ボウヤの意図
ロイはその容姿からもわかる通り、所謂貴族とかいう階級の人間なのだそうだ。
訳在って従者と旅をしていた所、あの盗賊連中に追い回されてしまったのだとか。
町に到着して、先ずはじめに聞こえたのは、クキュルルという可愛らしい音。
音源はどうやらロイの腹部から。
と言うわけで、町の真ん中に在る小さな食堂へと向かったのだった。
「その従者さんは?」
「逃げちゃいました。目的はボクだったようなので」
まぁ、世の中利害関係で成り立つし、其処は責める気にもなれないが。
「あの、貴方は…」
「ああ、そういえば未だ名乗ってなかったかな。北岡健斗。北岡が姓で健斗が名だ」
「ケントさん」
今思ったのだが、俺の名前ってカタカナ発音すると外人みたいだ。
「ケントさんは旅人なんですか? とても御強いようでしたけど」
「あー…あれは趣味だ」
「しゅ、趣味!?」
そう、俺の持つこの戦闘能力は、もう趣味としか言い表せない。
現代日本。形骸上とは言え、法の整備されたあの国で、人を殺す為の技術なんて一体何処に必要が在るというのか。
ジジィ曰く魔物退治なのだそうだが、俺はこの方幽霊は見てもンな怪物は見たことが無い。
だと言うのにじじいはありとあらゆる戦闘技術を俺に叩き込んだ。
結果として出来上がったのは、人付き合いが苦手なキラーマシン。正直社会不適合者とかでは言い表せないレヴェルだ。
これはヤヴァイと自覚できていた俺は、其処から必死になって人間性を確立して言ったわけなのだが…
気付けばオタク。それが健斗クヲリティー。
「オタク? 家を持っているんですか?」
「ん? …ああ、いや。オタクって言うのは、家に篭ってひたすら趣味を突き詰める人たちのことだ。まぁ一種の魔術師だとでも思っていればオッケーだ」
へぇ、と感心している様子のロイ。
…俺は間違った事は言っていないよな…?
「まぁ、んな事は如何でも良いんだ。そんな事よりお前、これから如何するんだ? …あ、オネーちゃんミルクとお肉頂戴」
「はぁ、これから…といいますと…… ボクもミルクを」
「つまり、此処からどうやって帰るのかって事」
腸詰にかじりつきながら問いかける。
このお坊ちゃま、今一現状を把握し切れていないのだろうか。妙に朗らかに笑う。
「此処からどうやってもと来た場所に帰るんだって聞いてるの」
「その事なんですけど、ケントさん、ボクを首都ミレウスまで送っていただけませんか?」
「はぁ? …あ、お肉はこっちね」
疑問の声を上げつつ、ウェイターのお姉さんから肉を受け取っる。
肉にかぶりつきながらロイの顔を見るのだけれども…なんというか、キラキラしてますね。
「此処からクルストまで4日程、クルストからミレウスまでは更に数日を要します。ボク一人では流石に無理ですから、誰か人を雇おうと思って…」
「そこで俺か。…まぁ、確かに理に適ってはいるけど…」
ただ、とても自己中心的な考えだと言うこと以外は。
「まぁ、話してしまうと俺は記憶喪失の身でな。常識の何から何まで綺麗さっぱり消えちゃってるんだよ」
「き、記憶喪失!?」
「そ。んで、今現在騎士のダニエルさんに連れられてクルストを目指している最中。頼むなら俺じゃなくてダニエルさんに聞くべきだね」
「そのダニエル氏は…」
「今現在騎士の急務とかでお仕事中。帰ってくるのは不明」
ガックリと落ち込むロイ。
まぁ、何と言うか。
「とりあえず宿でもとって、話しするのは明日にすれば如何だ?」
「…そうですね。焦っても仕方ないか…」
言って、ロイは何処か悟ったように呟いて。
「あ、オネーサンお肉追加ね」
そんなの関係無しに、俺は俺で肉を食うのだった。
正直な話、これ閑話。
頑張って執筆します。