イベントを求めて。
狼退治の後、11本の尻尾を持って領主の邸宅へ。田舎の割にはでかかった。
尻尾を見せると領主は大いに喜んで、皮袋につめた金貨を25枚も出してくれた。
断ったのだが、「まさかあのクエストを受けてくれる人間が居るとは思わなかった」とか言って、結局報酬は提示金額より金貨5枚も多く貰ってしまった。
なるほど、この近隣のクエストにしてはアレはレベルが高いヤツだったのだとか。
…全然梃子摺らなかったんだけどなぁ…。
で、時間も未だ昼。折角なのでもう一つ、クエストでも受けようと思っていたのだが。
残念ながら、もうよさそうなクエストは一つも無かった。
流石に、包丁一本でグリズリーとやりあうなんていうのは勘弁願いたい。
勝てないことは無いが、面倒臭そうだ。それに、流石に殺してばっかりと言うのも…。
「あーあ、何か面白い事ないかねぇ」
まぁ、異世界に迷い込んでいるというこの現状自体かなり面白い事であるのは確かだが。
イベントといえば最初のメリッサとの邂逅だけ。
「………町から少し出てみるか」
小さな町だ。中は一通り見て回ってしまい、正直暇で暇でたまらない。
せめて、町の外に居るであろうモンスターでも見て暇を潰そう。
「ゴブリン…また来てたら……クククククク…………」
懐に下げた投石袋。
石の貯蔵は十分だった。
「うりゃああああぁっ!!!」
襲い掛かってきた蜘蛛連中を、その投石の一撃で蹴散らす。
全長2メートルはあろうかと言う巨大な蜘蛛。しかも、それが大量に沸いているのだ。
町の外を適当にぶらついていた結果、この連中に見事に奇襲されてしまったわけなのだが。
「ふんっ!!」
ヒュゴッ!!
音を立てて石が飛んでいく。
蜘蛛の頭に突き刺さり、腹を叩き千切り、爆砕して粉砕して斬砕させる。
はじめは30以上いた蜘蛛連中も、最早“親”である出かぶつ一匹を残すだけとなった。
――――――――――!!!
響く怪音。それはこの蜘蛛連中の鳴声だ。
振り上げ、振り下ろし、押し出す。
左右同時に続けて投げる石の連撃。
一撃一撃に必殺の威力が込もったそれは、慌てて回避する蜘蛛の四肢…脚は八本在るけど…に被弾して、再び高音の悲鳴を上げた。
「…………ん?」
緑色の体液を垂れ流した親蜘蛛は、しかし今度はその尻をこちらに向けて、毒々しい色の糸を噴射してきた。
続けて投擲していた石はその糸に絡め取られ、そのまま此方へと押し寄せて……。
「ふんっ!!」
一閃。懐から抜いた包丁で糸を叩ききる。
正確には、気合。気を持って糸の“流れ”を叩き斬ったのだ。
糸はその流を二つに分けて、そのまま見当違いの方向へと飛んでいってしまった。
「さぁ、次はどんな技を見せて……って、あれ?」
改めてその親蜘蛛に視線を向けて、そんな間抜けな声を漏らしてしまう。
何故か真っ二つに分かれて、グシャッ、と潰れてしまっている親蜘蛛。
……………………あ、糸のついでに斬れちゃった……?
「うわぁ、余計な物まで斬っちゃったよ…修行不足だ…」
斬り過ぎ、というのは昔からの事。もう少し加減を勉強しないとなぁ。
と、そんなことを考えながら蜘蛛達の殲滅部位を回収する。
確か、前足の爪が良質の加工素材になるとかで、殲滅部位として回収するのだとか。
緑の悪臭漂う屍骸場からそれらを回収して、最後に親蜘蛛の爪を剥ぎ取って、袋に入れて鞄にしまう。流石に直接入れるのはちょっと躊躇う。
「…さて、いい運動もしたし、そろそろ帰りますか」
顔を上げる。見れば、そろそろ日も沈み出していた。
「――――――ほぉ………」
広原の彼方に見える沈みかけの太陽。
真っ赤に空を灼くソレが、緑の草原を紅く萌やしていた。
そんな赤焼けの広原に映る人の影。
先頭を走る馬と、それを追いかける数機の馬。
後から追いかけてくる馬。その騎手たちは、前の馬に向かって矢を射掛けていて。
「……って、マジイベント発生!?」
フラグを立てた覚えは無いぞっ!! …じゃ無くて!!
目を凝らして様子を確認する。
ぱっと見、逃げている方は一般人。追いかけているほうは、鎧に身を包んだ…………盗賊?
騎士が悪人を追いかけている…とかでは断じて無いだろう。
「…っていうか、何? またこのパターンなのか!?」
もう少し目新しいパターンは無いのだろうか。
……まぁ、助けはするんだが。
「……はぁ」
見てしまった以上、助けないわけには行かない。
溜息一つついて、その連中の下へと駆け出すのだった。
すいません。展開とかちゃんと勉強しますorz