友達。
「………む」
「め、目が覚めましたかっ!!」
呻いて、目を開けた途端、そんな声が飛び込んできた。
聞き覚えの在る声。
たしか、侍女のクリスの声だ。
「……此処は……」
「クルスト南部の宿屋です。お腹を刺されて、その治療に此処へ担ぎ込まれたんですよ?」
…ああ、そうか。
漸く記憶が回帰してきた。
あのヴェントとかいう大男のカウンターを腹に喰らって、馬に乗ってこのこの元まで大急ぎでつれてきてもらったのだ。馬に。
あのあと到着した町で、急遽この宿屋を俺の仮宿として、そのままクリスが治療を続けてくれていたのだとか。
「そっか、有難うクリス」
「…いえ」
礼を言うと、クリスは頬を赤く染めて俯いてしまった。
…うーん、なんというか、王道ヒロイン的な性格なんだな、この子。
「よっこ………あてってて」
「あ、未だ無理ですって!! お腹ばっさりいってたんですよっ!!」
「あー…なる」
腹部に目線を下ろす。
包帯で厳重に巻きとめられているが、一筋の血筋。…亀裂だ。
うへぁ、見たくない。
「そういえば、ダニエルさんたちは?」
「ダニエルさん…って、派遣騎士様ですか? ……その、彼等は既に、王都に向けてこの土地を立たれました」
そう、少し申し訳なさそうに言うクリス。
…あー、そうか。納得。
彼等の任務は、ロイを王都まで護送する事だ。
けが人が出たからとは言え、ましてや兵士でもない人間。この町においていくのが当然の判断だったのだろう。
「騎士様から『別れを告げられない事を残念に思う』という言伝と、元手にしなさい、と銀貨を数枚預かっています……どうぞ」
「ああ、了解……でも、ならキミは何故?」
馬車の兵士達がこの町を既に立ったと言うことは納得した。
…が、ならば何故彼女が此処に居るのか。
「私は…命を貴方に助けられました。ですから、私には貴方を助ける義務が在るんです」
……?
彼女を助けた…というと……馬車の中で矢から守った時の事か?
「天命を感じたんです。私は、貴方に尽くします。私は精霊術も扱えますし、是非私を従者としてくださいっ!!」
天命と来たか。いやまぁ、俺としてもこんな可愛い子と…じゃなくて、精霊術の使える…つまり補助系の人間が味方になってくれる、というのは嬉しいのだけれど。
「従者じゃなくて、友達になろう」
自分で言ってみてなんだが、物凄いクサい台詞を吐いた。
「とも、だち?」
「記憶喪失の小市民に、いきなり従者とかいわれても困る。だから、クリス。友達として、俺に色々と教えてくれないか?」
うわああああ。物凄くクサい。
自分で自分に恥ずかしい台詞禁止っって突っ込みたい気分だ。
「とも、だち……」
…と、ふと気付けば何故かトリップしている少女が一人。
「クリス?」
「あ、はいっ!!」
呼び戻して、手を差し出す。
所謂一つの握手と言う奴だった。
この世界に握手の風習が在るのか、少し心配もしたのだけれども、それは杞憂だったようで。
「はいっ、よろしくお願いしますっ!!」
言って、クリスは朗らかに微笑んだのだった。