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第2話

「はい……異界より来たりし豊穣の女神様」


 豊穣の女神呼ばわりが謎だけど、天使様から異世界トリップだって宣告受けちゃったわ……

 天使様が口を開く度に次々と明らかになる事実に、息を呑む。


「わたしが違う世界から来たって……わかるの?」

「わかります。異界より来たる女性はすべて、この世界にとっての豊穣の女神。そして女神様はすぐにわかるのです。……男の欲望だけの獣に落とし、理性を奪うので」

「は?」

「私は、その、元々男としての機能が不全なので、女神様に無理を強いて傷付けることはございませんが……普通の男は女神様に近付けば獣と化しますので、ご注意ください」


 頬を染めて、天使様は俯きがちに言った。


 なんか、恥ずかしい告白をさせちゃったような気がする。

 男性の機能不全って、要は不能ってことだよね。


 羞恥に頬を染める天使様にドキドキして、わたしの方がケダモノになりそうだ……

 いやいや、天使だから、きっと男じゃないんだよ。

 恥ずかしがることはない……って言いたくなる。


 いやいやいや、今、天使様が言ったのって重要な話だ。

 わたしが近づくと、男性は見境なくケダモノと化して襲ってくるってこと?

 天使様が大丈夫なのは天使様だからってことで納得だけど、わたしってこの世界の男性に一切近づけないってことじゃない?


「男性って……女性と同数いる感じ?」

「……? 男女の数に特に差はないかと思います」


 おおう。

 世界の半分は男性で、その半分に注意って言われても。


「わたしの……異世界の女の何が悪くて、そんなことに」

「女神様は何も悪くありません。ただ、豊穣の力によって生殖能力が活発になりすぎるのです。そして女神様は人と同じ形をされていますので、男の欲望がそのまま向かってしまうだけなのです」


 え、なんか異世界トリップしてきた女が必ずもらえるチートが、なんかこう……

 チートって言うより呪いなんだけど!?


「男は皆そうなるので、女神様が男に囲まれれば男は我先にと女神様を、その、犯します。その場に女性がいれば、巻き込まれることもあります。狂った男に見境はありません。鉄のごとき強い意志で耐えた者の話も残っていますが、それはそんな者がいたと伝説のように残るほど稀です。女神様がどこに降臨されるかはその時によるので、大勢の中にいきなり現れてしまうこともあって、そんな時には男は周りの女性も襲い、女神様にももちろん群がって、女神様が命絶えても……」


 ひぃ……!

 これは巻き込まれた女性も相当いそうだ。


 まずい、狂わされる男にも巻き込まれる女にも恨まれまくりの予感がする。

 なんという異世界トリッパーが住みにくそうな世界。


「なんか、すごく、具体的なんだけど……もしかして、わたしみたいなの、結構頻繁にいるの?」

「頻繁というほどではありませんが、それなりにいらっしゃいます」


 それなりに。

 その数はいったい如何程か。


「その、わたしみたいな人たちって、元の世界に帰れるの?」

「…………」


 黙った。

 つまり、ここからは帰れないのか。


「その……そもそも最初の発見時に無事に救出できた例がそれほど多くはありません。生きて助けることができても、そこで心の壊れてしまう方も多く……その後がきちんと記録に残っている女神様は数少ないのですが、女神様が帰還されたという話は寡聞にして存じ上げません」


 ヤバい、それ以前だった。

 最初の試練を生き残れてない。


 そういえば言葉を濁してたけど、さっき生きてなさそうなことも言ってたな……

 たとえ助かっても壊れちゃうか……元の世界から引き離される異世界トリップに加えて強姦に輪姦ときたら、それは生き残れても心を病むわ。


「人のいる場所に降臨されると男に襲われます。また女神様の落下は場所を選びませんので、誰にも見つからない場所に落ち、そのまま朽ちてしまわれた方もいたのではないかと……人のいない場所に降臨された女神様に狩りや採集ができて一人で長く生き抜けることは、そう多くないでしょう。そして結局そういう女神様が、人里に接触された際にまず女性に会えて、上手く保護される可能性も……多くはないでしょう」


 どうやらわたしは今生きてるだけで、かなりラッキーらしい。


「私が女神様を発見した際、周りに人はいませんでしたので、まだ誰にも見つかる前だったと思ったのですが、そうではありませんでしたか? お具合は……」

「それは大丈夫、だと思う」


 この世界へのトリップに付属するチートに自動回復はついていなさそうだし、それで体がなんともないんだから、本当にこの天使様がわたしの第一発見者だったんだろう。


「あの」


 希望はいくつかあるんだけど、どこから告げるべきかを迷う。

 迷って、まずこれからだろうと思った。


「あなたのお名前は……?」


 女神様と呼ばれていると、なんともむず痒い。

 だと言うのに、ここで天使様と呼び返すことはできないだろう。

 それじゃあ女神だと呼ばれるのを肯定するみたいじゃない?


「これは申し訳ございません、女神様。私はヒースと申します」


 ヒース……普通にヨーロッパ圏っぽい名前で、発音できないようなものじゃない。


「ヒースさん、わたし、紗理奈っていいます」

「ただヒースとお呼びください。女神様はサリナ様とおっしゃられるのですね」


 うっ、呼び捨て依頼を先越された。

 いやいや、ここでひるんではいけない。


「わたしも女神様は止めて、紗理奈と呼んでもらえませんか?」


 少し戸惑うように、ヒースは軽く小首を傾げた。


 この美貌に困った顔で小首を傾げられると、衝動的に謝りたくなるわ。

 それでもヒースは強情ではないようだった。


「……はい、サリナ様」


 この美貌にちょっと恥ずかし気に頬を染めて呼ばれると……以下略、だけど。

 でも、まだ様が残ってる。


「できれば様付けもやめて、紗理奈と呼び捨ててほしいです。様なんてつけられる人間じゃないんです」

「いえ、それは、女神様ですので」

「……ヒース様」


 様付けで呼ぶというのをやり返すと、ヒースは眉根を寄せた。

 不快そうな表情は初めて見せたものだ。


 だけどそれも一瞬だった。


「おやめください。私は女神様にそのように敬われるような者ではありません」

「なら、お互い様なので、どちらも呼び捨てにしましょうよ。わたしのことも紗理奈と呼んでくれるなら、ヒースさんのことも、ただ名前で呼びますから」


 困ったようにヒースは目を伏せ、少し考え込む。


「そう……ですね。わかりました。サリナ様がそれでよろしいなら、そうしましょう。今から、お名前だけで呼ばせていただきます。敬称が口癖にならないほうが、安全かもしれません。ですから、サリナ様……サリナも、どうか、私のことをただヒースとお呼びください。丁寧にお話いただく必要もありません」

「そうするわ、ありがとう、ヒース。わたしにも丁寧に話す必要はないわ」

「いいえ、私はいつもこうですから……これはお許しいただけますか?」


 いつも誰にそんなに丁寧にへりくだるのか訊いてみたかったけれど、さすがにいきなり踏み込み過ぎかと踏みとどまった。


「それなら、しょうがないかしらね。でも跪くのはやめて、普通に座らない?」

「……それでは、そうさせていただきますね」


 椅子はある。

 書き物机のところにも、小さなテーブルのところにも。

 テーブルの方から木製の丸椅子を持ってきて、ヒースは腰を降ろした。


 それにしても、訊きたいことが増える。

 このまま話し続けてもいいんだろうか。


 ……全裸なんだけど。

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