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42話

「えー、それでは中村ちゃんの帰還を祝してかんぱーい!」

山本の音頭から宴会が始まった。

中村をお誕生日席に座らせそれぞれが好きな酒を手にしている。原田はちゃっかり中村の側で飲んでいる。

「中村ちゃん、どこにいってたんだ?まぁ、持ち帰った物見れば何となくわかるけど。」

山本は唐揚げを食べながら中村の椅子にかけられているライフルを顎で指しながら聞く。

「そう、銃砲店に行ってた。まだまだライフルはあるわよ。暴徒が侵入した跡があったから大半は隠してきたけど。どう?このライフル?¥100万もするのよ。」

中村がライフルを手にしてドヤ顔でボルトハンドルをガチャガチャと引く。

「おぉー、かっけぇー!」

山本達は一斉にそんな声を漏らす。

「この中で今アタシが一番強いのよ。皆んなこれからアタシのいう事を聞きなさい。分かった?」

「ん?あぁ、わかったわかった。」

山本がハイハイ面倒臭ぇなぁっと言わんばかりの態度で応える。

「ちょっとー、本気で言ってるのよ。」

「あぁ?お前ボケてんのか?」

山本の額に青筋が立ち始める。

「まぁまぁ、ところでそれってゼロインはとってあるの?」

須賀が山本と中村の間に入り宥める。自分の唐揚げを山本の皿にドサっと入れると山本の機嫌は一気に良くなった。

「なーに?それ?」

「弾って真っ直ぐ飛ぶイメージだけど、実は緩く放物線を描きながら飛ぶんだ。発射されると少し上に飛んでその後やや水平に飛ぶ。最後は空気抵抗で急激に落下していく。」

須賀は箸を銃に見立て、指で弾の軌跡を描く。

「それに対してスコープは真っ直ぐしか見えない。だからスコープで覗いた目標と弾が同じ位置に当たる様に調整しないといけない。通常は弾が落下し始める直前のおよそ水平に飛んでる時の位置とスコープで覗いた時に見える十字が同じ場所にくる様に調整する。これをゼロインって言うんだよ。」

「へぇー、あんた本当に何でも知ってるね。明日その調整お願いできる?」

「出来るとは思うけど、外じゃないと無理だよ。」

「外に行けばいいじゃない。」

「いやぁ、アレが居るし…。」

須賀は下を向き申し訳無さそうに呟く。

「ヘタレねぇ。そのゼロインってのは分かったけど、その調整したゼロインの距離よりも近いとどうするの?ゼロインよりも遠い場合は?」

中村は呆れ顔で須賀に質問する。

「その場合もスコープを調整します。対象の距離を測って、スコープの上についたダイヤルを回して微調整します。長距離を狙う場合は風も計算して微調整します。」

「なにそれ面倒ね。」

「熟練のハンターはスコープを覗いた時に見える対象の大きさで距離が分かるそうです。微調整せずに距離によっては対象の上を狙ったり、下を狙ったりするそうですよ。」

「ふーん、それなら練習すれば出来そうね。まずはゼロインね。」

「何でモグモグ、外じゃないとモグモグ、出来ないんだ?」

山本が唐揚げを頬張りながら聞いてきた。

「距離を測って実際に打つからね。」

「んぐ、窓から撃てばいいじゃん。」

唐揚げを飲み下した山本が聞く。

「距離が分からないよ。」

「うん、わかった。明日距離がわかるやつ取りに行く。それより唐揚げおかわり。」

山本はニコニコで皿を突き出す。

「もう食べたの?次で最後だからね。」

須賀は台所になっている給湯室に向かった。


宴会がお開きになりそれぞれが自室に戻る。

原田は中村を捕まえる。

「あとで行くから。」

「はぁ?セックスしたいの?嫌よ。」

「な、なんで?」

「自分で言うのもなんだけど、今まではアタシが一番お荷物だったからアンタ達の性の相手くらいしか役に立たなかったけど、今は違う。アタシも自分で物資を持ってこれるし、一番強い武器だって持ってる。これまでと同じとは思わないで。」

原田は中村の言っている意味が分からなかった。原田は強引に強要したりしていなかったし、山本も斎藤もそうだ。

原田はむしろ中村の事をセックスが好きな女性で原田のちょっとアブノーマルな性癖も嫌な顔せず受け入れてくれる。なんて最高な女性なんだとしか考えていなかった。

突然の否定に原田はどう答えるべきなのか混乱して、勢いに任せて告白する。

「俺、オマエの事が好きなんだ。」

「はぁー?無理無理!絶対嫌!バカじゃ無い?部屋で一生独りでマスでもかいてろ、この変態が!」

中村は目一杯の不快な表情をして原田を罵りスタスタと自室へ戻っていった。

振られてその場に立ち尽くす原田を山本が後ろからガバっとヘッドロックした。

「今日は思いっきり飲むぞ!俺が付き合ってやる。」

原田は山本にヘッドロックされながら声を殺して泣いていた。


翌日、山本が用意したのはゴルフで使う距離計だった。

須賀はそれを使って銀行の二階の窓から見える看板に向けて距離を測りゼロインを行う。

窓辺に砂袋を置きそこへライフルを固定して目標の看板に打ち込む。

別途用意してもらった双眼鏡で弾痕を確認してスコープのノブをキリキリ回し再び試射。

数度繰り返して納得のいく集弾率となったのか須賀はライフルの固定を解き、ドヤ顔で構え撃つ。

「狙い撃つぜ!。」

どこぞのアニメのキャラクターのセリフを言いながら引き金を引く。乾いた大きな銃声が響くと同時にピクピクと蹲って肩を押さえる須賀。

中村と同じ様に銃床をしっかりと肩に当てていなかったため、反動で肩を銃床にしこたま叩かれたのだった。

ちょっと暇が出来たので更新ペースがあがってます。

出来る限りこのペースを続ければなぁって思ってます。


出来れば評価等頂けると嬉しいです。

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