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44話

同時多発暴動緊急対策本部と銘打たれた会議室は24時間眠らずにかなりの数の男達が動いていた。

電話に向かって怒鳴る様に指示を出す者、黙ってパソコンで資料を作る者、打ち合わせをする者、様々な人間が騒然と動いていた。

誰かが長官いらっしゃいましたと叫ぶと皆一斉に立ち上がり入り口を見つめ、松本議員が現れるとサっと一斉にお辞儀をした。

松本議員はそれに応えずズカズカと中に入り本部長の机に向かう。

「全くどうなってるんだね?」

「はっ、都内で同時多発的に暴動が発生しております。現在はその場所、規模、人数、被害状況等の情報をまとめていますが、現場の混乱から正しい情報が上がって無い状況でして…。えー、端的に申し上げまして人員が足りていないという状況です。」

「なにが人員が足りてないだ!」

「はっ、こうも同時多発でありますと、現場に向かわせる警官、機動隊といったリソースには限りがあります。主要な駅や空港に民衆が殺到しその整理に向かわせている警官も不足している状況であります。先程頂戴致しました通達通りに人員を配置できるのはもう少し先になります。」

「いいか?民衆の保護や整理は後回しにしろ、都内の議員や外国の賓客の保護を最優先にしろ!いいな!次に暴動の鎮圧だ!分かったか?民衆の整理は最後だ最後!」

松本議員はそう言うと肩を怒らせ足早に去っていった。

「本部長、どうしますか?」

「あぁ?あんなの無視だ無視。国民あっての議員ってのを分かってない様だなあの議員サン。」

「同感です。流石本部長、一生ついて行きます。」

「来なくて良いよ。気持ち悪い。それよりもお前のカミさん上手く田舎に脱出できたか?」

「はい、今頃子供達連れて奥多摩の方に車で向かってるはずです。本部長は?」

「うちは、ホラ離婚してから俺の電話を取っちゃくれないからさ、ウチ子供いないからアイツの好きな様にやれば良いって思ってる。一応電話はしといたけどな。」

「しかし何なんですかね?この騒ぎは。」

「分からん、俺もこんな事態初めてだしな。」

二人でそう話しているとあちこちから応援はまだかという無線や電話がひっきりなしに鳴っていた。

本部長は周りを見渡すと決心した。

「これは警察じゃ手に負えん。さっきの議員サンまだ居るか?」

本部長は立ち上がると会議室を出ていった。


松本議員は警視庁から出る所だった。

本部長は何とか追い付きお願いをする。

「大変申し訳ありませんが、総理に自衛隊の出動を松本長官の方からお願い出来ませんでしょうか?事態はすでに我々の範疇を超えております。」

「キミ、自衛隊は原発の防衛とロシア、中国、北朝鮮の牽制で忙しいんだよ。甘ったれなさんな。あのならず者国家達はこういう時を狙ってちょっかいかけて来る。数年前の地震の時も平気で領空侵犯してきたしな。キミはあれか?暴動を鎮めるのと他国の侵略を阻止するのと、どちらが重要かも分からないのかい?」

「大変失礼いたしました。長官の見ていらっしゃる景色と私の様な市井の者が見る景色が違うと言うことをはっきりといたしました。全勢力を持って暴動を鎮圧に掛かります。」

「うむ、頼んだよ。」

松本はそう言うとハイヤーに乗り込んだ。


「全く、警察は愚鈍でいかんな。」

松本は車内で一人そう呟く。

隣で秘書の曽根崎は頷き追従する。

「長官、各閣僚、官僚が招集されました。このまま官邸に向かいます。」

「あいわかった。」

松本は暫しの移動に目を瞑り休憩するのだった。


松本を乗せたハイヤーは官邸へスルスルと入って行く。正面玄関に止まった所で松本は目をパチリと開け降りる。

官邸の玄関は1階と思われがちだが実はココは3階である。東西の高低差を利用して建てられたためそうなった。

玄関をくぐり中に入るとそこは黒い御影石が敷き詰められたエントランスホールだ。

松本はエレベーターを使わず階段で4階に上がり、閣僚応接室を抜け大きな円形テーブルが置いてある高天井の閣議室に入る。

閣議室にはまだ半分程度しか閣僚は集まっていなかった。

街中はあちこちで暴動が発生しているため酷い渋滞だ。無理もない。

松本は総理の元へ他の閣僚に目もくれず向かう。

総理は仲のいい九州出身で旧財閥上がりの財務大臣と話していた。

「ご歓談中すみません、総理、警察には発破を掛けておきましたが、人員不足からどうも暴動を急速に抑え込むまではいかない様です。」

「わかりました。今日はその暴動について今後の対応と方針について後ほど話します。」

総理はそれだけ言うと仲の良い財務大臣とまた話はじめた。

松本は一礼すると円卓に座る。

しばらくして総理が立ち上がる。

「今日、皆さんに集まって頂いたのは、街での暴動と言われている現象についての対策と今後の方針についてです。調査室にはいった情報によると、暴動・騒乱ではなく、集団感染、パンデミックです。詳しくは調査室室長から。」

総理から指名された調査室室長は総理に一礼して報告をしはじめる。

「同時多発的に発生しております暴動・騒乱についてですが、原因ははっきりとしませんが、未知のウィルスによるものと思われます。」

室長がそう言うと室内の照明が徐々に暗くなりプロジェクターの白い幕が天井からスルスル降りてきて、パっと資料が映し出された。

「暴動・騒乱を起こしていた者を捕らえた映像です。この様に知性は無く、ただ嚙みつこうとするだけです。捕らえた際に腕を負傷させてしまったためバイタルチェックを行った所、心拍がありませんでした。」

室内がざわつく。

「生物的には死亡している状態で動いております。さらにコレに噛みつかれ死亡するとその者も死後に動き出す事が確認されました。この事から何らかの未知のウィルスがそうさせているのではないかと、ただいま感染症センターの総力を持って原因となるウィルスの特定を急いでいます。」

それぞれの大臣や官僚が連絡し始めたり、議論を交わし始めたりと室内が騒がしくなった。調査室室長は一段と大きな声で続きを報告し始める。

「さらに!この現象は世界中で起こっております。アメリカ、ロシア、中国、中東、ヨーロッパ、アフリカ。これは未確認ですが、ロシアは封じ込め作戦の一環で核を使用した模様です。」

馬鹿な有り得ないと、それぞれが口にし、より一層騒がしくなった。

「最初にこの現象が確認されたのは中国で、街を一つ丸ごと燃やしましたが、封じ込めは失敗した様です。この感染スピードと死を媒介する特徴から我が国でも封じ込めは難しいと思われます。さらにスーパーコンピューターを使って今後のシュミレーションを行った所、次の様な結果出ました。」

死亡予測、世界人口の99%と画面には表示されていた。

そこで室長は一礼すると下がり照明が明るくなった。

「室長ありがとう。」

総理が立ち上がり声をかけ、そのまま続けた。

「この調査結果の生存率1%に望みをかけようと私は思います。自衛隊の出動、避難所の設置、原発の安全な停止、株式相場の停止、それからこれは不本意ではありますが戒厳令を発令し、発砲も止むなしと考えています。」

大臣の1人が立ち上がり大声で叫ぶ。

「総理!あんた狂ったのか?」

「いいですか?相手は生物学的には死んでるんですよ?先程室長は報告しませんでしたが、アレを止めるただ一つの方法は、脳か脊髄の破壊しかあり得ません。あなたは素手で人間の脳や脊髄を破壊出来ますか?」

総理は冷静に続けた。

「我が国は幸運にも海で囲まれた島国です。その島嶼の数は6000以上にも及びます。我々政府は大島に拠点を移し再起を図ろうと考えております。さらに主要都市の港には護衛艦を配置・フェリーを接収して未感染者の避難に当たらせます。」

松本は総理の話を聞きながらメールで家族に避難準備をするように指示するのだった。

発生初期に戻ります。

ちょっとイラっとされるかも知れませんが少しだけ我慢して下さい。

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