表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豊穣の女神は長生きしたい  作者: うすいかつら
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/66

第19話

「少し前から刺客が女ばかりになったので、気が付いていますよ……兄上は」

「本当か」

「男だと、よほどの者でなければ、近付けば理性が吹っ飛んで役に立たないですからね。逃がした者を出したのは失敗でした」

「ふーん……」


 わたしが全然違うことに不安や羞恥を感じてる間にも、二人の会話は続いていた。

 わたしは耳半分にはなっていたけど、怪しい単語と、聞いたことのない話に、また気を引かれた。


 しかく?

 女ばかり?


 ……塔に来た客は、昨日とだいぶ前の二人だけだ。

 昨日の客はこの人たちだと思ったけど、違うんだろうか。


「つまり、理性が吹っ飛ぶ距離まで女神に近付かなけりゃ、おまえを仕留めることができない状況だったわけだ。おまえが起きてる時に仕掛けるのは無謀だから、そりゃ寝込みを襲う夜討ちになるのはわかるけどな」

「…………」


 …………

 夜の話は、プライベートだと思うんだけど、どうでしょう……


 いやいや、なんだろう、聞き捨てならないよね!

 夜に訪問者があったということなのか。

 わたしがヒースのベッドで、裸で寝てるような、そんな時間に!


 知らなかったよ……

 何を見られたんだろう……


 わたしの知らない危険があったことは察したけど、それ以上に恥ずかしくて泣きそうなんだけど……!


「まあ……そういうことです。どうにかできるならしてください」


 ヒースは冷笑を浮かべ、まだ剣を突きつけているギルバートを流し目で見遣る。


「だができないと認めるならば、私たちを行かせてほしい」


 ギルバートはわたしを見て、しばらく迷っていたようだった。

 やっと喉が動いたと思ったら、声が絞り出された。


「……駄目だ」


 ヒースの目が細められる。


「それで私が従うとでも?」

「女神ならなおのこと、逃がすわけにはいかんだろがよ。この国で女神を連れて安穏といられる場所なぞ、おまえにあるわけがない。なら行き先は他国だ。女神が国境を越えることを認めたとバレれば、俺だろうがおまえだろうが縛り首だ」


 ギルバートの言葉にぎくりとした。


 その話は聞いていたことだ――女神は、落ちてきた場所の国境を越えられない。

 だが、そんな厳罰が下されるものだとは知らなかった。


 自分を逃がしたらヒースは死刑になる。

 と、言われている。


「黙っていてくれれば、バレませんよ。兄上だって言わないでしょう。知っていて逃がしたと、罪に問われることぐらいはわかっているから。他に知る者がいたとして、口封じは勝手にやってくれますよ。女神がどこに落ちるか知る者はいないのです。幸い私は、関所を通らなくても国境を越えられますから」

「おまえな」


「百年、二百年という単位で『女神がどこに落ちてくるか』を察知する魔術は研究されていますが、まだ誰もその答を得られていません。それができるとなった魔法使いは、どれだけの高名を得られるかわからない。それこそ奪い合いで戦争が起こるでしょう」

「……まさかと思うが、おまえ、できるようになったのか?」


 ギルバートの窺うような様子に、やはりヒースは冷笑した。


「まさか」


 ヒースの即答に、ギルバートはやっぱり微妙な表情を浮かべた。

 それが嘘か真実か、判断に困っている顔だ。


「どうにかする」


 そして、何か苦いものを飲み込んだ顔で言った。


「どうやって」

「難しいことじゃない。おまえが戻ればいいだけだ」

「……私は一瞬であろうと、サリナを他の男に渡す気はないんです。戻れるかもわからないような、そんなことには賭けられません」

「戻れる」


 何に、だろう。

 そう、さっきから、会話の中でなんだかわざとボカされてるものがある気がする。

 明言を避けている、そういうものが。


「戻れる」


 ギルバートは苦しそうに首を振った。


「もう限界なんだ。王太子は殺しすぎた。誰だってわかるくらいのペースで死んでる。王位継承権者だけじゃないんだよ。その周りも巻き込んでるし、アダ姫もヘラルダ姫も他国に嫁ぐように婚約が決まってただろう。周辺国にも知られている。これ以上は、グランディルが続かなくなる。先のことよりも今なんだ」


 地を這うような、血を吐くような、そんな声だった。


「先日コルネリア家が取り潰された。もう従兄弟も俺だけだ」

「……敵を産むのは、血だけではないのに」

「わからないのか、気にしないのか、どっちだろうな。どっちにしろ……グランディルに、狂王を戴くことはできない」


 ボカされていても、もうわかる。

 いや、もうボカす気はなくなったのかと思う。

 口にするだけで罪に問われそうなことだから、遠回しにしていたんだと思う。


 でも……


「グランディルを救ってください、ヒースクリフ殿下。世継を作れないっていう、貴方の廃嫡の理由はもうないでしょう。女神とは子を為せるのですから。今まで、たまたまその血を引く王が出たことがないだけです」


 言葉遣いが変わるというのには、意味がある。

 ギルバートの言葉が礼儀正しくなったのを聞いた時、ヒースは折れるかもしれないなって思った。


 ヒースは、優しいから……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ