性能テスト
そして、色々在ったその翌朝。
投擲用ナイフや新規装備の整備を終えた俺達は、クルストの中心を少し外れたところに在るクエストカウンターを訪れていた。
「いらっしゃいませ、ようこそギルドカウンタークルスト支部へ」
カウンターのお姉さん。
やっぱり、何処の世界でも“顔”には美人を使うんだな。
「ケント」
「ああ、今行く」
クリスに急かされて、その背中を追いかけていく。
向かうのは、クエストの内容が書かれた依頼書…ノートの貼られた掲示板だ。
学園都市クルスト。
この首都に次いで巨大な都市は、しかしその巨大さに見合ったリスクを抱え持った都市として存在している。
人口が多ければ相応に犯罪も増えるし、相応に揉め事も増える。
そういった事態のほかにも、町の外からの脅威や、町の外から救援を求められる事とて多い。
それに対応するのは国営兵士で、自然と治安維持に回せる人員などは少なくなってしまう。
故に、クルストの国立学園でも単位取得をクエストの遂行と言う形でできる様にし、生徒達の力をも治安維持に回そうと言う試みが行われている。
実際、それは在る程度の成果を出している。
飲んだくれだの、荒くれ者だの、そんな半端者に比べれば修練途中の生徒と言え十分な戦力になる。
…が、問題はその数だ。
クエストに回せる生徒の数と事件発生率。どちらが多いかなど言うまでも無い。
必然的に、国営のクエストだけでは手が回っていないのが現状だった。
そこで登場するのが、この世界の大都市には大抵存在するクエスト仲介業者“ギルドカウンター”と、其処で活躍する冒険者や傭兵達だ。
百戦錬磨の冒険者達と、修練途中の学生や新人兵士。どちらが有用かなど、在る程度世界を知る人間なら即座に判断できる。
そういう理由から、この学園都市クルストにさえ、このギルドカウンターは存在していた。
「コレなんか如何ですか?」
「畑を荒らす一角兎の退治? いや、鍛錬にならないって」
「それじゃ、これは?」
新しい装備の慣熟訓練と性能テストをかねて、こうしてカウンターへと訪れたわけなのだが。
如何言う訳か、難易度の低いクエストしか選んでこない。
「この毒蛾殲滅なんて如何です?」
「ん〜…」
掲示板に視線を走らせる。
右から左へ、左から右へ。
武器や宿代、食費や衣類に結構お金を使ってしまった…といっても未だ十分に残って入るのだけれど…ので、少しでも財産を増やしておきたい。
「…コレなんて如何だろうか」
「コレって…ジャイアントアントですか!?」
「さ、酸だーーーッ!! …って叫んでみたいなぁ」
が、残念ながら依頼地が少し遠い。
できればこの近隣でお仕事を受注したいのだが。
「んじゃ、コレかな?」
「ゴーレムですかっ!?」
「あー…やっぱり俺と相性悪いし、止めておこうか」
基本的に、俺は防御の固い相手と戦うのには向いていない。
一撃必殺。それが俺の基本スタイルで。
「お、これだな」
「えっと……き、キメラ退治っ!?」
そのノートを掲示板から引きちぎる。
これで契約成立。この依頼は俺が引き受けることと為った。
「ちょ、ケントさん! そんな、もう少し考えて選ばないと…」
「大丈夫大丈夫」
「キメラって合成獣ですよ!? どんな形してるかなんて、現場行かないとわかんないじゃないですかっ!!」
大丈夫大丈夫と笑いつつ、ノートに示された場所へ向かうため、クエストカウンターを後にする。
このクエストの依頼者から、直接細かい説明が在るそうだった。
何とかなるだろう。適当適当。
そんな考えが甘かったと思い知らされるまで後数十分と言ったところ。