昼間の狼討伐作戦
そも、旅と言うのは意外にお金が掛かる。
食料や衣類、医薬品に装備品など。
俺は今現在、その全てをダニエルさんの好意に甘えてしまっている。
「働いて、返さないとなぁ」
そういうわけで、俺でも出来そうな仕事を探そう、と思っていたところに見つけたのが、件の求人広告掲示板。
大抵は家事手伝いの類か、雑用というもので、言ってしまえば子供の小遣いだ。
…が、たまにこういう感じの、急務で高報酬の仕事が掲示されるらしい。
「まぁ、ラッキーだったと」
この町に、今現在それほど腕の立つ人間が居なかったという事なのだが。
…果たしてラッキーといえるのか。
まぁ、とりあえず、早々に狼連中を駆逐してしまおう。
決めて、移動を開始。クエスト用紙に記載された地図。場所は此処で合っている筈だ。
…なるほど、町からそんなに離れていない。これは早々に始末したいだろう。
「さて、それじゃ早々に駆逐しようか」
言って、鞄の中から携帯電話を取り出す。
登録されたアプリ、『いろんな音』。これこそが、今回の作戦の秘訣だ。
アプリにセットされた音源。“犬笛”。
犬に聞こえるんなら狼にも聞こえるだろう。多分。
スイッチ、オン。
あとは件の狼が引っかかるのを待つだけなのだが……。
……何故に、一斉に来てしまうのか。
「URURURURURUUUUUUUUUUURURURURURURURU……………」
四足の類は機動力が高い。出来れば各個撃破で行きたかったんだけれども…。
狼達は、今にも獲物…つまり、俺に飛び掛らんと、舌なめずって此方を睨みつけていた。
「まぁ、仕方ないか」
包丁を取り出して、一気に駆け寄る。
此方に対して警戒していた狼は、それを確認して咄嗟に飛びのく。
……が、遅い。
長距離では、流石に四足には劣るだろう。が、短距離・瞬発力に関しては、並の四足に負けない程度の訓練はこなしてきた。
下方からの切り上げ。飛び退る狼を追撃するようにはなったソレ。
地面に着地した狼は、そのまま身体を真ん中から真っ二つにして崩れ落ちた。
「「「「………!?」」」」
伝わってくるのは驚愕の気配。
獲物である人間に、仲間を殺されたという怒り、恐怖、困惑。
その隙こそが、殺戮を可能とする瞬間。
足に力を込める。前へ前へ前へ。
気功。練り上げた気を刃へ通す。必要なのは相手に触れているその瞬間だけ。
一匹を上下二つに分けて、一匹を真ん中で叩き切って、もう一匹の首を叩き落して。更に一匹を肩から袈裟懸けに切り裂いた。
一拍置いて崩れ落ちる狼達。
残るのは6匹。
………ジリッ。
後退る狼達。逃げる心算だろう。が、そんなことは俺が許さない。
正真正銘本気の殺意。その昔、これを見た人がショックで気絶してしまって以来あまり見せない様にしているものだ。
「GRUUUUUURURURURURURURUUUUUUU……………」
この殺気を前にして。
人のような感覚の鈍い種類なら、悲鳴を上げて逃げるだろう。
しかし、野生の連中は違う。今此処で背を向けたら、そいつから確実に狩られる。
それを、連中は理解する。理解してしまうから逃げる事が出来なくなる。
「オ―――――――――ン…………」
狼の一匹が遠吠えを上げた。ソレを合図に飛び掛ってくる残り5匹。
カウンター気味にその全てを空中で解体していく。
縦横斜め、脇から真っ二つ、首を跳ばして。
そのまま踏み込んだ足で、最後の一匹を切り倒す。
………グシャッ。背後から、そんな肉の崩れ落ちる音が聞こえてきていた。
「………ふむ。意外と簡単だったかな」
予想以上に手早く終わってしまった。
幸い何処にも怪我は無い。
「えと、確か殲滅部位って言うのは尻尾でよかったんだよな…?」
魔物を倒したその証明として、魔物の体の一部を持っていかなければならないらしい。
グロい肉塊、略してグロ肉。
俺が作り出してしまった血みどろ空間。散乱する死体から尻尾の部分だけを選んで切り取る。
その数11本を確認して。
文化包丁に微かについた血糊を紙で拭い取り、懐の皮鞘に収める。
「それじゃ、報酬を貰いに行きましょうか」
日は、未だ昼にも及ばず。
もう一仕事位ならいけそうだな、などと思いつつ町へと帰るのだった。