深夜、小石、夜警にて
「……………………む」
目が覚める。どうも、少し眠ってしまっていたらしい。
「おや、目が覚めたのかい?」
「……ああ、すいません。少し眠ってしまいました」
言って頭を下げる。
と、彼は少し慌てたように体の前で手を振った。
「いやいや、君はボランティアで協力してくれているだけだし、謝る必要なんて無いんだよ」
彼…騎士のダニエルさん。
学園組みの討伐した盗賊を連行にきた騎士達、その一人だ。
御巡りさん的な彼等は、もう一人が学園組みと一緒に盗賊たちを連行して帰っていったが、ダニエルさんはこの村に残って村民達の手当や夜警をしていた。
遠目に見ていたのだが、連中、村で俺に倒されたやつは、その大半がパーになっていたようだ。大人でも訓練しないと…いや、訓練したとして恐ろしいのが炎というものだ。磔にされて逃げる事も出来ず、いつ炎に巻かれるかもしれないという恐怖が、連中の精神を叩き壊したのだろう。ザマァ。生き残れただけでもラッキーだと思うんだがね。
まぁ、そんな連中を引き連れて都市まで戻らなきゃならない騎士さんは大変だろうとは思う。
南無。…あ、この世界では通じないのかな?
宗教とかも在るんだろうか…?
…っと、閑話休題。
学園組みがこの村を離れたのを確認して、俺はこの人と接触した。
諸事を記憶喪失と言うことにして、騎士であるダニエルさんに相談しようと思った…という事にしたのだ。
最初はかなり疑わしく思われてしまい、盗賊の一味ではないか、とまで疑われた。
ちょっと不味いかな…? と、思っていたら、ソレを助けてくれたのは意外にも村人さんたちだった。
どうも、避難路作成やら手当をした時に顔を確認されていたらしい。
どさくさ紛れだったし、覚えられていないかと思っていたのだが…不覚。
…まぁ、結果は良い方向に向かったし、いっか。
「なんだったら、もう少し休んでいてくれてもいいんだよ? そもそもは私一人でやるつもりだったんだし、遠慮は……」
「いえ。大丈夫です。…それに、都市までを同行させてもらう対価…という事にして置いてください。ボランティアというより、俺は利害のために動いているだけですよ」
いうと、ダニエルさんは「そうかい?」といってニッコリと笑うだけだった。
利害の絡まない善意なんて、これほど疑わしいものは他に無い。個人にも夜が、とりあえず俺はあんまり信用しきれない。
…つまり、対価を求めるという事は、信用してほしいと言っている様なものだ。
ダニエルさんは聡い人だ。そんな意図を読み取ってくれたのだろう。
――聡い人は嫌いではないが、解ってもらえるというのも微妙に恥ずかしい。
…それに、夜警をする理由もちゃんとある。なんといっても心苦しいことが一つ。
腹が減ってたからって、村人達に配布された非常食。俺も貰っちゃったんだよなぁ……。
皆さんは「いいよいいよ、助けてくれたんだ。むしろこんな物しか分けて上げられなくて…」なんて恐縮してくれて、逆にこっちの肩身が狭いのなんのって……。
だから、せめて夜警くらいはしておかないと、後ろめたくって仕方なかった。
「………とりあえず、暫くは俺が見ておきますんで、少し寝ててください」
明日は帰路の案内を任せるんですし。…そう言ってダニエルさんを休ませる。
ダニエルさんも、暫くは抵抗してきたが、漸く大人しく寝る気になってくれたようだった。
…うん、これでよし。
暫くして、ダニエルさんの鼾が聞こえ始める。
ソレを確認して、腰に設置したそれらを地面に敷いた布の上に広げる。
「…………うぅん」
主武装である文化包丁と副武装である五寸釘の棒手裏剣。
文化包丁のほうは特殊素材で、刃毀れも錆びもし難いという一品だし、血糊は拭いたので特に整備をしてやる必要は無い。
むしろ問題なのは棒手裏剣のほうだ。
元来これは、スローイングダガーの代用品として用意してもらったものだ。
趣味で刀鍛冶をやっていた友人に相談して作り上げた簡易武装。ホームセンターで手軽に手に入る五寸釘を改造して作った武器は、比較的容易く補充することが出来た。
…が、当然の話この異世界にホームセンターなんて在る筈も無いだろう。
代用品が見つかるまでの間、棒手裏剣の使用は控えたほうがいいかもしれない。
「……と、なると……遠距離武装が心もとないなぁ…」
俺にとって戦場での距離は、戦術の幅と同義だ。
攻撃可能範囲が広ければ広いだけ戦術の幅も広がる。勿論、相手にとってもだが。…出来れば遠距離攻撃の手段は残しておきたいのだが……。
「……となれば………投石?」
一番簡単に手に入る、最も原始的な武器。
貫通力は無いが、重いものなら十分に人は殺せる。
……………なにか、格好はつかないけど。まぁ、背に腹は変えられない。
装備を纏めなおして、鞄の中から適当な袋を取り出す。
その中に、適当なサイズの石を見繕って詰め込んでいく。
………なんというか、激しく地味な作業だった。
た、タイトルっ!?