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39話

銃砲店を後にした中村は、ザ・下町と言える様な雰囲気の街並みを歩いていた。今にも角から子供が飛び出して来そうな雰囲気である。

思いのほか銃砲店にいた時間は長かった様で、すでに陽は傾き始め、中村の落とす影が徐々に伸び始めていた。

通常であれば夕餉の買い物で忙しなく歩く主婦や路地裏で遊ぶ子供達が見られる時間帯だが、路地には中村しかいなかった。

流石に暗くなってからの行動はいくら銃があるとは言え危険極まりない。中村は今夜の寝床を探すべくキョロキョロしながら歩く。

出来れば綺麗な感じでオートロック等のついたマンションか、塀の高い一軒家を探していたが、ここはザ・下町。商店や長屋調の家は山ほどあれど、中村が望む物件はなかなか見つからなかった。

物件を探してウロウロしていると、いつのまにか太陽は沈みかけ、綺麗な夕焼けになっていた。中村は思わず見とれてしまった。静かで誰も居ない下町がオレンジ色に染まり、まるで映画の巨大なセットに迷い込んだかの様に感じた。

「うわぁ!綺麗!って、こんな事してる場合じゃない!」

中村が現実逃避からハッと現実に戻ってきた時、遠くでバイクの音が微かに聞こえた。

「山本達かなぁ?あたしの事探してくれてるのかなぁ?エライエライ。」

中村はひとりニヤリと頬を緩めると肩に食い込むライフルのスリングを反対の肩に掛け直し、再び歩き始めた。


「山本さん、どうします?そろそろ日が暮れるっス。」

斎藤がリーゼントを手櫛で整えながら聞いてきた。

「そーだなぁ。須賀には心配掛けるが、休憩所で今日は泊まるかぁ。」

「了解っす。んじゃ、先に行って用意しとくっすね。」

斎藤とその後輩はバイクのエンジンをドルンと掛けると走り去って行った。

「原田、俺らはもうちょっと中村ちゃん探しながら物資を集めるぞ。」

「……。」

山本の問いかけに黙ったまま俯く原田。

「大丈夫だって、ちゃんと生きてるよ、アイツは!なんか目的ある風な感じだったし、それに須賀アーマー着てるしよ。ってか、原田はアイツがタイプなのか?」

「…そっす。」

「そっか、明日はもう少し南の方へ探しに行って見るか?」

「…うぃっす。」

「はぁー、ダメだこりゃ、早く中村ちゃん見つけねぇと原田が面白くない。おしっ、行くぞ!」

山本は原田の背中をバンバン叩くとエンジンを掛け走り出した。


山本達よりも一足先に斎藤達は休憩所にたどり着いた。

山本達が休憩所と呼ぶ建物は建築中のマンションで、建物の周りには足場が建てられていた。

斎藤達はその足場に取り付くと、スルスル登る。マンション内に入った斎藤達は一応全ての室内を荒らされていないか?侵入者は居ないか?ゾンビは居ないか?チェックする。その後足場の階段をロープで下に下ろす準備をして山本達の到着を待つ。

休憩所は建築途中で、ロビーの内装はまだ出来ていなかったが、各住戸の内装は殆ど終了していた。

2階に上がるには足場の階段を登るか、足場に設置された電動リフトに乗って上がるかの2択しか無い、今は電気が来ていないため実質1択しかない。マンション内の階段は鍵がかけられているため、ゾンビの侵入は難しいものになっていた。

さらに、足場の階段も山本達が離れる際には上階からロープで引き上げられており、ゾンビの侵入はもとより、人間の侵入も難しくなっていた。

足場を外部から登れる身軽な人物であれば難しくは無いが、建築途中のマンションに普通は食料や水があるわけでも無いため、わざわざ苦労して足場を登る物好きは居ないだろうと、須賀の指示で探し出したマンションだった。

山本達はこれまで回収した物資の半分は休憩所に運びこんでおり、また、特に水が出ないため、ペットボトルの水は見つけると確実に休憩所に運びこんでいた。さらに小型の発電機から燃料等も運びこんでおり、いつ何時銀行から脱出するハメになっても安全に暮らせる様になっていた。

須賀の心配性が山本達を動かし作り上げた第2の家とも言えた。


下町を歩く中村は、良い物件がなかなか見つからず、焦っていた。大通りならばそれなりにビルがあるだろうと大通りに通じる道を曲がり、しばらく進むと前方にゾンビの群れを発見した。

ライフルを肩から外し、すかさず構えるがどう見ても20匹以上居る。

ライフルは5発の弾が込められている。弾倉に弾を込めていない弾は山ほどあるが、弾を込めた予備の弾倉は2つしか無い。

ここは迂回してやり過ごそうと、中村は肩にライフルを担ぎ直すと振り返る。中村はそこでギクリとした。

中村が曲がった曲がり角の、一つ奥の曲がり角からさらに別のゾンビ集団が現れた。

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