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CROSS ROAD  作者: 青葉 夜
30/42

倦怠生活(再)

大怪獣キマイラとの戦闘から丸一日。

朝日と共に…と言うわけにも行かず、目が覚めたときには既に窓の外には人気が満ち溢れる時間帯。

アエテルの使いすぎで疲れていた身体は、しかし一日確り寝たらばすっかりと回復していた。


「右腕よーし、左腕よーし」


触って、回して、確かめて。

傷とかも特に問題はなさそうだ。

キマイラの鱗で幾箇所か切ってしまったのだが、どうやら跡形もなく塞がっている。

折れていた筈の右足まで。


……なんとなくだが、多分クリスがこっそりと治療してくれたのだろう。

俺のアエテル治療なんて、傷口を針と糸で強制的に縛るような物だし。こんなに綺麗に治療は出来ない。と、なれば……。


「お礼言っとかなきゃ」


何か行動でも示すべきだろうか。

幸い収入は入ったばかりだし、時間的に言えばそもそも暇でしかない。


「……んー」





「……わ、私とデェトですか!?」

「いや、一緒に買い物に行かないかって誘って……ああ、いや。デートです」


否定した途端悲しそうな顔になってしまうクリス。

慌てて肯定すると、どうやらクリスも機嫌を直してくれたらしい。


「で、でも何でそんな突然…?」

「ほら、お礼とか。折角収入も入ったことだし」


言うと、クリスは「バレてましたか…」と、途端に恐縮してしまう。

むしろ感謝しているのだからかしこまる必要は無いと諭して、再び会話の態勢へ…


「で、でもですね、やっぱりその、お付き合いは、まず互いの事を理解してから…キャーッ、お付き合いって私は何を……」


…でも無かった。

なにやら勝手に暴走して妄想して目を回している。

話を聞かせる? うん、それ無理。


あっさり説得を諦めて、そのクリスの赤ら顔を眺めて。

…うん、やっぱり美少女はどんな様子も絵になる。


クリスを見てニヤついていた俺を見て、町人A(仮称)さんがこちらを見て気味悪そうにしていたが、まぁそれは余談。気にしない。…気にしないったら気にしないんだっ!!




で、買い物。

適当に店を見て周り、主にクリスのほしい物を買って回った。

で、クリスに何でも好きなものを買って良いといったのだけれども。クリスはといえば自分からは遠慮して何も言い出さない。


んで、俺が「コレがほしいのか?」と問えば


「え、あの、いえ。そんな事ナイデスヨ?」


等とモロに解りやすい反応を返してくれる。後半片言だし。

…というわけで、欲しそうに反応した物のそのこと如くを買い占めた。

まぁ、欲しそうといっても反応したのは衣服が数点。

どれも白を基調とした質素に可愛らしい品物であった。




「…さて」


一度宿屋に荷物を置きに戻り、それからもう一度町へ出る。

本日本来の目的地である図書館へ。


この世界には、確かな語学が現存している。

それは、下町にも稀に売られている書物などから理解する事はできる。

印刷技術も在る程度は在るらしく、一冊の書物が多く出回っているというのも知りえた。…まぁ、元の印刷技術を持っている所が小さい所為か、言う程は出回っていないが。


んで、知った。

どうやらこの世界の文字、俺にも如何にか読めそうなのだ。


「はい、此処ですよ」

「ん、ありがと」


言って、クリスの頭を撫でながらその建造物の中へと足を運ぶ。

白い石造りの巨大な建物。

神殿とか、外観はそんな感じの建物だ。


「…おぉ」


中に入ってまた驚く。

予想と違って、内装は木造。日の光を呼び込む広い館内だが、しかし入り口から最奥まで一体どれほどの距離が在るのか。人が米粒サイズで見えていて。


「凄いな、此処」

「学園がダイレクトに支援している施設ですからね。下手したらこの国一番の施設かもしれません」


クスクスと笑うクリス。

まぁ、ツボは今一解らないが、楽しいのならそれで良いだろう。


クリスに適当に本を見てくると告げて、目的の品物の探索を開始する。

目的の品物…世界情勢とかの概要が在る程度解れば良い。


…いや、目的は在る。

少し前からよく聞くキーワード『ギキョウ』。この言葉は、どうもこの世界の雰囲気に似合っていない。

むしろ、この言葉は……。


「…っと、あった」


見つけた本を一冊、本棚から引き抜く。

大まかなデフォルメの成された世界地図。其処に刻まれた文字は…なんと、アルファベットなのだ。


偶然? いや、どうだろう。

異世界で、アルファベットが使われている? んな馬鹿な。

形が似ているだけ…とも考えた。のだけれど、実際にこのアルファベットで書き出された文字、俺にも読めるのだ。

まぁ、英語の成績は並の俺だ。読めるといっても片言なのだが。



「……ふぅん」


地図の真ん中より少し上。

大きな山を背に立つのが、ミレウス皇国。で、その背後の山を源流としたこの川…ジョロ河を

J字に下っていった先に在るのが、この学園都市クルスト。

J字の右の所に在るこの森が、ロイが迷い込んで突っ切ったという森だろうか。

…なにか、予想以上にでかい気がするんだが、この森。――あの貴族の坊ちゃん、本気で何者なんだろうか。


「…しかし」


気になるのは、この少し西へといった所に在るギキョウの文字。

アルファベット言語にしては発音が色違いだし、…うん。


「ギキョウが如何かしたんですか?」

「…ああ、クリスか」


と、悩んでいると不意に背後から声を掛けられた。

振り返れば、白っぽい町服に着替えたクリスが、背後から手元の地図を覗き込んでいて。


「…いや、どういう所なのかな、と思って」


そう言って誤魔化す事とした。

友達を騙しているようで気は引けたが、しかし自分の個人情報を守るのは大切な一手だ。

カードはより多く。切るタイミングは確りと見極める。


「ギキョウ? ギキョウは異邦人(ビジター)達が作った町ですよ」

「………異邦人?」


また新しい単語が出てきた。しかも、俺が狙っているかもしれない情報。


「…異邦人って何?」

「ああ、そうか。ケントさんって記憶喪失なんですよね。…いいです。お教えしましょう」


言って、クリスはトン、と張った胸を叩いて見せた。









―――異邦人。


何時の時代からか、この世界に現れだした、異世界から来たと名乗る者達の総称。

彼等は総じて、この世界には不釣合いな知識を持ち、また世界をわたるときに得たと思われる強大な力を持って、総じて何かしらの騒乱の渦中に巻き込まれることが多い。


例えば、一世紀前のミレウス王と協力し、大臣の謀反を討ち取った異邦人の話。

あるいは、世界に文字と計算を与えた賢人の話。

もしくは、今現在ギキョウに集う異邦人と、その子孫達。


かれらは確かに実在して、この世界に静かに暮らしている。



「基本的に閉鎖的なところですが、友達と認められた人間や同じ異邦人にはとても気安く語りかけてくれる都市です。商業は主に、他では生産できない特殊な道具を売ることでまかなわれていますね」

「例えば、このナイフとか?」


言って、腰に吊るした皮鞘をコツコツと叩く。

あの大男が言っていたのだ。このナイフはギキョウ製の特殊素材を使ったナイフだと。


「成程…ね。…うん、把握した」


有難うと一声声を掛けて、再び広大な図書館の中を放浪しだす。

後ろからクリスが付いて来るのは…まぁ、いい。


…異邦人。それは間違いなく、俺も分類される項目だろう。

異世界から来た。間違いない。


…あー、失敗したかも。前例が在るなら、最初にあのメリッサと出会った時に事情を説明して保護してもらえばよかったんじゃないのだろうか。

うわ、そう考えると俺バカス。下手に考えて行動するより直感的な行動のほうが良かったというのかっ!!


……はぁ。



とぼとぼと書棚を放浪して。

何か、俺にも理解できそうな簡単な内容の本はないかと、四方に目を飛ばしていて、不意にその本が目に付いた。


『異界聞録』


「……って、ちょおおおおおおお!!!!???」


思わず声を出して、慌ててその口を閉じる。

改めてその本に目をやって、頬をつねって其れが幻覚でないことを確かめる。


「……漢字だ」


見なくなって久しいその文字に、軽い感動を覚えつつ。

迷う事なく、俺はその本を手に取った。


更新がディレイな感じでした。orz

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