wktkな買い物2
新しく購入した布袋に衣類の代えを詰め込んで、然し続いてそのまま町を歩いていく。
「次は何処に行くんですか?」
「武器を、な。ナイフ一本では心許ないし、ナイフ用の鞘も用意しないと」
言って、鞄の中に仕舞っておいたナイフを取り出す。
真っ黒な刀身と、少し光の反射が違う刃先。
何故か少し、日本刀を思い出した。このナイフは、そんな感じのつくりだ。
「流石に、鞄の中じゃいざと言うとき使えないし、腰にそのまま挿すのも危ないしな」
このナイフ、振ってみてその使いやすさに先ず驚いた。
包丁使いの俺でも、このナイフなら十全に使えそう。
…が、恐いのはこのナイフが俺の武器になると同時に、最大の弱点に鳴るかもしれないということだ。
このナイフは、俺のアエテルの防壁を突破してくる。
自分の弱点を常に持ち歩く…。リスキーだ。
「それじゃぁ、先ずは武器屋ですね」
言って、クリスは鞄にナイフを仕舞った俺の手を取って、ズンズンと人混みの中を前へ前へと進んでいってしまう。
「ちょ、クリス!」
「ほらほら、早く行きましょう!!」
言いつつ、クリスはズンズンと進んでいく。
俺としては繋いだ手が何気に嬉しくて。
だからこそ、クリスの赤くなった耳を見て、尚更恥ずかしくなるのだった。
武器屋について、最初にナイフの採寸をとってもらい、皮製のナイフを作ってもらうことになった。
手付金として銅貨を10枚ほど置いて、クリスに銀貨を数枚握らせ、そのまま店内の武器の色々を見て回る。
大型の武器屋で、広々とした店内に整然と武器が並べられている。
まるでスポーツ用品店だ。
「と、言ってもねぇ…」
俺の基本的に使う武器といえば投擲武器だ。
投擲武器って、あんまり種類なさそうなんだけどなぁ…。
「お客様、本日はどのような品物をお求めで?」
と、適当に見て回っていた所、店員さんがそんな風に声を掛けてきた。
…なにか、ファンタジーくない。
「…投擲系の武器を」
「でしたた、あちらの棚になりますよ」
言われて、案内される。
適当に武器を見てたんだけどなぁ。
つれてこられた棚。
ずらっと一面に飾られているのは物凄い数のいろんな武器。
「此方など如何でしょうか」
「ダーツ…流石に威力が足りないよ」
「では此方など」
「ブーメランは癖が強すぎるよ。それに下手すると自滅しちゃうし」
「ならばコレなど」
「斧? …ああ、フランキスカだっけか。俺は速度重視なの」
物凄い勢いであれやこれやと勧めて来る店員。
そのこと如くを理由をつけて断ってしまう。
まぁ、流石に悪い気もするけれど、実際扱えないものを買っても仕方ない。
「コレなんて如何ですかっ!!」
「ピルムキターーー!!でもそれデカイし一本しか持ち運べないでしょう」
「ならこれで!!」
「チャクラムとかどんだけマニアックな武器そろえてるんだよ!! っていうか、ブーメランと同じ様な理由で不可能。…って、手裏剣も無理だぞ」
言って、手裏剣を持って来ようとしていた店員を牽制する。
棒手裏剣ならまだしも、回転させる奴は扱いが難しいのだ。
確かに刺さりはするが、命中精度の点となると………。
「コレは如何ですっ」
「いや、弓矢の矢だけ持って来られても……」
「ならばコレでっ!!」
「黒鍵キター!? なんでこんなマニアック武器が存在してるの!?」
店員が十字の柄だけの物に魔力を通した途端、その柄から刃が生えた。
反りも無く、そのくせ刀身は長く、反して柄は短い。
振るうにはバランスが最悪で、下手をすればあっと言う間に折れてしまいそうなそれ。
「おや、珍しい。この武器もご存知で?」
「珍しいって…その武器、珍しいものなのか?」
店員は驚いたような顔でそう問いかけてきた。
勧めておいて驚くとはこれ如何に。
「何? 一般的な武器じゃないのか?」
「ええ。コレはギキョウで生産された一品物でして、少しお高くなっております」
…投擲用の消耗品を一品物って…。
コレの製作者は馬鹿だ。馬鹿だが、きっと勇気在る馬鹿なのだろう。
漢気溢れる馬鹿だったのだろう……!!
「……まぁ、折角だしそれは買っておくよ」
「有難うございますっ!!」
……く、コレは趣味の買い物になってしまった。
悔しがる俺を尻目に、店員はニコニコと次の賞品を探してきて。
「それでは、次はコレなど如何でしょうか」
「投げナイフ……って、こんなモンあるなら最初に出せやっ!!」
思わず、店員の頭に軽くチョップを入れてしまったのだった。
それから、結局投擲用のナイフ(安価品)を大量に購入し、差込ベルトやらと一緒に購入して体中に装備した。
釘の棒手裏剣よりも、俺本来のスタイルとしては此方のほうが近い。
黒ナイフの鞘と合わせて、完全装備でご機嫌な俺だったのだが。
「あ、ケントさん。買えましたか?」
「ああ、ちゃんと買え…た…」
なんなんだろうかね。
クリスの手に抱えられた、質素なくせに品があって、天辺に一つ宝石の乗せられた木の杖。
張ってある値札(金貨の絵)と、背後で泣き崩れている店員(手の中には銀貨が数枚)を見るに……。
この娘、杖を叩き買いしてきたのかっ……!?
「クリス…恐ろしい娘っ!!」
「はえ?」
それでもやっぱり、首をかしげる仕草すら可愛らしいクリスなのだった。