閑話 魔を立つ刃金
「魔物退治?」
「うむ」
じじいはそんな戯言を平然と言って退けた。
「……ついにボケたか?」
「…のぉ、健斗よ。お前小学生だろ? 何故にそれほどやぐされておる」
誰の所為だ糞爺ぃ、手前の所為で周囲一般の子供と大分認識がずれてるんじゃねーかバーロ!! 何処の世の中に熊と小学3年生を肉弾戦させる祖父が居るってんだ、そもそもその必要性すらないのに!! おかげで変な倫理観まで植えつけられて、周りの人間から感性が逸脱して友達の話題にすら入っていけない有様。もうこの年齢にして枯れちまってるよ!!
……なんてことは言わない。この糞爺ぃに何を言おうと無駄だし、言った場合試練を追加される可能性が高い。んなことするより、黙ってさっさとこの修行? を終了させたほうが合理的だ。
「さぁ?」
ジト目で睨むことだけは絶対にやめられないが。
「お前、目つき悪いよなぁ」
……落ち着け。俺がマジギレしたところで、未だこの怪物には敵わない。
せめて後3年。
「………ん?」
我慢。我慢しろ、俺。
「で、何?」
言って問いかける。
俺から話を進めないと、この妖怪爺は何時までたっても話が進まない。
「ああ、ほんじゃ話そうか」
曰く。この気功というのは、その昔この大地を跋扈した妖怪に対抗する為の業だったのだとか。
道教を元として、その先頭技術面だけを特化させたのが一族に伝わる戦技なのだとか。
「ご先祖様の中には、業を進めすぎて導師になった…とかいう伝説の人もいるんじゃがな」
そういって爺ぃは話を締めくくった。
「……で、その与太話を俺に伝えて如何しろと?」
「んにゃ。なんもせん。…ただ、この力がそういう事に使われていた、ってだけおぼえておいてくれりゃ十分だ」
「………そか?」
おう、と頷く爺ぃ。その時、爺ぃは珍しく柔らかい笑みを浮かべていた。
「いいか、健斗。これは刃金の業だ。鉄は魔を退ける。魔を退ける刃金だ。だからな、折れない刃に成れ。最強の刃ってのは、折れないって事なんだ」
「……よく解らんが、まぁ覚えておく」
爺ぃは「それでいい」といって頷いて。
「そんじゃ、修行の続きと行こうか」
「…うぇ」
その数日後、爺ぃは息を引き取った。
老衰だったという。直前まで暴れまわっていたのに。
頑固爺ぃめ。