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34話

山本達は田中が噛まれた翌日直ぐアルジネートやその他の材料を集め、その日のうちに大量に全て揃った。

まず須賀はアルジネートで肘から上の上腕、肘から下の前腕、それから胴から肩にかけて型を取る。

アルジネートは歯科の型取りによく用いられるあのピンクの素材だ。1〜2分で固まり、溶剤を使わず水と混ぜるだけのため扱いやすい。主成分が水のため、放置しておくと乾燥収縮が起こり原形と乖離してしまうため、アルジネートが硬化後すぐに石膏を注入して雄型を作る必要がある。

須賀はアルジネートをペタペタ各人の身体に塗り型取り後に石膏を流し込む面倒な作業を繰り返した。

須賀の部屋には各人それぞれの名前を書いた前腕、上腕、胴体の石膏パーツがゴロゴロと散乱する事になった。

「ここだけ見ると食い散らかしたゾンビの部屋みたいだな。」

山本が自分の名前と右前腕と書かれた石膏と自分の腕を見比べながら言う。

「一緒にしないでよ。これからそれぞれのパーツに紙を貼り付けて防具を作るから邪魔しないでね。」

「はいはい、しっかしコレ凄いな。皺まで再現されてるぞ。」

「まぁね、ちょっとリアルだから気味悪いよね。」

「どの位で出来そうなんだ?」

「さぁ?初めて作るから分からないけど、紙を巻きつけてボンドを塗って、その上に紙を貼り付けての繰り返しだから…、厚みをどの位にするかにもよるけど、一週間くらいかなぁ。」

「あっそ、まぁ楽しみにしとく。あっ!俺は赤でヨロシク。3倍早く動けるかな?」

「シャア専用かよ!山本さんも意外にアニメ知ってるんですね。色は好みが出るから自分で塗ってね。」

「俺はゲームからだな。まぁ結構期待してるから。」

「うん、頑張るよ。それまでは雑誌とかを防具にして怪我しない様にね。」

「あーもー、わかったよ。お前は俺の母ちゃんか?」

「やってる事はそれに近いかもね。作業の邪魔になるから、はいどいたどいた。」

須賀は山本をシッシと部屋から追い出すと作業に取り掛かった。

木工用ボンドのプラスチックや金属にくっつかない性質を利用して、型取りした石膏にラップを巻き、その上から貼り付けて行く。ミルフィーユの様に何層も重ねて強度を出す。

出来上がったら型から外し、装着し易い様に真ん中からノコで縦に割る。身体の外側には蝶番を取り付け、内側には固定用の留め具をつける。

上腕と前腕の接続はスケボー用のエルボーパッドにそれぞれを接続した。これで前腕から肩口までは完全に防具で覆われる事になる。

胴体は前面と背面の2分割で側面に留め具を付けて完成。

肩は型を取っていないが何となく丸く形成した石膏を基に仕上げ、胴体背面部分の肩に蝶番を付けて手を挙げても干渉しない様に可動とした。

ついでにヘルメットも作ってみた。

顔面まで覆うフルフェイスだが、アクリルのシールド等は無いため目の部分を空洞にしている。

須賀は夜が更けるのも気にせず作業に没頭した。


「山本さん出来たよ。」

ちゃっかり自分の防具も作っていた須賀は防具を装着した状態でお披露目した。

「おぉ!なんかお前強そうに見える!旧ザ◯に似てないか?色もオリーブドラブだし。」

「肩の丸い所がそう見えるんでしょ?最初は肩を北◯の拳みたいな感じにしようかと思ったけど、こんな世界でそれを着てたら、正にって感じがするから丸くした。」

「アタタタってか?上半身はゴツいのになんだか下半身が貧弱だなぁ。いっそ下半身も作って見るか?」

「それじゃぁ完全なコスプレじゃん。この世紀末にコスプレするとは思わなかったよ。」

「いいじゃんコスプレ、ゾンビの群れにモビルスーツがいる所を想像すると笑えるけどな。ところで強度の方はどうなんだ?。」

山本はおもむろにヌンチャクで須賀の腕を軽く叩いた。

「どうだ?」

「何とも無いですよ。」

「じゃぁ。」

バキィ!山本はゾンビを攻撃する時と同じくらいの力でヌンチャクを振り抜いた。

須賀は一種グラつくが直ぐに体勢を整える。

「痛くは無いけど衝撃は伝わるよ。急にするのやめてくれる?」

「おぉ!これは文句無しだな。ひょっとして銃弾も止まるんじゃねーか?今度テストしようぜ。」

「え?銃なんてあるの?」

「まだねーよ。この間見つけたお巡りのゾンビは全弾撃ち尽くした後みたいだったから捨ててきた。持って帰るなら弾もセットだな。」

「お願いだから着てる時にしないでね。」

「そのぐらい判ってるよ。」

「山本さんはやりかねないからなぁ…。みんなの分あるから、色は自分で塗ってね。」

「おおよ、ありがとな須賀。」

皆がワイワイ防具を装着しながら、あーだこーだ言ってるなか、中村が須賀に聞いてくる。

「ねぇ、あたしの分は無いの?」

「えっ?いる?ごめんなさい。すぐ作るから2日ぐらい待って。」

須賀は意外な所から注文が入ったと焦った。

「須賀、俺はこの肩は要らね〜。邪魔になる。って言うか、中村ちゃんも鎧欲しいの?なんで?」

原田が純粋に疑問に思って聞く。

「あたしも外に出たいし、欲しい物もある。いつまでも篭ってたら神経が参るよ。」

「欲しい物なら俺が取ってくるけどなぁ。」

「好みってのがあるでしょ?原田君が持ってきてくれるのも嬉しいけどね。」

「ふーん、確かにね。それよりも今夜鍵開けに行くから、待っててな。」

原田がクイクイと嫌らしい手つきをしながらそう話す。

中村は何も言わずに笑顔とウィンクだけで返事をする。

『もう少しの我慢、外を自由に歩ける様になったら銃を手に入れてコイツらを服従させてやる。』

須賀が防具製作をしている間、中村は誰の庇護も受けずにグループを支配下に置くにはどうすれば良いか考えた結果が強力な武器を手に入れる事だった。持ち帰った物資でグループの地位が確定していると思った中村はその考えに落ち着いた。

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