馬車の旅路
ゴトンゴトンゴトンゴトン。
「なるほど、ねぇ」
「それで、結局あんな所に行っちゃった訳なんです」
「森へ狩りに行って襲撃されて、道に迷って森を突っ切って…よくもまぁ無事で居られた事」
「グリズリーに襲われた時は流石に死ぬかと思いましたが、幸い多少ながら魔術を齧っていたもので、火を熾して逃げたんですよ」
馬車の中、そんな感じでくだらない事を話す。
話しているのは主にロイで、俺は聞き手といった感じで。
…ことは数時間前。出発して、最初の昼食を街道で取ったときのこと。
野営でキャンプを設置して、侍女さんたちが忙しそうに歩き回って。
暇なので仕事を求めた所、何もしないで良いと言い切られてしまい、申し訳無いやら居心地が悪いやらでキャンプ地から少しはなれて。
で、そんなところで件のロイが暇そうにしている所にかち合ったのだった。
「ボクは立場上は上の人間ですし、話し相手もいなかったんで」
「あー、まぁ、読書なりなんなりしていればいいんじゃ…」
「嫌です。ボクは体育会系の人間ですよ? あの狭い馬車に数時間、正直気が狂いそうです」
あー、何となく把握。
要は、コイツ寂しがりやなんだろう。
一人ぼっちで居るのが苦手で、ならばせめて身体を動かしていなければ気がすまない、と。
「あ、そうだ! ケント、良ければボクの相手をしてくれませんか!?」
「面倒なんで断る。誰か兵士にでも相手をしてもらえば良いんじゃないか?」
「彼等は、その…堅苦しいというか……」
「あー…把握。でも、それを認識できるお前って本当に貴族か?」
普通貴族って言うのは、そういうのを普通と認識するような連中なんじゃないんだろうか。
いやまぁ、所詮俺の世界の、しかもオタク的な知識なんですが。
「らしくない、とはよく言われますね」
「だろうなぁ…因みに獲物は?」
「普通のロングソードですね」
…まぁ、位の高い貴族で、しかも社交的で剣術も出来て。
うわぁ、理想的な王子様象だこと。
「何かムカつくな」
「ええっ!?」
そんな風に、空いた時間をロイと二人で過ごしていた結果、どうやら俺はロイに気に入られてしまったらしい。
反対する兵士達(と俺)を押し切って、ロイは俺を護送馬車の中へと押し込んで。
「…で、ロングソードって言うのは実は戦場ではあまり役に立たなくて…本来使われるのは槍とかがメインですね」
「お前みたいな貴族が戦場に立つ機会なんて、滅多に無かろうに」
そんな、雑談の相手をさせられるのであった。