アレは一体なんなのか
「うわぉ」
諸兄。俺は今現在、とても現実とは思えない光景を目の当たりにしている。
其処に居るのは金髪碧眼にゴスロリ衣装を着た少女と、それを取り囲むマッスルな覆面連中。
……諸兄って誰だよ。
「お嬢ちゃん、いい加減諦めたら如何だい…」
「誰がっ!! 誇り高きE・ヴェルグスの名を継ぐ私が、貴様らの様な下郎に跪いて堪る物ですかっ!!」
うわぁ、下郎だって。
っていうか金髪碧眼のゴスロリって何!? 此処は何時から外国人居住地に……っていうか、真逆此処は外国デスカ!? いやいやいや、の割りには言葉通じてるんじゃね?
「クックックックック……何時までその強がりを保っていられるのやら……」
「黙れっ!!【猛る風よ】っ!」
少女が吼える。途端吹き荒ぶ風は、男たちに向かって……
って、何今の。風? 魔法ですか!?
この世界は何時からファンタジーを許容したんですか!?
…いや、世界?
「くっくっくっくっくっ…貧弱だなぁ、嬢ちゃんよ」
「……っ」
巻き起こった風は、しかし大男達には然程の影響も与えなかったようだ。
マスクから覗くニヤニヤ笑顔。
此処から見えるだけでも油ギッシュでキメェ。
そんなことを考えて、ボーっとしていたのが悪かったのだろうか。
姿勢を直そうと足を組みなおそうとして、足元に合った何かを思い切り踏みつけてしまった。
ピシッ
「っ!? 何だっ!!」
…あー、最悪。小枝だ。なんで此処までお約束を守ってるんだ、俺。
「出て来いっ!!」
何か危ない雰囲気。後続に控えていた覆面’sが、その手に持った手斧を握りなおして、その手を振り被って………
「って、ちょまっ!! おけ、出るからちょっと待って!!」
言いながら慌てて茂みから転がり出る。
「何だ手前はっ!!」
うわぁ、めっさ睨まれてますがな
此方を睨みつけてくる視線はその数6。
…面倒だけれども、まぁなんとか出来なくもない数だな。
少女のほうを見直す。
金髪少女もこちらを見ていた。なんというか、判断に困っている、って感じの表情。
そりゃそうだろう。突如現れた第三者。敵か味方かも解らない。
まぁ、敵の敵は味方ともいうんだけどな。
「貴様、一体何処から…いや、何の目的でこんな所に居るっ!!」
「いや、なんというか。道に迷って、といったら信じてくれる?」
「ふざけるな馬鹿野郎っ!! 何処のどいつが道に迷ってこんな森の深部まで迷い込むんだっ!!」
深部…そんなに奥なのか。
っていうか、確かに成績は自慢できるほどの物でもなかったけど、こんな一般教養も欠落してそうなマッスルに言われる程零落れた心算も無いんだが。
「いや、事実。んで、君らを邪魔する心算もありません。ので、逃してくれると嬉しいんですけど」
「なっ!? か弱い少女が野党に襲われてるのに、見捨てる気ですかっ!? 貴方それでも男なのっ!!」
今度は少女から文句が飛んできた。
知るか。この時点ではまだ俺は関係ない常態へ戻れるんだし。
「へっ、いいぜぇ。俺たちは野郎には興味なんてねぇんだよ。置くもの置いてとっとと消えるなら見逃してやらなくも無いぜ?」
置くもの…まぁ、勿論お金の事なんだろうね。
「あー、残念。今月の小遣いはもう残ってないんだよね」
「そりゃ残念。残しておけば、命が助かったってのにな」
愉快そうに笑う男。
なんというか、顔面に一撃入れないと気が済まない。
「まぁ、交渉決裂かな?」
「そうなるな。残念だが、死ね」
言って男が手を振り被る。
ソレを合図に、後続の男たちが此方へ向かって手斧を投げつけてきた。
何を言っているのか。そもそも生かしてこの場から逃す心算なんて最初から無かったくせに。
…まぁ、この程度なら幾らでも対処できるが。
バンッ!!
「なにいっ!?」
鞄を一振り。飛来する斧を一撃の下に叩き落とす。
この程度で驚かれては。俺の日常は一体何なんだ、と言う程度にレベル高いぞ?
「ほれ、走れ」
「は? え!?」
まだ理解していない少女。その肩を軽く押して、覆面マッチョへと向き直る。
「ちょ、貴方何を…」
「殺しってしたくないから、時間を稼ぐ程度だ。さっさと逃げろって」
言って、腰のベルトに設置したポケットから“ソレ”を数本抜き出す。
五寸釘をグラインダーで加工して作った棒手裏剣。
それを、相手の足を狙って投げつける。
ドスッドスッドスッドスッドスッドスッ!!
「うがあっ!?」「ぎぃっ!?」「ひぎぃっ!?」「づあっ!?」……
そんな悲鳴がエトセトラ。
俺の投げはなった五寸釘は、覆面マッチョ達の足を見事に地面に縫い付けていた。
「後は逃げる。ダッシュだ!!」
「え、わひゃっ!?」
呆然とする少女の手を掴んで森の中…木の深いほうへと走りこんでいく。
背後から響く罵声。
野太い声が「追えっ!!」とか、「さっさと行けっ!」とか叫んでいる声が聞こえてくる。
捕まったら確実に殺されるなぁ。
「ちょっ!! 貴方一体何の心算…」
「いいからつかまっておけっ!! 舌噛むぞっ!!」
言って、其処へと飛び込む。
突如として開けた森。青々と広がる空が目の前に現れて。
「って、ちょ、崖じゃ…キャアアアアアアアッ!!!!???」
そのまま、一気に崖を駆け下りた。