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54話

球場入り口に殺到する信者達。入り口のフェンスを押し倒さんばかりの勢いだ。

信者達は盛んにガシャガシャと揺らしていたが、そのうち1人がフェンスを登りだすと、次々に登りだした。

最初に登り始めた信者が天辺にたどり着こうとしたその時、一筋の高圧水がレーザービームの様に発せられ、信者を地面に叩き落とした。

放水は次々に信者に当たり、フェンスに取り付いた者は全て地面とキスをする結果になった。

それだけでなく、フェンスを倒さんと必死に揺らしていた信者達も放水の餌食となり、次々に後退していく。

「あーはははっはー!風邪引くなよぉー!」

小川は爆笑しながら放水し続ける。

放水によってフェンスから引き離された信者達は砂を噛みつつ放水を気にせず前進するが、小川の放水銃の扱いの方が上だった。一定の距離から信者達は入り口フェンスに近く事も出来なかった。

モタモタしている信者の頭上のスタンド席から拳大の石が次々に投げ込まれ、放水の餌食になった信者にヒットして信者の体力はドンドン削れていく。

「どうしたぁ?お前らの信仰心はそんなものかぁ?あーっはっはっは!そんな感じのツラで目黒がお前らを見てるぞぉ!」

小川の発言で信者達はハッとし、一斉に目黒に向かって振り返る。

事実、目黒は額に青筋を立てて、今にも小川と同じセリフを言いそうになっていた。

それを見た信者達は背筋に凍るものを感じたのか、それまで放水と投石で体力を削られ緩慢な動きだったが、一斉に息を吹き返す。

「何を敵にハッパかけてるんですか?」

松本は小川の頭をパシリと叩く。

「イテっ。村長、これも作戦だって、こんな風に言われたら、意地でも動くでしょ?そしたら奴等頑張るからドンドン体力なくなる。」

そう言いながら小川は放水する手を休む事なく動かし続けた。


小川と松本が打合せした内容はこうだった。

消防車でゾンビの群れを球場付近まで誘き寄せる。

球場では消防車を使って信者の足止めをする。

あとは日時を合わせるだけの簡単なものだったが、ここまで効果を発揮するとは松本も思っていなかった。放水銃の威力が凄まじく、信者を安全に寄せ付けない。

松本は小川に甘いと言われたが、放水銃による鎮圧を考えていた。それは、生きている人間は今後の復興に欠かせない。とりわけ、人口の増加には絶対的に必要と考えていた。だからこその放水案だったが、小川は違った様で殲滅を考えていた。

小川が言うには、どんなに更生、矯正をしようとも変わらない人物はいる、信者全部とは言わないが、可能性は潰すべきだと主張した。

その小川の作戦がもう少しで実を結ぼうとしていた。

放水を続け、マイクを使い派手に信者を煽る小川の声に引き寄せられる様にゾンビが集まっていた。

「まだ突破できないんですか?何を水ごときに後退しているんですか?掻い潜ってあのフェンスを開けるだけの簡単な仕事じゃないですか?それをもたもたと!」

目黒は側近にイライラを隠さずに問い詰める。

そこへゾンビの群れが背後から迫っている知らせが入る。

「まったくこの忙しい時に…、皆に旅装束をするように指示を出しなさい。」

目黒はそういうと自分のコートを羽織る。

そのコートにはゾンビの肉片や臓物等が塗りたくってあり、ものすごい腐臭・死臭がしていた。

目黒の指示が全体にいきわたったのか、それまで果敢に入り口に詰め寄っていた信者たちが潮が引くように一斉に一度後退し、それぞれがゾンビの血肉に汚れたコートを羽織りだした。


松本はスコアボードの裏から双眼鏡で眺めていた。

「そろそろゾンビと接触するぞ。」

隣で松本と同じように警戒当たっていた村の住人に言う。

松本は実力行使をしてきた目黒に対して容赦はしないことを決めていた。

たとえそれが目の前でゾンビの餌食になろうとも、自分の仲間を守るためには仕方がない。食われる前に食う弱肉強食の時代なのだと言い聞かせ、自分の作戦を正当化していた。

アウム真誠教徒にゾンビの群れに襲い掛かると思われたが、ゾンビは何もせずにただ素通りした。

それを見た松本は反射的に叫ぶ。

「小川さん!大きな音を立てるのをやめさせなさい!」

アウム真誠教徒を素通りしたゾンビ達は入り口フェンスで大声で煽る小川達に引き寄せられその歩みを進めていた。

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