久遠の果てより
怪刃。そんな通り名を付けられたことが在る。
文化包丁を扱う怪物。切り裂かれた者は、しかしその切れ味のよさから信じられない速度での回復を果たすことが出来る…とか。
正直、切れ味の事を余り考えていなかっただけだ。
綺麗な切り口のほうがくっ付き易いということを忘れていただけ。
まぁ、無機物には関係ないだろうが。
崩れた石造りの平屋を叩き切って、山へのショートカットを作っていく。
石なら燃えにくいし、いざと言うときの避難路になる。
そうして、到着した其処は激戦場。
剣と大斧が打ち合い、弓矢と魔法がぶつかり合って。
向かい合うのは学園組み対覆面マッスル’s。若いのが学園の生徒だろう。
学園組みは少年1の少女2。少年少女が一人ずつ前衛で、残る一人が後衛のようだ。
で、対する盗賊組み。3人が前衛で、もう3人が遠距離から弓を射掛けている。
人数に差が在る割り、戦力差はほぼ均衡している。
あの3人のレベルの高さが伺えるが、しかしいまひとつ決め手に掛けている。
「………ふむ」
学園組みの後衛…魔術で前衛を援護している少女。さっき出会ったメリッサ。
射掛けられる弓矢を迎撃しつつ、射手を牽制する攻撃魔術を放っている。
…よく頑張る事。
さて、手伝ってやるのは良いが、俺の趣味としては表立って連中に協力するというのは無い。
影ながらでいい。少し手を出して均衡を崩せば、後は連中で勝手に勝てるだろう。
……と。
「……ふぅん」
馬鹿みたいに一斉に弓矢を放っていた盗賊連中。
どうにかして、先に魔術師から始末しようと決めたみたようだ。
弓を撃つタイミングをランダムにして、その間隔を不均等にしだした。
魔術、というのは発動するまでにタイムラグが必要なのだろう。
“精霊に言葉を届ける”とか言っていたし。
その隙間をつく作戦なのだろう。馬鹿の癖に。
メリッサを相手にする分には、十二分に効果的だ。
「……ふん」
案の定、メリッサの魔術が発動し終わったタイミングで放たれた矢。
しかし、メリッサにソレを防ぐ手段は持ち合わされていない。
…こういう状態にならないようにするための前衛だろうに。
「………ふっ!」
息を吐きながらの投擲。
その一撃一撃が空中の矢を迎撃して。
「…………!?」
遠目に見えるのは、驚いたように周囲を見回す盗賊たちの姿。
メリッサも驚いたように周囲を見回していたが、その地面に突き立つ棒手裏剣を見て、それが俺の仕業だと把握したのだろう。
次いで投擲。
驚愕による空白時間。それは奇襲をかけるには絶好のチャンス。
今の俺の現在地は、弓と魔法で遣り合うよりも離れている。大体、40メートル程度だろうか。
これだけの距離だ。棒手裏剣とはいえ、視認・回避されてしまう可能性もあった。
驚きで動きの停止した一瞬だからこその命中。
「……!!??」
響いてくるのは言葉として認識できないようなダミ声。
それが痛みから来る悲鳴なのか、それとも見えない敵に攻撃された怒りからなのか。
……まぁ、弓を取り落とした時点で連中の敗北は確定したんだけれども。
「――――……!!!」
その空白時間を存分に生かしたのはメリッサ。
空に掲げた手の先に、透明な空間の歪みが見えた。
渦巻く風で、それが大気を凝縮して作り出された空気玉だと理解して。
メリッサはその巨大な空気玉を、弓矢の連中に向かって投げつけていた。
――――ずんっ!!!
ゾッとするような衝撃。
それは、大地に小規模のクレーターを作り出して、盗賊連中をのしてしまっていた。
…さて。こうなった以上勝敗は既に決した。
3対6で均衡だったのだ。それが今や3対3。数の上では等しくても、その戦力差は既に学園側が圧倒的。
此処まですれば、もう十分だろう。
そう判断して、その場を去る。
とりあえず、逃げ遅れた村人の探索とその誘導とかをしておこう。