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CROSS ROAD  作者: 青葉 夜
22/42

高速戦闘

すれ違い様に包丁の一撃を与える…が、男の着込んだ鎧は想像以上に硬く、鈍い金属音と共に此方の刃は弾かれてしまい。


「ふははははっ!! ギキョウ製の防具だ、軟な攻撃は効かんぞっ!!」

「お前の力でもなかろうにっ!!」


上機嫌で笑う男に悪態を返しつつ、しかし勢いよく振り下ろされたアックスを、宙を蹴って咄嗟に回避する。

この大男…想像以上に手強い。

屈強な身体に似合わぬ素早さと、筋肉とこの鎧の二重防御。

そして鎧にカバーされる事で存分に振るわれるバトルアックスの一撃は、馬でさえも一刀両断にたたききる。


…正直な話、一撃離脱の俺としてはやりにくい相手だ。


「貴様、アサシンか」

「…スキル的には近いな」

「ふんっ、日陰者が正面から俺に挑むなんぞ、自殺行為もいいところだっ!!」


そう。これはいわばアサシンがバーサーカーに挑むような愚行。

相性というのが、この上なく悪い。


…が、それでも。

それは、俺がアサシンであった場合の仮定だ。


「人を日陰者なんて、失礼なことを言わないでくれないか?」

「あん?」

「俺は俺だ。アサシンでもなければ、戦士でもない。俺は、ただの俺だ」


腰から釘を抜き出す。

正直、此処で惜しんでいたら殺されかねない。


ピピピピピピッ!!


放つ鈍色の棒手裏剣。しかし、事前に俺が武器を持ち替えた事を見取っていたのだろう。

大男は即座に斧を翳すと、それを扇風機のように回転させて、釘の大半を叩き落してしまっていた。


「なにっ!?」

「お返しだあっ!!」


男が腰から抜き放ったのは、一般的に作業用に使われるような小さな手斧。

その手斧を、男は投擲武器として用いてきて。


「うおっ!?」


咄嗟にしゃがみ込んでそれを回避する。

今の一撃、かなりの威力があった。俺の棒手裏剣でも、止められたかどうか……。


「そこだっ!!」

「ちいっ!!」


乗り換えた無人馬から咄嗟に飛びのく。

横薙ぎに払われた斧は、馬の首を叩き落していて。


「くううううっ!!!」


着地地転に馬は居ない。

……走れと!?


「ぬおりいいいいいやああああああああああああ!!!!!」


全身の気を込めて足に力を入れる。

クサの大地に足がめり込み、確りと蹴った大地と、その反動で前へと押し出される体。


「なっ、馬に追いつくだとっ!? テメェ本当に何者だっ!!」

「人間様だよっ!!」


大男のまたがる馬のケツ。其処に向かって釘を3本、一気に投擲する。

真後ろ。ここなら、大男の戦斧での防御は体勢的に不可能だ。


案の定、馬のケツに刺さった釘。馬は大きく嘶いて、そのまま前足を持ち上げて。


「うおっ!?」


言って、男は思い切り落馬してしまった。


「て、テメェ…!!」

「ぜー…っ、……っ、かっ、……ふぅ。これで漸く対等な条件だ」


自身を賦活して、呼吸を強制的に整える。

気の巡りは十全。

馬車は落馬した俺達を置いて、はるか遠くへとあっと言う間に行ってしまう。

ギリギリと歯をかみ締める大男。

…敵の大将級を此処に引き止めて仕舞えれば、正直此方の勝利なのだ。


「貴様あああっ!!!」

「遊んでやるよ。来い、斧男」


右手に包丁、左手には釘を構えて。






――ギンッ!!


火花が飛び散る。

包丁と戦斧。通常ではありえない、異様な光景。

薄い鋼の刃が、巨大な鉄の刃を受けきっているのだ。


「ぬあああっ!!」

「破っ!!」


大男の一撃の合間に此方は数十の刃を叩き込む。

加速する意識と肉体と魂。

既に魂は時間からはずれ、一秒は何千倍にも膨れ上がったような景色。

肉体は当然のように悲鳴をあげ、しかし其処に気を叩き込んで無理やり動かす。


ギッ、ギィンッ!!

武器と武器、鋼と鋼、刃と刃がぶつかり合って、虚空に飛び散るのは威力の火花。

千の一と、一の千を当てあって。

けれども、此方が当たるわけには行かない。

当てられることは、つまり此方の敗北を意味する。


この引き延ばされた時間の中で、どれほどの時間を戦い抜けるか。

戦えば戦う程にダメージを蓄積していく体。回復特と強化。それを、ダメージが上回った時点で此方の敗北は決定する。


ギイイインッ!!

武器と武器が弾け合う。

一度大男との距離を離して、呼吸を整えなおした。


「……っ、…っ、………」

「ゼー、ゼー、ゼー……」


大男のほうも、蓄積したダメージは相当なものだろう。

幾ら守りの堅い鎧とは言え、幾ら強靭な筋肉を纏っているといえ。

空振りが続けば疲労はたまるし、蓄積された振動は微細な違和感となってダメージに変わる。


「…まさか、こんなに早くに必殺技を出す羽目になるとは」


言って、再び完全武装で、半身に成って構える。

必殺技。嘗ての世界では必要としなかった、俺考案の高威力スキル。

正直この年になって必殺技とか、ちょっと恥ずかしかったので、というのも封印していた理由の一つだったりする。


「ほぉ、必殺技か。それを俺にぶつけると?」

貴殿(あんた)は強い。全力を出しても、勝てそうにないんでね」

「ふんっ、相性で勝っているのに、未だに勝てん俺が問題なんだとは思うが……ククッ、強者とやり合えるってのは、中々に楽しい」


大男はそう言って戦斧を右手で構え、左腕で身体を守るように盾にして。


「なら、俺の奥の手(ひっさつわざ)ってのを見せてやる。喜べ、弱者(ザコ)には見せん」

「ふん、俺としては喜べないなぁ…」


言いながらも、少し楽しく感じている自分が居た。

極限状態。こんな状態を感じなくなって久しい。

前の世界は争いこそ多くても、自分の身体で戦うような漢なんて少なかった。


どいつもコイツも、数で攻めて来るばかり。

意志も主義も目的も、主張も意地も目標も無く。

そんな愚物を蹴散らすに比べて、この大男との戦い甲斐の在ること。


目的こそ違えど、この大男は大男なりの目的を持ってこの場に立っている。


「ふん。悪役にしておくには勿体無い」

「てめぇこそ、正義の味方は似合ってねぇ」


クスリと笑って、腰を落とす。

残存の気の量からして、攻勢に出れるのはコレが最後だろう。

それでは、俺にしては珍しく、技名を呟いてみるとしよう。


「――奥義、“戦風の目へ挑む”」


意識が魂側へと引き寄せられて、肉体の感覚が第三者視点からの情報へと切り替わる。

瞬時に肉体をトップスピードへ。

既に視認すら難しいこの速度。大男を中心としたバトルフィールドが形成されていて。


形作った竜巻から、大男へと向かって一撃を入れる。


「ぐっ」


二撃、三撃。速度は上がって行き、それは次第に一つの動きへと形を変えていく。


大男の正面からすれ違い様に鎧を切りつけた。


大男の背後からすれ違い様に切りつけた。


大男の右側からすれ違い様に切りつけた。


大男の背後からすれ違い様に切りつけた。


大男の左側からすれ違い様に切りつけた。


大男の正面からすれ違い様に切りつけた。


大男の左側からすれ違い様に切りつけた。


ランダムに、しかし続けて放たれる金属音は、一つの音へと昇華して。

大男の動きが止まる。

そのタイミングこそが、必殺の一撃を入れるタイミングだ。


今までは所詮前座。全ては、この一撃が為に。


「散れえええっ!!」

「お前がなあっ!!」


突如として、男の体から紫色の気配が弾けた。

これは…。解き放たれた魔力の圧力が、一瞬俺の速度を減衰させて。


「チイイイイイッ!!!」

「オオオオオオオッ!!!」


大男の戦斧の一撃。刃を交わして、しかしかわし切れずに額をこすってしまう。

けれども、止まらない。止めない。

踏み込んだ一撃で、その包丁を男の胸に突き立てて。






―――パキンッ。


「――まさか、俺の鎧を破るとはな」

「…ギキョウ製品だっけ? 確かに、言うだけあって硬かった」

「キャラバンを襲撃した時に得た一品だったんだがな。……よもや、包丁如きに破られるとは思っても居なかったぞ」

「…まぁ、こっちの武器も砕けた」


手元を見る。

其処には、柄を残してボッキリと折れてしまった包丁の残骸が握られていて。

この刃の先端は、大男の割れた鎧の胸に、確りと突き立っている事だろう。


「この勝負は、俺の負けだな」

「いいやぁ、俺は本来斧使いだ。その俺に、斧以外を使わせた、お前の勝ちだろうよ」

「…ククッ、とは言っても」


腹を見る。

そこに、ズップリと突き刺さっているのは、柄から刀身まで全て黒に染まったナイフ。

段々と感覚が戻ってきて、少しずつ痛み出してきた。


あの、最後の一撃の一瞬。懐に入った俺を出迎えたのは、大男の左腕に握られた黒いナイフだった。

左腕は盾にしたわけではなく、腰にさしたそのナイフを構える為のフェイクだったのだろう。

カウンター気味に貰ってしまったその一撃は、しっかりと腹に食い込んでいて。

――つまり、大男の奥の手…カウンターを、俺は見事に喰らってしまっていた。


気で痛みを遮断しこそすれ、…多分、大怪我。


「俺は致命傷を貰ってるんだがね」

「治療すれば生き延びられるだろうが…。そのナイフは、お前にやる。それもギキョウ製の特殊素材で作られた一品だ」


そう言って、大男は何時の間に戻ってきたのか、大男の大きな馬へとまたがって。


「任務は失敗しちまったわけだ。…まぁ、お前と戦えただけでも儲け物だ。俺はヴェント。『大斧のヴェント』だ。またやり合える機会を楽しみにしておくぞ」


ニヤリ、と。笑うような気配を残して、重量級の蹄の音は、しかし何時の間にか遠退いていって。


「……か……はああぁぁぁ………」


息を吐きながら、内臓を傷つけないように優しくナイフを抜き取る。

やっぱり完全に黒染めの、しかしそれでも光沢を放つ奇妙なナイフ。

其れを腰に収めて、何時の間に来たのかすぐ傍にいた馬へと近寄る。


「よう」

「ヒヒィン」

「ああ、腹をブッスリ。放置すると流石に死ねるから、大急ぎでクリスの所へ連れて行ってくれ。ほら、さっき後ろに乗せた子だよ」


言って、馬の背中に乗る。

馬はゆっくりと、気遣うように振動を少なくして走り出してくれた。


「…………………」


残り少ない気で腹部の傷をとりあえず癒して。

…駄目か。意識が遠くなっていく。視界が暗く、音が遠く。


「…後は、任せるよ」


言って、意識を手放した。



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