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37話

ゾンビの雨を間一髪避けた中村はピキンと閃いた。

再び通りに出ると屋上に向かって声をかけ始めた。

「おーい!ここに美味しそうな女の子がいますよー!ホラホラ早い者勝ち!」

すると屋上にいたゾンビは続々と身を通りに投げ出し始めた。中村の作戦は屋上のゾンビ全てに身投げさせる事だった。

中村の声に誘導され次々と降って来るゾンビ。その内の1体が路上駐車してあった乗用車の天井にまともに落下してた。

短い間隔でクラクションの音が辺りに鳴り響く。防犯装置が作動した。

「ありゃー、これはマズイかも?」

中村は急いで階段を駆け上がり屋上にたどり着く。埋め尽くす程いたゾンビは全てその身を投げ出した後だった。中村は急ぎリュックを掴むと再び階段を駆け下りた。

雑居ビルから出ると中村の予想通り、辺りのゾンビが徐々に集まり始めていた。屋上の悪夢再び!と思った中村は通りを行かず、雑居ビルの横を通り抜け、一つ裏の通りに出た。

念のために更に迂回するため、音源となっている場所から闇雲に右に左にと、小さな路地へと入り進んだ。

いくつかの辻を曲がるとクラクションは微かにしか聞こえなくなった。

やっと人心地つき、ふと気がつくと中村は現在地を見失っていた。

地図を出すと最後に確認したページを開く。

「ビルに入る前がココで、あのビルがこの辺り?んで今は……。地図って上が北だよね?……北ってどっち?もーなんでこの地図は縮尺が小さいのよ!」

中村が手にしている地図は電話帳並みに分厚いが、日本全国を網羅していたため、中村が見ているページは縮尺が小さく細かい通りは省略されていた。安直な考えから、持って行くならこれ一冊で全て分かるでしょ!と、日本全国版の地図を書店から持ち出していたのだった。

市街地を行くには不便という事にそれまで気がつかなかった事が、彼女が地図を読めない事を如実に物語っていた。

「んもぅ!この役立たず!」

中村は地図を放り投げるとおよその方向に向かい歩き始めた。雑居ビルが大通りとすると中村がいる場所は裏通り、昔ながらの下町っぽさが残る路地だった。

しばらく歩くと交番が前方にある事に気がついた。あそこなら詳細な地図があるはずと考えた中村は小走りに近寄って行く。

交番の前は長机や書類キャビネット、棚等が出され、バリケードが築かれていた。

生きている人間が居るかもと中村は心を踊らされるが到着してみると気配を感じられない。中村は交番の中に向かって石を投げてみる。かすかに人が歩く音は聞こえるが、声を出す、顔を出す等の反応は無い。

中村は肩をガックリと落とし、少し離れた場所に路上駐車してあった車の窓ガラスをナイフの柄を使って叩き割った。

すぐさま鳴り出すクラクション。

中村は素早く車から離れ、交番を横切り民家の影に隠れる。連続したクラクションが静寂だった街を打ち破る。その音に釣られ周囲からワラワラとゾンビの集まる気配がする。

中村はそれでも動かない。目当ての交番からなかなかゾンビが出てこないからだ。

クラクションが鳴っている車の周辺は黒山の人だかりとななりつつある。これ以上はここに隠れ続けることは難しいか?脱出はできるか?中村が思案し始めた時、バリケードを押し出すようにして制服姿のゾンビが現れた。

拳銃のトリガーガード部に人差し指を引っ掛け拳銃をブラブラさせて歩いている。制服は肩から破け、顕わになった肩はえぐり取られていた。その警察官の後ろを一緒に立て籠もっていたであろう元住民が続いて歩いていく。

警察官一行はやはりクラクションを発する車を目指し歩いていく。一行が交番から充分に離れた時についに中村は民家の陰から飛び出し交番へ滑り込んだ。

交番に入った中村は壁一面に張り出されてある大きな地図を剥がし、綺麗に折りたたんでリュックに入れる。ついでに何か食料が無いか周囲を見渡す。交番の中はひっくり返った椅子や折れ曲がった刺又、大量の血だまりを踏みしめた跡、倒されたゾンビの死体、空薬きょうが散乱していた。あの警察官が最後まで職務を全うしようと奮戦した格闘の痕跡が見られた。

「やっぱり弾はたくさん無いと最後にはヤラレちゃう…。いや、この場合は1箇所に留まったからかな?銀行見たいに容易に侵入させない作りでも無いと籠城は難しいみたいね。悔しいけどあのバカ山本達は正解なのね。」

中村は地図以外の収穫は見つから無いと早々に諦め交番から立ち去った。

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