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43話

中村が戻って来て1週間が経った。

山本達の雰囲気は常にギスギスしていた。原因は中村の増長にあった。

山本達が物資の回収に出掛けると持ち帰った物に文句をつける。中村が出掛けるとアレコレ指示をして自分は動かない。山本が文句を言うとライフルを向けてくる。

そんな中村のワガママ放題な日々が続いていた。

銀行内で言い争いになると須賀が宥めていたが、須賀の目が届かない物資回収時は相当な口げんかをしていた。

今日も物資回収時に揉めたらしく、夕食時に山本が中村に文句を言おうとしていた。

「中村ちゃんよぉ〜。」

「山本!その言い方をまず改めろって何回言えば分かるの?アンタのアタマはそんな事も記憶できないくらいの容量しかないの?まだガラケーの方がよっぽど頭良いよ。」

中村は一気に捲したてるとフンと鼻で笑いスープを一口口に入れた。

「このくそアマ!もう頭に来た。オマエ出てけ!」

山本は出てけ!の所でテーブルをひっくり返し雄叫びをあげる。

須賀の作ったスープが中村にかかる。それを冷静に拭う中村。

「あぁ〜?出てくならオマエが出てけよ。」

「はぁ?もともとはピーピー泣いてたオマエを助けてここに連れて来たんだろうが?それを棚に上げやがって!オマエが出て行くのがスジだろうが!」

山本は腕がプルプル震える程キツく拳を握る。

「うるせー!撃ち殺すぞ!」

中村は椅子に掛けていたライフルを山本に向ける。

「おぉ!やってみろ!一発で殺せなかったらオマエどうなるか分かってんだろうな?」

「試してみる?頭に当たったら半分くらい無くなるけど、それでも良いの?」

中村は引き金に指をかけようとした。

「もぅ二人ともやめて!」

落ちた皿や食べ物を片付けていた須賀が叫ぶ。

「よし!分かった。俺は出てく!」

山本は須賀の声にしまったなぁという表情を見せてそう宣言した。

「あ、じゃぁ俺も。」

「自分もっすね。」

斎藤達がそれぞれ山本に追従した。

「俺は……俺も行く。」

中村にこっ酷く振られてずっと元気の無い原田も中村をチラチラ見ながら手を挙げる。

「須賀は?」

山本が須賀に問いかける。

「んー、中村さんには悪いけど僕もかなぁ。」

「ちょっとアンタ達は良いけど、須賀は置いていきなさいよ。誰が掃除・洗濯、料理とかするのよ?」

「柔順な奴隷が居ないと困るってか?カカカ!」

山本は馬鹿にする様に笑いながら言う。

「山本達について行っても同じじゃない!」

山本と須賀は同時にヤレヤレといった手を広げるポーズを取って見つめ合う。

「僕は奴隷でも家政婦でも無いよ。皆んな僕の言う事聞いてくれるし、命令もされないよ。僕が出来る事をやって、僕に出来ない事を皆んなにしてもらってるだけ。ギブアンドテイクの関係かな?確かに最初の方はちょっと舐められてる感じはあったけど、田中君の事件以来、皆んな真剣に僕の話を聞くし……。中村さんはそう見えなかった?今のままの態度なら中村さんと残っても、僕がそれこそ奴隷みたいに奉仕する未来しか見えないよ。それにこれからも僕は生き残りたいからね。」

「アタシとなら生き残れないって言うの?」

須賀は少し間をおいて深く頷く。

山本は一つ深呼吸したあと中村に言う。

「中村ちゃんよぉ、餞別にここの物資は残しておいてやるよ。あとは自分の思い通りに生ていけば良いんじゃね?俺達は明日の朝出て行くから。」

山本がそう言うと皆頷きそれぞれの自室に戻っていった。

ひっくり返ったテーブルの前でポツンと椅子に座る中村。

「ちょっとこれ誰が片付けるのよぉぉ!」

中村のヒステリックな叫び声が銀行のロビーに響いた。


翌日、日の出とともに中村以外の全員が銀行から出る。

「須賀、大丈夫か?」

「え?何が?」

「途中でコケんなよ!」

「うん!」

須賀はしっかりお手製の鎧は身につけいるが、久しぶりの外で少し緊張気味だった。

「原田は?」

「あんなビッチに未練はねーっス!」

中指立ててニコニコしていた。

斎藤は黙ってピースしてきた。

「斎藤…はオッケーだな。うし、休憩所に行くぞ!」

山本達は一斉にバイクのエンジンをかけた。

それを中村は銀行の2階の窓から黙って見送った。

地位や権力を求めても、その組織の人間達に反目されては意味がない。反目・離反されずに組織の中で地位や権力を手に入れるために本当に必要なものは信頼だ。武器や力ではない。

地位や権力は周囲から与えられるものであって、決して自分から勝ち取るモノではない。

クーデターや謀反等で勝ち取った権力は歴史的に見ても、その後長続きはしない。

山本達はおちゃらけてはいるが互いを必要とし、大事にし、信頼している。

中村はその事に今更ながら気がついた。

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