PVRMMO(Perfect Virtual Reality Massively Multiplayer Online)
仮想現実への完全なる民族大移動のために、完璧なVRが完成された。すべての個人情報を親会社に提供することで参加することができる究極のVR、それがPVRMMOだ。
ヘッドギアとグローブだけでなく、全身を覆うスーツによって全身の触覚を刺激することによって、現実と仮想現実のギャップを極限までなくした。これぞ究極の没入感だと誰もが認めた。
自分のしたいことがしたいようにでき、理想的な容貌と生活が手に入る。人間でなくても良い。好きな種族になることができる。もちろん何をやっても成功するし、お好みの難易度を設定すればそれなりに挫折も味わえる。天気や昼夜でさえ自分でコントロールでき、増やしたいだけ彼女や友達を増やすことができる。完璧だった。
β版でもバグは全く見られず、その開発過程までもが完璧だった。
リリースしてからすぐ、なにか欠点はないのかと世界中でPVRMMOの欠点探しが始まった。しかし完璧であるがゆえに現実と仮想現実の世界の見分けがつかなくなり、プレーヤーたちは吸い込まれるように没入していった。ゲーム世界の中での会話でも、「欠点探し」の単語は徐々に見られなくなっていった。
そんな中、一人暮らしのフリーターが現実逃避のためにPVRMMOに救いを求めた。彼は大学を出てから就職難民となり、30後半で未だに定職についたことがない。容姿でバカにされ、学力もなく、頼れる友人も家族もいなかった。
彼は仮想現実への完全なる移住を目的になけなしの貯金で機材を購入し、この世知辛い現実世界と決別するため、彼はスイッチを入れた。
完璧な容貌、完璧な友人たちと恋人たち、軽いジャブのような障害や挫折、さすがPVRMMO、これで彼の目的は達成されたかと思われた。
しかし、そこで違和感が生じた。尿意である。
完璧なVRMMOでも尿意のコントロール及び排泄装置のVR化はまだまだできていなかった。仮想現実への完全なる移住のためには、排泄という人間らしい行動がネックになっていることに彼は気付いた。ちょっとトイレに行ってくるという言葉を仮想の恋人に残し、ヘッドギアを外した。いつもの薄暗い部屋がそこにはあった。
トイレを済ませてもう一度ヘッドギアを装着する。輝かしい明るい世界がそこには広がっていた。なんて幸せなんだ、トイレ以外は一生ここで暮らせる!
彼は感動し、今までの辛かった人生を思い出し涙した。一応、自分の働いた対価で得たお金で自分の未来を切り開いたのである。彼は自らを誇り、そして仮想現実の世界にのめり込んでいった。
しかし、また悲劇が起きた。停電である。
実は彼、電気代を何ヶ月も滞納していた。今日とうとうストップされたのだ。
電気がないとインターネットにも繋げないしそもそも本体も動かない。理想の世界は一瞬にして4畳半のひび割れがある部屋に戻った。VR機器を揃えるためにお金を使い果たしてしまい、もう手元には小銭しか残っていない。結局お金に振り回されただけだったと彼は悟り、しばらくそこから動けなかった。
本当の意味での究極のPVRMMO、UPVRMMO(Ultimate Perfect Virtual Reality Massively Multiplayer Online)への道はまだまだ遠かったようだ。




