斬り抉る戦神の剣と第二の魔法
さて。此処で俺が扱おうと思う魔術、それを構成する三つの要素を挙げよう。
一つは、時空間歪曲。
その名の通り時間をゆがめて、その歪みを相手に叩き付けたり、歪みを飛び越えて瞬間的に移動したり。応用範囲の広い技だが、やっぱり反動はかなりの物だ。引き延ばされた時間から認識するようになった、緩やかな時間の流れ。それを踏み越える事で可能とした俺の一つ目。
二つは、多次元屈折現象。
世界に一つしか存在し得ないものを、同時に複数存在させるという技。これは物理法則と言うよりは、業界で知りえたオカルト的な知識だ。試してみたら上手く行ったのだが…この世界、何でもありだと思ったのはその瞬間か。
三つ目は、シュレディンガーの猫という量子力学の法則と言うか、そんな感じの代物。
ランダムに毒ガスが発生するスイッチと、箱の中には毒ガスの噴出機と猫。
そのスイッチを適当に押した場合、その箱の中の猫は二分の一の確立で死んだ事になる。が、量子力学的解釈の場合、このとき箱の中には、猫が死んでいるという確立と生きているという確立が偏在している、と言うことになるのだとか。
難しすぎて、感覚的にしか理解できていないのだが、まぁそんな感じ。
「時空ハ禍リ、我ラ共ニ此処ニ在リ」
練成したばかりの魔術回路が、いきなりの駆動に悲鳴を上げる。
本来は時間を掛けて形成する筈のソレ。
そもそも素質があったとしても、それを扱おうとしたのは今さっき。
出せる出力は、精々今までより一歩…いや、一歩踏み下がったレベルか。
いわば魔術的な筋肉痛。そんな状態で全力を出すというのは、無茶以前に無理なのだ。
「まぁ、成せば成る」
其処まで深く考えずに。只々、アエテルを高める。
身体の回りに浮び上がる三次元立体魔法陣。
球形のその魔法陣は、しかし只静かにその場で輝くだけで。
自分のルールを持ち込むというのが、異邦人の魔法なのだという。
が、それはこの世界にとっては異物。多様は排除される原因と成りかねない。
だから。要素なんてイイワケをすることで、世界に対してごまかしを許容してもらう必要が在る。
「ゲンガー・ドライヴ」
バチバチと紫電が飛ぶ。
いかに魔術で理論立てようとて、矢張りこれは負担が大きいか。
アエテルが一気に削られていく感覚。そのまま腰を落とし、俺は一撃を構える。
それをモジャ毛も察知したのだろう。
再びその手の先に現れる青黒い球体。
「―――我が一撃は雷と鳴り。」
爆ぜるイカヅチの中で、更にその詠唱を開始する。
「終に始まれ、――時空間歪曲!!」
一度魔術と定義しなおしたのそ技は、既に一連の技として成り立っている。
だからこそ、発動までの時間は大きく短縮されていて。
「クロノ・ストライクッ!!」
「『応えるもの』っ!!
放たれる砲弾は、何時の間にか俺の胸のど真ん中を射抜いていて。
――それは、つまり最強のカウンター技といわれるもの。
因果を歪める事によって「相手の攻撃の後から発動して先に攻撃を命中させた」という事実を「相手よりも先に攻撃をなした」と改竄し、「相手の攻撃がなかった」事にしてしまうという規格外の超必殺殺し。
因果の変更への対抗なんて、此方も因果を弄る意外では中々無理が在る。
「……っ!?」
「アハハハハハッ!! ほらね、ボクに勝てるはずが無いんだっ!!」
「クロノ・ストライク」
「っ!?」
背後から、力を加減したクロノ・ストライクを打ち込む。
モジャ毛はというと、咄嗟にしては上出来な結界を創り出し、その一撃を受け止めていて。
「な、馬鹿なっ!? あれはお前の人形かっ!?」
「真逆。あれも俺だが?」
「なら、なら俺の前に居るお前は誰だっ!!」
言って、モジャ毛はブツブツと呪文を唱えて。
現れるのは5つの黒い光。最初に放っていた弾幕か。
「shot!!」
「む」
一瞬、膨れ上がった結界に押し返される。それでも強引に押し続けた結果、バランスを崩してそのまま彼方へと放逐されて。
「Bang!!」
放たれた黒矢。5つの魔術を螺子って編み出された強靭な矢は、見事に俺の旨を撃ちぬいた。
「こ、これで…」
「残念。後一つあったんだな」
「なっ!?」
突然、背後でそんな言葉を投げかけられれば、誰だって驚くに決まっている。
拳の先に顕現させた魔力。
真逆学生を殺すわけにも行かない。だからこそ、クロノ・ストライクなんて直接ぶち込む事は絶対に出来ない。
なら、殺さない程度の威力で、半殺しにしてしまわなければ。
「おおおおおおおおっ!!」
「ひ、ひぃっ!?」
アエテルを刃の形へ。
拳の先から突き出た薄黒い刃を、そのモジャ毛へと突きつける。
結界は、2体目の俺の体制を崩すために既に消滅している。絶好のチャンスだった。
「必殺、クリスクロスクラッシュ!!」
ゲンガーの投影に、二度の時空間歪曲。流石に、アエテルも底が見えていて。
だから、出せるのは拳一発分の魔力。
「あじゃぱーーー!!??」
正直、その悲鳴はどうかと。ワカメじゃねーか。
…いやまぁ、この技の元ネタだって中々解りにくいとは思うけど。
まぁ、「18話 ED マッチョ」なあの原作が小説のアニメだな。ググれば即おk。
斬撃の概念は乗っていなかったため、モジャ毛が切断されるという事は無く。
けれども、その一撃は金属バットの振るスイングに等しい。
骨の2、3は折れていても不思議ではない。。
「あー、早々に救護班出たほうがいいんじゃないかな?」
呟いた途端、喚声が爆発した。
「え、ええっ!? ケントさんが三人!?」
「あーいや。所謂一つの影分…ってか?」
三人の実体で、少しずつタイミングをずらして攻撃したのだ、とクリスに説明する。
「人間って言うのは、必ず何処かで息継ぎをしなけりゃいけない。その息継ぎのタイミングこそが、一番の弱点なんだよ」
あの技…フラガラッハは、必殺の一撃に対してこの上なく有効だ。
そして、必殺の一撃と言うのを持つのは、大抵一人に限定される。多人数の場合、「必殺の一撃」とは言いがたいし。
んで、数。本物ならいざ知らず、所詮あれは魔導書によって再現された模造品。
そうそう連射が効く訳でもないと読んで、一度に多人数で攻撃すれば何とかなると踏んだのだ。
案の定、最初のストライクにこそフラガラッハを用いはしたが、その後の二発目には結界を。三発目に至っては悲鳴しか上げていなかった。
「…………さて」
さり気無く。気絶するモジャ毛の手元に何時の間にか現れていたその魔導書。
そこに、一気にアエテルをたたきつける。
単純な魔力衝撃。それで、その魔導書はこの世から完全に消滅していた。
「〜〜〜〜〜♪」
香ばしい香りを消し飛ばして、俺は悠々とクリスの元へと戻るのだった。
あえて何にも触れません。
……ええ、触れませんとも!!