今後の方針
「俺、実は異世界の人間なんだ」
「え? 今更ですか?」
…あれ?
……………え?
いい加減、クリスにも本当のことを話しておこうと思い、継げた言葉にそんな返答が帰ってきて。思わずおれはそのまま固まってしまった。
「……もしかしてバレバレだった?」
「バレバレ…と言う事は無いと思いますけど。一緒に居て話をして、なんとなく解っちゃいましたよ」
「あやや……クリスは聡い子だなぁ」
ニヤリ。
口元をゆがめ、クリスの聡さを誇らしく感じていた。
体調の回復度合い…30%程度。
無茶をしたのが祟ったのと、魔術回路の形成というのが思った以上に長引いているようで。
自分でも把握できないのだが、なにやら内側が勝手に動き出していて。
そのため、外側への出力に処理能力を回せないようだ。
扱える力はこの世界へ飛ばされる前の俺より少し小さい程度。
キメラで無事でも、対人戦でコレだもんなぁ。
まぁ、それでもゴブリンの相手ぐらいは軽く勤められる。
そも、俺の戦法は力押しではなく、むしろ暗殺術じみた技術による物だ。
これぐらい、むしろスキルアップのための鍛錬と思えば。
「わ、私の所為で……」
言って嘆くクリスに、そんな理由を聞かせて宥める。
泣き顔も綺麗なクリスだが、だからといって女の子の泣き顔を見て喜べる程俺は特殊な人間ではない。オタクだけど。
「で、これからの方針なんだけど」
「お仕事ですか?」
身体の回復にあわせて、そろそろこの町を後にしようと言う話になっていた。
キマイラの件で、只でさえ噂に成っていた俺の存在。それが、今回の決闘の所為で尚更広まってしまったのだそうだ。
噂そのものを知らなかった俺だが、クリスは俺と違ってそのあたりの情報を細かく収集していたらしく、そんな現状を俺に警告してくれて。
「このまま此処に留まると、駐在さんに目を付けられちゃいます」
交番みたいな物だろうか。
学園都市と言うだけあって、このクルストは人が多い。一応出はあるが、そういった組織も存在しているとか。
「大半は学生の自警団……風紀委員会に処理されてるようですけど」
「風紀委員会って……うわぁ……」
なんとも微妙な名称がGJ!
「じゃぁ、思い切ってこの町から出る……か?」
「お金は道中、クエストカウンターで受ければ良いですし」
言って、クリスは朗らかに笑った。
「一応聞いておくけど。クリス、俺についてくる?」
「勿論です。私は最後までケントさんについていきますよ!!」
…くぅ、嬉しい事言ってくれるじゃないかこの娘っこ。
正直クラッと来そうなほどの笑顔。おれが耐性のあるオタクじゃなければ惚れてしまっていたかもしれない。
「それじゃ、ルートの話なんだけど……此処から件のギキョウって所はどれくらいの距離だっけ?」
「ええっと……確か、王都を経由して、すこし北東に行った所だったと思いますよ」
「――あれ? 案外近いのか?」
「ギキョウはそもそも異邦人の土地ですけど、所属は一応ミレウスなんです。……まぁ、あそこは個人でとんでもない力を持つ人間が多いですし、王様の意思の元、『手は貸さない代わりに手も借りない』という制約の元、衛星国みたいな扱いに成ってるんですよ」
一応ミレウスが後見人にはついているものの、誰の命令も聞かなくて良いし、ミレウスを助ける必要も無い、と。
――ははぁ、誰が決めたのかは知らないが、中々に聡い意見だ。
幾ら力を持っていたからといって、目立ちすぎれば出る杭は打たれる。
力を持っていても所詮人間。人間って言うのは、数で異物を排除する能力は優れているからなぁ。
もしミレウスが異邦人の力を求めれば、周囲の国々から一気に攻め滅ぼされる…と。
「まぁ、個人的に協力しているっていう異邦人は何処の国にも居るみたいですけど」
「ま、所詮人は一人。何処の群れに属するのも勝手だもんな」
「話がそれましたね。えっと、徒歩で一月、馬でも半月くらいだとおもいます」
結構距離がある。
――確かに、生計を立てながらのたびとなると、クエストを受けるような物しかなさそうだ。
「でも、いいの? クエストの仕事って、この間みたいに危険な物もあると思うんだけど」
「昔からです。今更ちょっとやそっとの危険なんて如何って事ありませんよ」
言ってニッコリ。昔からクエストって…一体この子はどういう環境で育ったんだか。
驚きが漏れてしまっていたのか。クリスはそんな此方の思考を読めたようで。
「母が父に捨てられまして。で、母も精霊魔術を扱えこそすれ、それほど強い人でもなく、仕方無しに私がクエストで働いてたんです」
「お母さんは…?」
「数年前に流行り病で。貯えもなくして、お仕事を請けて旅してたんですよ、私」
そう言ってクリスは儚げに笑って。
「お母さん、最後に“世界を見てきなさい”って言って。で、私も旅ってしてみたかったんで、この精霊魔術をつかって、世界を見て回ってまして……って、ケントさん!?」
気付いたら、クリスを確りと抱きしめてしまっていた。
何か知らんが、そうしなきゃいけないような気がして。
「あ、あわっ、ケントさん?」
「いやー、俺って別にタラシでもなんでもないはずなんだけど、何となく。やってて滅茶苦茶恥ずかしいです」
事実、耳とか首全体とか、矢鱈に熱くなっている。
鏡でも見れば、多分俺の顔は真っ赤に成ってしまっていることだろう。
……でも。泣きそうな顔を見たら、誰かが抱きしめてやらねば。
「でもな、もうちょっとだけこうしてる。後で殴っても良いから」
「あ、あう…」
――――――――――。
ウァアアアア!! 俺なんて厨、クサい、あまりにもクサい!!!!
ちょっと頑張ってみたけど、これは想像以上にはっずかしい!!
というか、オタクとしての自分が、グッジョブと親指を立てる一般人な自分を指して大爆笑している。(無論、全て脳内妄想)
穴があれば入りたい。いや、むしろ穴を掘って埋まりたい心境。
等等、外面格好良く決めつつ、内心思い切り大慌てでぶっ飛んでる俺だった。