勝利の代償
で、勝戦後。
俺は、何時もの宿屋で包帯漢と成って寝込んでいた。
「うー、おぁーーー………」
「なんですか? …あぁ、お水ですか」
報酬の金貨五十枚。その大半は俺の怪我の治療費へと消え去ってしまい、残った金額は宿屋へ。俺が復帰するまでの宿代と言うことに。
「…むー」
「仕方ないじゃないですか。怪我してるんですし」
アエテルのオーバードライブ。
人体の許容限界をはるかに超えたその力の行使は、やはり対等な代価を俺に求めた。
それが、現在のこの身体。
沸騰した血が肉を焼き、肉はアエテルに溢れかえって物質的に崩壊しかけて。
多少の傷であれば、アエテルの治癒力でなんとでも成ったかもしれない。
しかし、今回の傷の原因はアエテルの過剰摂取が原因だ。となれば、今此処でアエテルを使うのは火に油。自然治癒能力に期待するしかない。
「むぁー!……」
「パー!……? お金ですか? いいじゃないですか、また稼げば」
「もご、めむまむ…むぅーとま、ひららいんら…?」
「服とか…ですか? この間沢山買ってくれたじゃないですか」
…はて。
女の子と言うのは、綺麗な服を沢山欲しがる物だと思っていたのだが。
妹とか、幼なじみの言動からそう考えていたんだけれども…偏見だったかな?
…まぁ、それは良いとして。
「むむぅ…」
「なんです?」
「めめめもももむまみ…」
「包帯がどうかしましたか?」
全身を覆う包帯を指して唸る。
俺の全身は、既にある程度回復している。のに、現在の俺の格好は完全に重患のソレだ。
多分ではあるが、日常生活をする分には既に問題も無いだろう。
のに。
「むー」
「その包帯には精霊の加護が掛かってるんです。多少ですけど、自己治癒能力を高めてくれるんです」
言って、おれの「これを取ってくれ」的な訴えを拒否するクリス。
でもなぁ。身動きが取れないほどに雁字搦めにされる…っていうのは、正直。
おれはMではないし、拘束されても嬉しくはない。
「めめめむみまめめも…」
「隙間無く覆わないと意味無いんです」
でも、口まで覆われてると流石に呼吸が苦しい。
まさか、こんな所で爺に習った断気を使う事になるとは…。
ちなみに断気と言うのは、自ら気をたって気配を隠し、静かに体力の回復に努める技術の事だ。気配を察知されない為に呼吸回数や心拍数を低下させるという、現代社会においては何の必要もない技術。
まぁ、精々潜水時間が伸びる程度か。
…しかし。モムモム言っているのは正直疲れる。
幸い(?)この包帯をしていても、クリスだけは俺の言葉を聞き分けられるらしく、こうして何不自由なく寝て過ごす事ができてはいるのだけれども。
…駄目だってコレ。マジで快適すぎる。
このままじゃぁニートまっしぐら。異世界に来てまでニートとか、正直洒落にならない。
「あ、そうだ。ケントさん、子守唄歌ってあげます♪」
「…………」
なんとも心引かれるお誘…ゲフンゲフン、人を舐めているのかと少し問おうかと思って、しかしその瞳には只単純に此方の為を思う気持ちが映っていて。
音にすれば“キラキラ”といった感じか。
「……………………」
……………。
「〜〜〜〜♪、〜〜♪」
結局歌ってもらったさ。子守唄。
なんとも素敵なファニーヴォイスでしたともっ!!
もうプライドとか、それを自分から捨てる事を選んだこととか、いろんな物が崩壊した気分だった。