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50話

松本達が占拠した市民球場は急速に畑へと変化しつつあった。

球場の半分を耕し終える頃にはホームセンターの書き置きが功を奏したのか数人が球場に合流し始め、球場全体が畑になる頃にはかなりの人数が集まっていた。

それは正に一つの村と言っても過言ではなかった。

松本は縁の下の力持ち的立場で若い者に舵取りを任せようと思っていたが、いつの間にか村長の様な立場になり、誰かが自発的に村長と呼び始めてからは皆が村長と呼ぶ様になった。


「村長、また新たに3人避難者が来たぜ。」

小川がスコアボードの見張台から叫ぶ。

書き置きは有効と考えた松本は、物資の調達に外に出るたびにあちこちで壁にスプレーで市民球場に安全地帯ありと落書きして回っていた。それを見てやってきているのであろう。

松本は小川に片手を挙げて応えると水と簡単な食料を持って球場の入り口に向かう。

この球場に来る者は大体水か食料が底をつき、物資を求めて彷徨っている途中で書き置きを見た者がほとんどだ。

ウェルカムフード&ドリンクを持っての出迎えはこれまでトラブルは皆無だった。中には嬉しさと安堵から感涙する者も居たぐらいだった。


「よういらっしゃった、私は松本と言います。まぁここの責任者と思ってもらって結構です。お疲れの様ですのでまずはコレを。」

そう言いながらウェルカムフード&ドリンクを手渡す。3人は何度お礼を言いながら飲み食いする。

「申し訳無いが、ここに入るには2日間だけ隔離させてもらいます。理由はお分かりだと思うが、安全の為にの。その間の水と食料はこちらで提供します。まぁ、本日中に出て行く等の立ち寄るだけであれば隔離は必要無いが、お三方はどうするかの?」

3人は飲み食いしながら隔離を選ぶ。

「そうか、人が増える事はいい事だ。後ろの小川さんが案内するから、それについて行くといい、これまで大変だったろう、ゆっくりするといい。」

松本は好々爺と言った表情でいつのまにか後ろにやってきている小川を指差し3人を案内させた。

松本はこの球場から人類の復興を考えていた。

それは壮大なスケールで、いつ実現するかは分からないが、それが自分に与えられた使命と思っていた。

かつて恋い焦がれた総理という地位になるよりもよっぽど今の立場の方が良い物だと思っていた。

復興には人がいる。人財だ。人は宝だ。決して手段の為の材料では無い。

自分で全て出来れば何も問題は無いが、そんな人物は居ないし、全てをイチから作り上げる時間も無い。

ならば既にある知識を外から受け入れる事が最大の近道である。そんな考えから松本は積極的に外部の人財を受け入れた。

受け入れに関しては皆の意見は真っ二つに割れたが、最終的に松本が押し切った。

結果的にそれは良い方へと動いている。

球場にはフェンスと地面は有るが、その他は何も無い。

松本達が移り住んでから最初に困ったのは水の問題だった。

移り住んでから少しして電気が止まり、続いて水道が止まった。

飲料水はホームセンターから持ってきた分が、かなりのストックがあったため問題は無いが、生活用水に困る。そんな時にたどり着いたのは水道関係を職にしていた男だった。

水道には受水槽方式・直結加圧方式・直結直圧方式の3種類があり、前者2つは電気が止まると給水が止まる。

松本達の球場は受水槽方式らしく、ポンプで受水槽まで水を引き揚げて配分する為、停電すると水が止まる。水道の男は直接直圧方式の建物からパイプを長く接続して球場の受水槽まで引き入れた。地中に埋める工事は時間とゾンビの問題があり出来なかったが、地上を這わして引き入れた。

かなりの距離があったが、ホームセンターはもとより、あらゆる場所からパイプを集めて引き込んだ。かなりの労力と時間を使ったが、それに見合う結果もあった。

まずは水に困らなくなった。それからこれは想定外だったが、長い距離を地上に這ったパイプを通って来るため、途中、太陽の熱で水が温まり、受水槽に来るまでには温水になる事だった。これは断水するまで冷たいシャワーしか浴びれなかった女性陣に大ウケする事になった。

ただし冬場の凍結には注意が必要と水道の男からは口すっぱく言われている。


「小川さん、あの3人はどうだった?」

「噛まれて無いみたいだぜ。温水のシャワーに感激してたぜ。」

「そうだろうなぁ。水道屋さんによると、近々太陽熱温水器を間に入れて、冬でも温水が出る様にするらしいぞ。」

「水道屋さまさまだな。」

小川はしみじにそう漏らす。

「あぁ、水道屋がいなけりゃ、闇雲に井戸を掘るしか無かったぞ。小川さんなんかムキになって掘ってそうだからな。」

「違いねぇ。」

二人はカカカと笑う。

感染爆発から早くも6ヶ月が経とうとしていた。

松本村と化した球場は人口が100人に届きそうな勢いで、なおも膨らみつつある。

畑の面積は足りているが、住居用の敷地が無く、隣接するサッカー場とテニスコートが住居を建てる為の場所として活躍していた。

各施設、サッカー場、テニスコート、球場はそれぞれ色々な場所から剥ぎ取ってきた金網のトンネルで繋がっていた。

人口が増えるにつ連れ、足りなくなる敷地に松本が出した答えに小川が陣頭指揮を取って集め製作した渾身の大作だった。

金網のトンネルの周りには蔦系の植物が植えられ、その蔦が成長と共に金網にからまり外部からの視線を隠しており、ゾンビはおろか、健常者の視界にも写らない立派な通路となっていた。

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