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38話

屋上に並んだ洗濯機がゴウンゴウンと音を立てる。物干し竿に干された白いシーツが風になびく。青い空にこれ程までに似合う風景はないなと須賀は思う。ただし地上の亡者の群れがワラワラとひしめいている状況を差し引けばだが。

「中村さんどうしたんだろう?昨日は帰ってこなかった。もしかして…。」

須賀は屋上に置いてあったプラスチック製のベンチに腰掛けながら思慮に浸る。

突然屋上の扉がガンと開かれ山本が現れた。

「須賀ぁ、中村ちゃん探しに行くから。留守番よろしくな。」

「うん、本当にどこに行っちゃったんだろうね。」

「初めて外に出たから調子に乗ったんだろう。俺も最初の日は思い起こせば結構ハシャイでたもんなぁ。」

「ハシャぐっていうか、修羅だったよ。おまけに中村ちゃん連れて帰って来るし。」

「そん時からだったなぁ。今頃ピーピー泣いてるんだろうなぁ。んじゃ、そういう事で…。」

山本はビっと手を挙げ中村を探しに出掛ける。須賀もビっと手を挙げそれに応えると山本達を見送る準備に2階に下りて行った。


ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~

須賀は2階表通り側の窓を開け、手回しのサイレンを鳴らす。

プレイボールと言いたくなる気分であるが、おちゃらけていては外に出ている山本達の命に関わる。気を引き締めてサイレンを回し、外に向かって大騒ぎする。

須賀の役割は銀行の表通りにゾンビを集める事で、須賀がゾンビの注意を引いているその隙に山本達が裏口から出掛けるというものだ。

ひとしきり須賀は外に向かって大騒ぎをしていると空き缶で作られた鳴子がガラガラ鳴った。これは山本達が安全に外に出たという合図だ。帰還の時もこの鳴子が鳴る。携帯が使えないなかで外から大声を出す事なく中の者に合図を送るために須賀が考えた方法で、山本達が苦労して作り上げたシステムだった。

「中村さん無事でいてくれるかなぁ…。」

須賀はサイレン片手に一人そう呟いた。


一方、その頃中村はなんとか目的地にたどり着いていた。その店に入ると店の者は避難しているのか無人だった。

中村や山本達の様に生き残った者が略奪しようと試みたのか店の中は滅茶苦茶に荒らされてはいたが、目的の物はシッカリと施錠されていて、そのまま残っていた。

中村がやってきた店は銃砲店だった。

店の中にはショーケースの中に猟銃が飾られており、各銃のトリガーにはワイヤーが通されて強固に壁に固定されていた。

ショーケース自体も強化ガラスなのか叩き割ろうとした跡が残っていたが、あちこちに蜘蛛の巣状の跡があるだけで肝心の銃は持ち去られていなかった。

中村はそれを見て馬鹿にする様に鼻をフンと一つ鳴らすと店のバックヤードに入り物色し始めた。

中村が探している物はメモだった。特に壁に張られてあって、古い物を重点的に探して行く。程なくそれらしいメモを中村は発見する。

それを壁から剥がし、今度は金庫を探す。金庫はメモが張られた壁の反対側に置いてあった。

「やっぱりねぇ。忘れないようにメモしちゃうよね。私でもそうしちゃう。セキュリティがどうのこうのは自分とこは関係ないって思っちゃうよねぇ。」

そう言いながら中村は金庫のダイヤルを回す。キリキリと右に左に何度か回すと金庫の扉が開き、中には鍵束が置いてあった。

「はーいビンゴ!」

中村はその鍵束を持って再び店に戻る。ショーケースの鍵を開け、銃に繋がるワイヤーの南京錠を外す。

「どれにしようかなぁ。わーお、100万円もするんだこれ!なんか悪いなぁ、タダで頂いちゃって。」

中村が手にしたライフルはハンドル部が艶消しブラックで銃身はシルバー、銃口部にはマズルブレーキが施され、4-12倍のスコープが装着された銃だった。

「それから弾は、っとこれ?かな?んー結構色々種類があるのね。カタログカタログ〜、あった。なになに、300ラプア?300が何なのかもラプアが何の単位かもわからないけど、弾の箱に書いてあるからこれだよね?きっと。」

中村はライフルから弾倉を引き抜くと弾を込め始めた。

「何?この硬さ!もっと入れやすく作ってよ。しかも、五発しか入らないって、団体さんが来たら数で押されてダメじゃない。」

中村はなんとか弾を込めると弾倉をライフルにパチンと入れる。

「えーっと、このボルトレハンドルを引いて、映画でよく見るガチャガチャやるヤツね。これでセイフティを解除してっと。」

中村がセイフティを解除してカタログに目を落とした時、ウッカリ引き金を引いてしまった。

ドンと発砲音が鳴り、激しい反動で中村は銃を落としてしまう。

「あっぶな〜。音うるさ〜い。ってか、あの音絶対ヤバイ。」

中村は300ラプアの弾をありったけリュックに入れ、その他の銃と弾を途中で拾ってきたスポーツバックにガチャガチャと詰め込む。

「ん〜!これ100kg近くあるんじゃないかな?ビクともしない。どこかに隠して山本達を連れてきた方がいいかな?」

中村はズルズルとバックを引きずり店の外に出ようとした。あまりの重さになかなか進まない。

中村が頑張って引きずっていると、入り口に気配を感じた。中村はハッとして振り向くとそこにはゾンビがいた。

すかさず中村は肩に掛けていた100万円のライフルを向け引き金を引く。

しかし弾は発射されない。

「あっ!ハンドルを引くんだった。」

慌ててハンドルを引くと空薬莢が排出される。

映画の見よう見真似で構えて引き金を絞る。

ドンと発射音がする。ゾンビのすぐ後ろの壁にボスっと穴が空いた。

「痛ったーい!肩が!肩が!」

中村は銃床をしっかり肩に当てていなかったため、銃床に自分の肩を強かに叩かれたのだった。

「ちょっとまって、まって、今のナシ!もぅこっちに来ないで。」

中村は後ずさりしながらライフルのボルトハンドルをガチャガチャする。

やっと空薬莢を排出し次弾を装填出来た。

「今度は、今度こそ。」

呻き声をあげながら近くゾンビ。

中村は落ち着いて構える。今度はしっかり銃床を肩当てて狙う。息を止め、引き金に指を掛ける。

ゾンビの手がライフルまであと数十センチと迫った時に中村は引き金を引いた。

大きな発射音と同時にゾンビの頭が1/3無くなった。

「うぇぇ、グロい。でも最高!」

中村は弾倉を引き抜き弾を込め再びライフルに装填する。

「あとはバックを隣の歯医者さんにでも隠せば良いかな?歯医者さんに物資を探しに行く人なんていないでしょ!」

中村は重いバックをズルズル引きずる。

バックは重いが中村の心は軽やかだった。

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