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49話

松本は焦っていた。

確かにホームセンターには水も食料も道具も、あまつさえ酒や野菜の種まである。

しかし、その物資を消費し尽くせばどうなるか?毎日の生活で消費する物資はただ自分達の命を縮めるだけのものでしかない。言い換えれば物資の量は寿命とイコールだ。

消費した分は畑を作って増やせればいいと考えるが、ホームセンターの敷地内は当然の様にアスファルト舗装だ。商品の植木鉢ではたかが知れている。

ウンウン一人でうなり続けて、ある時突然閃いた。

周りをフェンスで囲まれて、尚且つ広い地面がある場所、野球場等の運動場が一番良い。

各ゲートを閉じれば中の安全は保たれる。さらにすでに地面が剥き出しのため、畑に転じやすい。その上、生活の拠点となる場所は控え室やロッカールームを使えばいい、シャワー室もあればなお良しだ、その上電源をなんとかすれば非常時には夜間照明をつける事だって可能だ。

松本は思い立って直ぐに動き出した。

「小川さん、この近くに野球場等のグラウンドは無いかの?」

「あー、松本のじーさん、わりいけど俺、ここは地元じゃ無いんだ。」

小川は申し訳無さそうに伝える。

「近くにありますよ。市民球場が。車で5〜6分位の所に。」

新田の旦那さんはそこで草野球をやっていたと体験を交えて話してくる。

松本は早速自分の考えを皆に伝え、グラウンドに移住する事を提案した。

「流石松本のじーさん!だったら、俺のトラック取ってこよう。それに道具やらなんやら全部載せて一気にいこうや!」

「おぉ!良いな!」

松本と小川はそう言いハイタッチをした。


「良いか!無理は禁物だぞ。何かあれば直ぐ戻る事!」

松本は小川に念のため2日分の食料とステンレスパイプの先に剣鉈をつけた手製の槍を持たせるとそう言い送り出す。

「まーかせとけって、そんなに遠くないから多分2時間も有れば戻ると思う。そん時はよろしくな!」

松本は小川とガッシリ握手して送り出した。


小川は一人歩き出した。

松本が付いて行くと言っていたが断った。非常時には一人の方が逃げ延びる自信があったからだ。

それに松本が乗っていたカートはもうバッテリーが上がっている。松本の機動力を上げる機械は使えない。

頭が悪い自分よりも、頭が良く皆を引っ張れる松本の方が、もしもの時の損失は小さい。松本が死に自分が生き延びたとしてもその後は無い。その考えから一人で行くという考えを押し通した。

トラックを置いた場所は覚えている。一度でも通った道は忘れないという変わった特技を持つ小川は逃げ延びた道を逆に辿る。

30分程歩き、交差点を曲がった先にトラックは無事にあった。

トラックの前には警察官が所在無げに立っている。一瞬、駐禁を切られた!と小川は焦るが、冷静に考えると駐禁もクソも無い世界だ。

焦らせやがってあのヤロウと小さな石を警官に向かって投げる。石が警官に当たると小川の方に振り向いた。

案の定、警官は顔の皮膚が全く無い、理科室にある骨格標本の様なゾンビだった。

想像以上に酷いそのゾンビの風貌に小川は一瞬怯むが足音を極力立てずに近づくと小川は槍をそのホラーな顔面に突き立てる。

警官はグゲっと小さく呻くとドサっと倒れた。その時、トラックの後ろにいたゾンビがその音を聞きつけたのか、偶然なのか分からないが、何体も続々と現れた。


松本は小川を送り出した後、当面必要になるであろう物資をショッピングカートに集める様に皆に指示をだす。

松本は外に出て駐車場に缶スプレーで『生存者へ、市民球場に安全地帯あり』と大きく書き、その横に略地図を描き、傍らにダンボールに入れたペットボトルの水を置く。

生存者が辿り着いて元気が出る様にと、また変な勘繰りを入れられぬ様にそうした。

出発の準備を着々とすませ、そろそろ小川が戻ると思われる時間になった。

全員で駐車場に出て小川を待つ。

暫く待つと遠くからトラックのエンジン音が近づいてくるのが分かった。

新田に手製の槍を持たせて松本と渡辺は駐車場入り口の車を押す準備をする。

「来ました!」

新田がそう言うと松本と渡辺は車を押してトラックが入るスペースを作る。新田は素早く外に出て警戒する。

トラックが無事に駐車場に入ると今度は反対から押して車を元に戻した。

「はっはー!ただいま帰ったぜー!」

小川は運転席からぴょんと飛び降りる。

松本は小川に近づくとペタペタと身体を触る。

「なんだよ気持ち悪りぃなぁ。」

「どこも噛まれとらんようだな。良かった、お帰り。」

松本は小川とハイタッチをした。

この若者はノリは軽いが慎重でやり遂げる意思も力もあると、松本は改めて小川を見直す。


球場に到着するとゲートを開けトラックを直接中に入れる。

球場内のゾンビは少なく、皆で固まってグルリと一周して掃討した。

死体を処理したあと、トラックから荷を下ろし松本は早速グラウンドを耕し始める。

グラウンドは固く、クワが役に立たない。ツルハシに持ち替え土をほぐしていく。

松本が耕す速度は遅く、ツルハシを一振り一振りする度に腰に疲労が溜まるが、今まで生きてきた人生の、どんな時よりも充実していた。

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