性能テスト2
曰く、キメラは魔術師の最高傑作であること。
曰く、対物・対魔ともに超高ランクである事。
曰く、「コレを量産の暁には、私の帝国を…」以下危険思想者と言うことで兵士に連行されてしまいました。
「で、だ」
結局、依頼を受けることにはなった。
依頼主は魔術師から国へと変化して、報酬も提示金額…金貨10枚と言うことだ。
「けけけ、ケントさんっ…」
ガクブルしているクリスに、しかし俺は俺で在る以上前へと進めねば為らない。
「聞いてくれクリス。俺は今現在恐ろしいことを体験している」
「は、はひゃっ…」
「いや、体験したと言うよりは全く理解を超えていた…」
視線は斜め四十五度をはるかに上回っていて。
「ありのまま今起こったことを話すぜ!!」
正直、俺も中々にパニクっていた。
「“町の外壁を抜けて空を見上げたと思ったら全長10メートル近い怪獣が居た”………な、何を言っているのか解らねーと思うが俺も何が起こっているのかわからねー」
グルルルルルルル、と大気を響かす唸り声。
ライオンと山羊の頭、蛇頭の尻尾を持つ、巨大な…巨大すぎる怪物。
こりゃ、確かに傑作だわ。
「キメラってか、こりゃキマイラじゃねーか……」
ギリシア神話だかで、ペガサス乗りの英雄に退治された伝説の怪物。
まぁ、それそのものだとは思わないが……。
「に、二メートルって言ってませんでしたっけ、あの魔術師」
「何時作ったのか…って聞いてなかったし……暫く放置されて、成長してたのかなぁ」
二人揃って、気付けばゆっくり後退りして。
あと少しで外壁門…と言うところで、キマイラの瞳が此方をギョロリと捉えた。
「ま、ずっ…!?」
咄嗟にクリスの両手を耳に持っていき、次いで俺も耳に手を当てる。
「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■__________!!!」」
大気を震わす、ステレオな音ならざる大音。
二重奏で響いたその咆哮で、一瞬魂がぶっ飛びかけた。
本当の意味で魂消ていた。
「おい、クリスっ!!」
朦朧としていたクリスを軽く叩いて覚醒させて。
そのまま、外壁の影へと一気に飛び込んだ。
「はうぁあ…………」
その咆哮に、未だに目を回しているクリス。高級耳栓のスキルが必須か。
外壁の影からその姿を仰ぎ見て。
――コレは、聞いてない所じゃ済まない。
確かに、クリスが最初に言ったとおり。キメラなんてわけの解らない…詳細のはっきりとしていない依頼は受けるべきじゃなかったかもしれない。
が、受けてしまった以上、これは俺の仕事だ。
左右の腰ポケットを確認する。投擲用のナイフがジャラリと音を立てて。
素材は銀製。ちょっと高かった。
力を十分に伝える、魂の貨幣たる血に次ぐ意志の媒介だそうだ。
銀の弾丸というのも、相手を殺そうと言う意思あってのものだ。まぁ、魔術と言うのは今一理解できないが。要は根性と言うことか。
「………さて」
「クリス、お前は中に入って兵士の増援を呼んで来い。んで、外壁の上から援護してくれ」
「け、ケントさんはっ!?」
「俺はアレの注意を兵士隊が来るまで引きとめておく。…なに、危なくなたら逃げるさ」
言ってクリスの頭を撫でてやる。
と、クリスは覚悟を決めたようで、“ご無事で”と一言言い放って、町の中へと駆け込んで行った。
「……ふぅ」
身体を巡るアエテルの調子を確かめる。
…ふふん、病み上がり第一戦がいきなり大怪獣なんていうのは洒落にも成っていないが。
チャキッ。
両手に銀のナイフを構える。
アエテルの通りは十二分。即座に銀のナイフは黒い光を帯びて。
外壁の影から再び表へ。
既にキマイラは此方を視界に捉えているようだった。
トンッ。
軽く地面を蹴って、そのまま身体を空へと運ぶ。
慣れない三次元感覚。が、このデカブツには二次元移動では回避しきれないと判断して。
身からアエテルを開放する。
暫く使わなかった所為か、力は出口を求めて荒れ狂って。
「……っ」
肉体が魂に合わせて変化していく痛み。
其れを感じて、しかし力の奔流は止めない。
「「グルルルル…」」
力を示して、威嚇する。
それはどうやら、このキマイラの怪物にも有効だったようで。
ナイフに通したアエテルは、その形を投影したまま徐々に巨大に成って行き。
終には俺の両手に一つ5メートルはあろうかと言う大剣が八つ。
嘗て無いほどに満ち満ちた力に、不安と自身と、悲しみと悦楽を伴って。
…宜しい。為らば祝詞を掲げよう。
「………では征くぞ、デカブツ。瀟洒に殺す。篤と御覧あれ」
言いながら、アエテルによって化けた投げナイフを、思い切り投擲した。
――自分で言ってて、ちょっとイタかったかなと思ったのはヒミツだ。
何か、意外に多くの方に読んでもらえているようで光栄です。
…誤字ですよねぇ。今も「意外」を「以外」と変換したり、「光栄」を「後衛」。「誤字」を「護持」ってもうイミフすぎる…orz
とりあえず、執筆は頑張らせていただきます。
因みに。
吸血鬼の所のメイドさんとは一切関係ありません。