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52話

目黒が帰ったその晩の夕食後に松本は皆を集めて梅本何某率いるアウム真誠教団なる宗教団体の事を話した。

アウム真誠教は最初にヨガ教室から始まった。

人集めの為か超能力やオカルトをヨガ教室の前後に話す様になり、その言葉を信じて修行すれば誰でも超能力が手に入れられるなどと言って、社会に不安を感じたり疑問を感じたりしていた、行き場を失った若く優秀な者が次々とのめり込んだ。

財産を全て教団につぎ込み、親兄弟の財産も全て寄付させ訴訟問題も起こしていた。

公安からの報告では教義はヒンズー教や仏教、イスラム教をミックスした様な無茶苦茶な物だったが、洗脳や恐怖政治で信者同士を縛り付け、それに疑問を持った信者が富士山の麓の教団本部から逃げ出し、それを捕まえて教団内でリンチを掛け殺害している様だった。

その数は1年間で30名近くが行方不明になり、そのうち5名は確実に殺されており、強制捜査は目前だった。

松本は感染爆発の混乱の中ですっかり忘れていたが、まさかそのカルトと言っても過言ではない教団が生き残っているとは思っても見なかった。だから松本は教団名を言われても直ぐには思い出せないでいた。


皆は焚き火を囲って松本の言葉を静かに聞いていた。

「俺ぁ、アイツは嫌いだな。アイツは俺の地元の頭がおかしくなって人を殺した先輩と同じ臭いのするヤツだ。間違いなくアイツも人を殺してる。」

小川が焚き火に薪をくべながら言う。

パッと焚き火から火の粉が上がる。

「さっきも言ったが、30人が行方不明になってる。まぁ殺されてるとは思うが、危険な宗教団体だな。」

松本は焚火を棒で突き薪を弄りながら言う。

「何のために来たんでしょう?」

渡辺夫妻が不安そうに松本に聞いてきた。

「あいつらの狙いは人だろうなぁ。富士山の麓にあいつら国を作ったって言ってた。公安の報告にあった大規模な修行場がそうだろうな。確か収容人数は3000人とか言ってたな。復興は私も考えてましたが、宗教を基にするのはいかがなもんかんねぇ。」

松本は相変わらず焚火を棒で突きながら言う。突くたびに火の粉がパッとあがり空に舞う。

「ひょっとすると最悪の場合、実力行使とかしてくるかもしれん。今日来たのは一人だが、近くに仲間を潜ませていると考えたほうがいいだろう。」

「それはどうして?」

「小川さん、あいつ、目黒の恰好に気が付かなかったかね?特に武器も持っていない。荷物も持っていない。途中で投げ捨てて逃げてきた風には見えない。っとなると仲間に途中まで送らせて、近くに潜んで様子を見ていると考えたほうが自然だろう。」

「どうしてそんな面倒な事を?」

「こちらの反応を見たかったのだろう。従順なのか?反抗的なのか?人はどのくらいいるのか?武器は?生産能力は?おおかたそんな感じの偵察じゃないか?そして、ここはアイツらのお眼鏡に叶った様だ。近いうちに選択を迫られると思うぞ。」

「選択ってのは?」

焚火を囲んだ仲間たちから自然と質問が飛んでくる。

「アイツらの仲間になるか、敵になるか?平たくいうとこの2択だな。」

松本が言うと辺りはざわつき始めた。

松本は敢えて何も言わず皆それぞれ好きに議論をさせた。

イニシアチブをとって皆の意見を誘導することはできるが、それでは今後のためにならない。常に自分に意見を聞いてくる様な指示待ちの集団となってしまう。自分の力で考え、困難な選択をし、道を切り開いていくことがこれからの世界に必要な考え方だ。

誰かの後についていけば良いという考えで生きていける世は去った。

松本はそんな事を考えながら焚火を突き続けた。空高く上がる火の粉が綺麗だった。

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