できないからだろうと思う。

 そこまでなりふり構わずじゃなかったことに感謝をするべきか、そこまで本気なことを怖れるべきか。


 よく考えれば、魔女二人とは連絡の取りようがない。

 そして連絡が取れなければ居場所がわからないことは、ヒースの行方が掴めなくなった時にわかっている。

 そうすると、捜索の人手が多いエドウィン王子が有利だ。


 ここに落ちてから一度も開けてない扉を、ちらっと見た。

 あの扉の向こうからは、たまにやっぱり足音が聞こえる。

 まだ入って来ようという人はいないけれど、足音がするから怖くて中からは開けられない。


 本当は開けて、廊下の様子も窺った方がいいと何度も考えたけど。

 ここにわたしがいるとわかってしまったら、最初に見つけた人に悪気はなくても黙っていてもらうのは難しい気がするから。


 誰もそんなことは言わないけど……

 だから被害妄想だ、と、自分でもたまに思うけど。

 ある意味わたしが立って歩く災害なのは、やっぱり事実だから、黙っていてほしいというのは難しいお願いだろう。


 誰かが扉を開けたなら、すぐに飛び降りられるようにカーテンはずっと握っている。


 誰が開けるか。

 その前に人通りが途絶えて、降りて逃げられるか。


 そう思っているうちに、近くの扉が閉められた音が聞こえた気がした。

 扉は重厚で、開ける時には音がしなくても、閉める時にはそれが響くんだろう。

 どのくらい近くかは、よくわからない。

 しばらくして、また音がした。


 ――誰かが、部屋の扉を開けて回っている。


 一瞬頭が真っ白になりかけたけど、それどころじゃないってハッと思って、慌てて窓を開けた。


 扉が閉まる音は、少しずつ大きくなる。

 近付いてる証拠だ。

 この部屋だけ見逃してくれる、なんて、期待できるはずない。

 外は――まだ人通りがある。


 扉が開く前に飛び降りるべきか。

 奇跡が起こって、部屋を一つ一つ改めている人たちが引き返してくれるのを祈って、ぎりぎりまで待つか。


 あるいはあれがミルラかヒルダのものだっていう、もう一つの奇跡を祈るべきか。


 緊張でどうにかなりそう。

 心臓がうるさい。

 そう思ってるうちに、扉が開いた。


「女神様!」


 ……やっぱり奇跡なんて起こらなかった。

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