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8話

須賀は玄関のチャイムの音で目が覚めた。押す者の怒気を感じる程のすさまじく連続したチャイムの連打だった。

『朝から誰だろう?まさかもう?いや、ネットじゃあいつら知性が無いってあったから、チャイムなんか鳴らすはずない、人か?』

須賀は恐る恐る格子の板の隙間から玄関ドアロックとチェーンを外した、その瞬間に外からガバっとドアを開けられた。


「須賀ぁ!おはよう!」

「あっ、」

「あっ!じゃないぞ。俺に断りも無く急に辞めるなんてどう言う事だ?」

須賀を訪ねて来たのは須賀と同じ職場で同じラインを担当している熱血班長の山本だった。行動や理解、返事が遅いとすぐ拳で会話する前時代的な人物だ。そして世界は割と自分を中心に回っていると勘違いをしている人物でもある。

「班長、そっとしといて下さい。」

須賀と山本は玄関の格子越しに話す。

「なんだこの板は?話ができやしねぇ。」

そう言うや否やオラッ!と言う気合いの声とともに山本の正拳突きが炸裂し、固定している釘ごと板が1枚外れた。

山本は幼少期から空手を今でも続けておりその実力は師範代クラスだと本人は言っていた。

「ちょっとやめて下さいよ。これ付けるのに結構時間掛かったんですよ。」

「こんな物で俺は止められ〜ん。おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃっ、おりゃ〜!」」

山本は正拳突きを連続で繰り出し、全ての板を排除し始め、須賀は半ば諦めた様で大人しく板が勢いよく外れ飛ぶ様を眺めていた。

「須賀ぁ〜、ちょっと上がらせてもらうぞ〜。」

山本はそう言うと須賀の了承を得る前に勝手に靴を脱ぎズカズカ上がってちゃぶ台の前にドカっと座った。須賀はアウアウ言うだけでそれを見守り、一つ小さく溜息を吐くと山本の対面に座った。

「んで?何で急に辞めるんだ?夜勤明けで眠いから簡単に教えてくれるか?」

山本は欠伸混じりにそう言うと勝手にテレビを付ける。

「いやっ、あのー、ネットで、あのー、アメリカで、あのー・・・。」

須賀は言い難そうにモジモジしながら話そうとするが、欠伸の後に目をこすりながら聞いていた山本が突然目をカっと開き怒鳴る。

「このぉ!はっきり喋れやお前!"いやっ"と"あのー"を抜かすと、ネットでアメリカで、しか喋ってないだろ〜が!意味分からんぞ!大卒!」

山本はテレビのリモコンで須賀の頭をペシペシ叩く。


山本は高校生時代に暴走行為で逮捕されたため退学処分となってからずっと今の工場に勤めている。

本人曰く、高校なんてつまらないものはこちらから辞めてやったと強がっていた。

最終学歴は中卒になる為、大卒者に学歴コンプレックスを持っていて、須賀がモゴモゴすると必ず「大卒」と罵った。

須賀よりも山本は年下だったが、「芸人システム」という謎の制度を自身の班に導入し、年上であろうと入社歴が浅い者には敬語を強要していた。


「いやっ、ニュースで見たんですよ。」

意を決した様子で須賀は話す。

「何を?」

「それでネットで調べたらゾンビが発生するって。」

「ぶわっはっっはっは〜、お前ネットの嘘なんか信じてるの?俺でもネットの嘘とホントは見極めてるぜ〜。なんだ?だから工場辞めるのか?」

山本は可笑しくてしょうがない様子で笑いながらそう言い、笑いすぎて目端に涙をにじませた。

「いやっ、ホントだって、今日あたり、多分だけど、動画なんかもアップされ始めると思いますよ。」

「ん〜なら、ちょっとその動画を見せてくれや。」

「ちょっと待ってて下さいね。」

須賀はパソコンをカタカタと動画投稿サイトを検索し始めた。


「うぉっ!何だこの量のラーメンは?」

待ちきれなくなった山本は押入れを須賀の断りなく開き、驚きの声を出す。

「ちょ、勝手に見ないで下さいよ〜。」

「一個食って良いか?良いよな?夜勤明けってメッチャ腹減るよな?お前も分かるよな?な?な?」

無駄に目を子供の様にキラキラさせた山本がそう尋ねる。

「はぁ〜、良いですよ。それ食って大人しく待ってて下さいね。もぉ〜。」

須賀は再び検索し始め、ゾンビモノの映画の予告映像や自主製作の映像の海からやっと該当する映像を探し出した。


「ありましたよ!班長!って何を勝手にノート開いて見てるんですか?」

山本はラーメンを啜りながら須賀のノートを読んでいた。

「これ、ポエムって奴か?お前、なかなか痛いな。えーっと何々、

『「暗い」のではなく「優しい」のだ。「のろま」ではなく「ていねい」なのだ。「失敗ばかり」ではなく「たくさんのチャレンジをしている」のだ。』

なんだよこの偉そうな言い訳は!」

「ポエムでも言い訳でも無いっすよ、アドラーっすよ。」

「アドラーだかマドラーだか知らんが早く動画見せろよ。」

「班長がイジるからでしょ!もぉ、ホラっ、この動画っすよ。空港で観光客が撮影した見たいですよ。」

須賀はノートパソコンの画面を山本に向けるとエンターキーをパシーンと叩き動画を再生させた。

山本は爪楊枝で歯間に挟まったインスタントラーメンの具材をシーシー音を立てて掃除しながら興味無さそうに見ていたが、動画が進むにつれ爪楊枝を操る速度が遅くなり終いには完全にその手を止め、口を半開きにして食い入る様に画面を見続け、再生が終了するとマウスを操作しまた最初から見始めた。

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