閑話 星の狭間、無窮の空を渡るモノ
『つまり、アエテルというのは魂のことなんですよ』
「魂?」
『ええ』
その女性は、俺にそう言って頷いて見せた。
『魂と言うのは、今の世界で一番起源に近い物質なんです』
「アエテルは全ての根源たる物質……ははぁ、そういう事なのか」
つまり、人と言うのは先ず魂から創られた…と言うことになるのか?
『いえ。魂は万物共有。形は、肉体によって鍛えられるのです』
「ん? 如何いう事だ」
『黒き人。貴方は、魂の形とはどのような物だと思いますか?』
問われて、思考する。
「この身体と同じ形じゃないのか?」
『ええ、その通りです。では、何故その身体と同じかは解りますか?』
黙って首を振る。
そんな事は、考えたことすらなかった。
『全ての魂は、生まれた時こそが至高であり、最も無垢な状態なのです』
その時魂には明確な形など無く、ただただ清いモノとして在るだけなのだと。
『魂は肉体を通して経験を積み、その鍛錬によって形を研ぎ澄ましていきます。全てを包み込むように広がる魂、切り裂くように鋭く砥がれた魂。何者にも屈せず、意志を貫こうとする尊き魂』
歌うように、彼女は手を広げて天井を仰ぎ見た。
『魂は万物共有。けれども、その形は器によって鍛え上げられます。…そう、だから、私と貴方の魂とて、起源は同じものなのですよ?』
言って、彼女はニコリと微笑む。
「それは…嬉しいね。貴方のような存在と俺の起源が同じ…だとすれば、我々は遠い兄妹じゃないか」
『そうですね。この地に住まう……いえ、全ての世界に住まう者達は、総じて金色の母様から生まれ出でた兄弟です』
いいながら彼女は、本棚の上からふわりと舞い降りた。
まるで重力を感じさせないその姿は、やはり何処か神聖に映って。
『アエテルは、金色の母様が初期に現した力の中で唯一ヒトのまま扱える力…でも、多分…』
「なんだ?」
言いよどむ彼女に首を傾げる。
言いたい事が在るならばいってしまえばいい。
そもそも、戸惑いを見せるなんて彼女らしく…いや、彼女達らしくない。
『貴方は、第五真説要素に辿り着くかも知れない』
「第五…真説……??」
また、解らない単語が登場した。
『頑張りなさい。貴方は貴方で居ればいい』
「…まぁ、それは当然なんだがね」
俺は俺以外には成り得ない。何故なら、俺は俺だからだ。
『貴方の魂に祝福を』
言って、彼女の姿は風に溶けるように消え去った。
「有難う」
一言だけ礼を言って。
その、名付し難きモノはこの場を後にした。
「あれ? ケントさん、誰かとお話していたんですか?」
図書館の隅。そこでと在る本を広げた俺の前に、杖を抱えたクリスがとてとてと歩み寄ってきた。
その脇に抱えられているのは、可愛らしい挿絵の印刷された絵本だろうか。
……うぅ、可愛すぎる。
「ん? ああ、少し…知り合った友達とね」
言って、開いていた手元の本を閉じる。
…本当、中々に興味深い書物だった。
「……それって魔導書ですか?」
「ああ。異邦人の書き出したと言われてる魔導書の一冊だ」
言って、その表紙を見せる。
「セラエノ断章……って、何ですか?」
「…まぁ、解らないか」
苦笑しつつ、その本を本棚に戻す。
英字で印刷されたその書物。…まぁ、二度とお目にかかることも無いだろうが。
「んじゃ、また」
呟いて、次の本棚へと向かうのだった。
イイワケ。
魔導書の精霊…とか言うわけではありません。
図書館に住み着いている精霊さんです。別名を「名状しがたきもの」とか。肉体は封じられ、現在は霊体として精霊を遣っているのだとか。神格持ちなのにね。
べ、別に図書館つながりって訳じゃないんだからっ!
…失礼しました。
第五真説要素っていうのは…まぁ、知らない人は知らなくても良いのではないでしょうか。オリジナル解釈で行きますので、型月とは関係ありません。…と言うことにしておきます。