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豊穣の女神は長生きしたい  作者: うすいかつら
第六章

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第46話

 王様はまずヒースが王宮に帰ってきたこと、ヒースに連れられてきたわたしが『女神』であること、わたしがヒースの妃であること、そしてヒースが王太子に戻ること……を布告した。

 布告は同時なのだけれど、出来事の順番、つまり因果関係は前述の通りだ。


 ヒースが嫁を連れて帰ってきたけど、その嫁が女神だから、ヒースを王太子に戻すよってこと。

 通常と逆だ。

 逆なんだけど、最終形は正しくなる。


 ただ本来はそうだからというだけで、いきなりヒースが王太子に戻るよりはスムーズだろうという、あの宰相様の知恵だった。

 実際、この理屈にけっこうな人が騙された。

 『女神は王宮で保護されたら王か王太子の後宮に入る』という話だけが有名だから、「本来は」のヒースと「一度権利が移ったんだし」のエドウィン王子の、決め手に欠ける争いになりそうな二人の間では有効だったようだ。


 また女神であることがバラされた以上、謎を残すわけにもいかないってことで手枷の理由もバラすことになった。

 それで、この手枷で女神の不随意で作用する力の範囲を狭めているのだということも別に告知された。

 そして、『手枷の女神』というなんだか不本意な気がする呼び名が気が付いたら定着していた。


 ただ、ヒースが王太子に戻っても、わたしが女神としてその後宮にいることになっても、全部が解決したわけじゃない。

 エドウィン王子は今も王宮にいて王位継承権第二位を持ち、二人の弟妹の死因について改められたものはない。

 お触れが出たいくつかのこと以外には、何か変わることなく、今も『手枷の女神』ことわたしはアルド離宮でヒースといっしょに暮らしている。


 いや、何も変わることがなく、というのは間違いかもしれない。

 一つ変われば、その変わったことに伴って他も変わる。


 今までになく近くまで寄れる女神であると知られたわけで、わたしには今までの女神にはなかった要望が向けられるようになった。

 そう、夜会に出てきてほしいというのだ。


 ――いやいや、無理でしょう。

 それ、人たくさんいるよね?


 個人差があるけど、影響が出ないと言える距離は一メートルくらいだ。

 でも直径にすると二メートルというところで、それはけっこう広い。


 しかも今までと比べたら人は近寄れるけど、今までとは違う理由でヒキコモリだ。

 ヒキコモリの理由は、もちろん誘拐を警戒して。


 そんな事情もあるから、のこのこと外へなんて出ていけない。

 もちろんヒースも許さない。


 幸い、わたしはヒースのお妃様扱いで――やっぱり区別はよくわからないけど、多分愛妾なんだろうなと思う――妃に直接招待状を送るなんてことは、よっぽどの身分の人でもありえないらしい。

 でも、招くことはありえないけど、行きたいと言えば行けるらしい。


 だから遠回しに、遠回しに、わたしに近しい人お世話になっている人に声が届くらしい。

 主にヒースとバルフ家の人たちに。


 身の回りの世話をしてくれてる侍女さんたちと女官さんのところには、その辺どう思っているのか探りを入れてくるらしい。


 どう思うもこう思うもないよねぇ。

 ないよ。

 ないない。

 いろんな意味で無理だよね。

 長生きのためには、無理しちゃいけない。


 わたしは、そうわかってるつもりだった。

 なんだけど。


「まあ、素敵……!」


 うふふ、と楽しげに笑うのはミルラが連れてきた新しい女性。

 侍女役の人はミルラと彼女、ヒルダで二人に増えた。


「きっと殿下もめろめろですわよ」


 もう一人は、女官としてわたし付きになったというフランシスカ。

 ヒースが戻ったと聞いて、たまたまあの日に塔まで様子を見に来ていたという、かつて塔にいた貴族で既婚者のフランシスカが専任の女官を引き受けてくれたのだそう。


 ミルラが塔でスカウトしてきたわけで、二人とも魔女だ。

 ヒルダとフランシスカはまだあまり表沙汰にできない時点で侍女と女官に志願してくれて、ヒースにもわたしにも好意的な人だった。


 もしもヒースのことが好きだったなら、ヒースに協力したいと思っても、わたしには好意的になってくれないかもしれないと思っていた。

 だからわたしにも好意的な人が来てくれただけでありがたいと思ってる。

 思ってるんだけど……


 バルフのテレセおばさまが贈ってきたというドレスや靴を、ヒルダとフランシスカは次々と居室のテーブルに広げていった。


 ヒースはもちろん、ギルバートとかバルフの公爵様とかは、わたしを外に出す気はないんだと思う。

 でもテレセおばさまは、ちょっと違うらしい。


 わたしが離宮で暮らし始めてから、もう既に新しいドレスが届くのは三回目だ。

 それは部屋着のようなものだけではなくて、どう見てもなんらかのパーティーで着るような豪華なものが毎回一着は混ざっている。

 そしてヒルダとフランシスカは、それを大変歓迎している。


 要は、女性陣は、わたしを着飾らせたいのだ……!

 わたしを外に出そうという積極的な意志があるわけじゃないけど、思う存分着飾らせる口実をほしいと思っている節は窺える。


「ふふ、これは試着いたしませんと」

「せめて殿下に見てもらいましょ?」


 ドレスを持って迫る二人に、一歩後退ってミルラを視線で探す。


 ミルラにはこういう方向の意向はない。

 だけど。

 視線の合ったミルラは、やっぱり一歩後退って、曖昧に微笑んだ。


 ――だけど、あんまり助けてもくれない。


 それでも、昼間は女四人だけになる離宮で、助けを求められる相手はミルラしかいないんだもの……


「……いや、あの、着るのもったいないし……」

「着ない方がもったいないですわよ」

「で、でも」


 わたしは、ドレスを着せられる過程を思い浮かべただけで涙目になる。

 ミルラがそういうことに疎かったから、ミルラだけが着付けの手伝いをしている時には、それほどドレスをいやだと思ってはいなかったんだけど……


「ささ、部屋着はお脱ぎくださいな。先に湯浴みします?」


 ぶんぶんと首を横に振る。


 お風呂も、この二人の手にかかると髪を洗ってもらうだけじゃすまない。

 自分で洗わせてくれるところは、どこにもない。


 ……どこにもないのよ……そりゃもう、死ぬほど恥ずかしいことに!

 迫る二人からは逃げ切れない。


 さあ、と手を伸ばされて……あっと言う間にひん剥かれた。





「まあ、本当、素敵! お似合いですわ」

「髪飾りは、お花にしましょ。黒の御髪には淡い色の花も映えるわよね」


 わたしは魂の抜けかかった状態で、二人の手で最後の仕上げの髪飾りをあれやこれやつけられていた。


 結局金と真珠のかんざしと生花の組み合わせで、本当にどこのパーティーに出かけるのかという豪華な結い髪になっている。

 淡い黄色とパールカラーの可愛いドレスには、とても良く合ってると思う。

 長い時間着せ替え人形になることもぐったりしてしまう理由の一つなんだけど、最大の問題は別のところにある。


 ……この二人は、コルセットを締めるのに、本当に容赦がないのだ……


 いや、部屋着の時までは、内蔵が出そうなほどは絞られないけど。

 でも着飾らせると思った時の力は、ホント尋常じゃない。

 着付けが終わるころには、目が虚ろになっている。


 普通の女性はこの一戦の後に出かけるのだと思うと、心から尊敬する。

 わたしには無理だ……


「殿下はいつごろお戻りになられるのかしら。はやくお見せしたいわ……!」


 それには正直に賛同する。


 ヒースに見せれば、これが脱げるのなら!

 早く帰ってきてと、心から願う……!

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