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51話

秋になり球場の畑はこれまでに無い忙しさに包まれていた。

それまでも野菜等は品種や収穫時期をずらして定期的にそこそこの量の野菜を収穫していたが、秋になりメインとなる穀物の実りが良く、住民総出で作業を行なっていた。

「早い段階で徳さんが合流してくれたから、この結果なんだろうな。」

松本は小川と作業をしながら話す。

「そうだな、最初は枯れる野菜も多かったもんな。土質改良にはかなり骨が折れたけどな。」

小川は腰をトントンと叩きながら答える。

球場の土は砂質土で、いわゆる真砂土と呼ばれる花崗岩が風化して出来た土で水はけが良く、水を含んで乾くと固くなる性質があり、畑には全く向かない性質だった。

何度、試行錯誤しても改善が見られずに途方に暮れているところで、ひょっこり徳さんが合流した。

徳さんは農家では無く、引退した大学の教授だった。近所に気ままな一人暮らしをしていたが、感染爆発の時に自宅に籠城し、物資が底を尽き掛けた時にホームセンターの書き置きを見て合流したのだった。

徳さんは大学で植物生産環境学なるものを教えていて、その知識が大いに役だった。むしろ徳さんが居ないとこの村は生産を行う事が出来ないただの避難所となる所だった。

今も70近い高齢の徳さんは陣頭指揮をとってメガホンで指示を細かく出している。

「こらっ、松本!小川!サボってばかりいないでさっさと作業する!」

松本と小川はそれぞれ肩をすくめて見合い作業に取り掛かる。

そんな中、スコアボードの見張り台から鐘がカーンと一度鳴った。

「おっ、誰か来たみたいだぞ。」

小川は作業から解放されるからか少し嬉しそうに松本に声をかける。

「あぁ、お出迎えにいこうかの。」

最近では見張り台に鐘を設置してそれが一度で有れば生存者のほうもん。二度以上であればゾンビの群れの襲来といった具合に決められていた。


いつものウェルカムセットを小川が持ち、松本と二人そろって球場入り口で出迎える。

そこに現れたのは通常の避難者とは全く違う雰囲気の男だった。

頭は丸刈りで、終始無表情、格好はエスニックな柄の大きな布を体に巻きつけただけで、飢えも乾きもしていない様子だった。

「よういらっしゃった。私は松本と言います。ここの責任者をさせてもらっています。お疲れのようですので、まずはコレを。」

松本は小川に目配せしウェルカムセットを手渡そうとする。

エスニックな男はそれを片手で制止した。

「アップクシュハイム。お気遣いなく。」

男は何やら不思議な外国語を喋り、続けて日本語で断った。

これには松本と小川はどう見ても日本人にしか見えないその男の第一声が外国語だったためびっくりし目を合わせパチクリする。

松本は動揺を気取られまいとニカっと笑顔を作る。

「こちらへは避難ですか?それとも立ち寄っただけですか?こちらに避難してくるのであれば、大変申し訳ないが、2日間だけ隔離させてもらいます。こんな世の中だ、わかってるとは思う。その間の水と食料はこちらから出しましょう。」

「いえ、本日はご挨拶に立ち寄らせてもらっただけです。私はアウム真誠教の目黒と申します。ここより西へ二日ほど歩いた所に私の所属する道場があります。それにしてもここは良い村ですねぇ。」

目黒はまるでどこかと比べる様にそう言った。

「他にも生きている人がいる村があるのか?」

松本は怪しさ満点の目黒の両肩を捕まえてガクガク揺らしながら言う。

「はい、ここほど大きくは無く、村とは呼べませんがね。」

「ちょっと村長、コイツヤバい臭いがする。」

小川は興奮気味の松本を目黒から引き剥がしながら小声で松本に耳打ちする。

「ええぃ、離さんか!ちょっと興奮しただけだ。その生き残った人たちはどこだ?」

「みなさん、私の道場へ避難してますよ。私達アウム真誠教はこの様な事態になる事を知っていましたのでもう随分と前から準備していました。」

「ならなぜそれを世間に言わなかった!?」

松本は鼻息荒く目黒に問いかける。

「いえ、言っていましたよ。しかし、世間はそれを信じてはくれませんでした。」

「うむ、確かに平時には信じられん事態だな。しかし、どうやって知った?」

「我らの尊師、暗闇を照らす太陽、梅本尊師がおよそ5年前にこの事は予言していた。富士山の麓には我らの国もすでに出来ている。ここの村も尊師の元に帰依して我らの教団の庇護のもと新しい国造りをしていきましょう。」

目黒の言葉を聞いたその時、松本は思い出した。公安がマークしていた宗教団体の存在を。

「あなたは特に歓迎しますよ。松本国家公安委員長。」

目黒はそう言うとこれまで無表情だった顔をいやらしく歪ませた。

プライベートで周囲の環境が大きく変わったため、少し更新スピードが落ちてますが、新たな展開です。さぁ、楽しくなってきましたよぉ〜!

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