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29話

ゾンビバリヤを後にした荒井は丁寧に運転していた。

荷台には椅子や手摺等の捕まる部分が無いため、急ブレーキ急ハンドルはもちろん、発車のクラッチミート、シフトチェンジのタイミングまで気を使ってなるべく揺らさない様にしていた。

順調に進んでいたが、走行音とは別にドンドン音がする。

「リナ、ドンドンって音が聞こえないか?」

「ん〜?聞こえるような聞こえないような。」

ゾンビのストレスで昨夜ほとんど寝ていない石崎は半分寝ぼけた声で答えたその時、荷台から激しく壁を叩く音が聞こえてきた。

「これは何かあったな?停めるぞ。」

荒井は路肩に車を寄せて停車し、後部の荷室ドアを開けると、中からマサミが飛び出してきた。

一瞬の事で何が何やら分からず、荒井が茫然としていると、全員咳き込みながら中から出てきた。

「ちょっと…ね。中でご飯食べたから…。トラックの振動が丁度いい刺激になったみたいで…。」

アキが奥歯に物が挟まった様な言い方で説明する。

「全く分からん。だからどうしたんだ?」

「だから…、トイレよ、トイレ!」

「あぁ、そう言う事か。ポケットティッシュしか無いが、持って言ってやってくれ。」

荒井がポケットティッシュを出すとアキはひったくる様に荒井の手から奪いマサミの後を追いかけ走っていった。

「なんだ?あの態度は?」

荒井が呆れて居ると中丸が深呼吸しながら荒井に囁いた。

「結構限界だったみたいで、屁はするわ、騒ぐわ…。もう少しで密室殺人事件に発展するかと思ったぜ。」

「ガス室状態か…。それはお気の毒さま。」

「あの女、最初は澄ました顔で、『だ〜れ〜?オナラしたのは〜?』なんて言ってやがってた。オメーだろ!って言いたかったけどな。それからちょっとすると停めてー!って壁を叩きだしたから、漏らすんじゃないかとこっちも焦ったぜ。」

「まぁ、あんまり深く突っ込んであげるなよ。俺もよく知らんが、一応女の子だしな。」

「子って歳はとっくに過ぎてるだろぅ?」

「女はいつまでも子なんだよ。対外的にはな。」

「メンドクセー。」

荒井と中丸がそんな話をしていると、マサミが駆け込んだ茂みから悲鳴が聞こえてきた。

反射的に中丸はハンマーをもち、荒井は腰のナイフを抜き茂みに向かって走り出した。

「どうしたー!」

茂みに突入しながら荒井は叫ぶ。

「助けて!嫌、やっぱり来ないで!」

マサミの声が聞こえる。

その声を頼りに荒井と中丸が茂みをかき分け進んでいくと、少し開けたスペースに出た。

そこには白いお尻を出したまま四つん這いで逃げるマサミがいた。

そんなマサミの後方にはゾンビが2体迫り、マサミに向かって真っ直ぐ進んでいた。

マサミはこちらの姿に気がつくと方向を変え、別の茂みに再突入した。

荒井と中丸は身構えたが、ゾンビはマサミや荒井達に興味を示さず、マサミが産み落とした物体に興味があるのか、地面に膝をつき何やらゴソゴソとしていた。

「なんだアレ?。」

中丸が後ろそーっと近づき覗いてみるとゾンビはマサミの糞を食べていた。

「うぇ!汚ねぇ。」

中丸が思わず大きな声で言ってしまうが、ゾンビは一瞬振り向く素振りを見せるが、それよりも目の前の糞に夢中になっている様だった。

「コイツらに初めて無視された。」

中丸がビックリしてそう呟く。

「クソはゾンビの好物なのか?そう言えば、コイツらって内蔵の取り合いをよくやってるよな…。」

中丸が道中の出来事を思い出しそう言った。

荒井は顎に手を当てて考えていた。

『これは何かに使えないか…?群れの誘導…罠への誘引…。』

「…さん…さん、荒井さん、どうする?ぶっ叩いとく?」

中丸に呼びかけられ荒井はハッとする。

「ああ、そうだな。とりあえず殺っとくか。」

二人はそれぞれゾンビの背後に廻り、手にした得物で処理をすた。

ゾンビの着ていた服で荒井と中丸はそれぞれの武器を拭っていると背後の茂みからマサミとアキが現れた。

「見たでしょ?」

「ん?あぁ、バッチリな。」

荒井が特に何もなかったかの様に答える。

「そこは嘘でも見てないって言いなさいよ。」

アキが荒井に食ってかかる。

「あ?じゃあ見てない。」

「じゃあって、何よ!そんな言い方ある?」

「はぁ〜、ケツを見られたぐらいで死にやしねーよ。結構かわいいケツだったぜ。」

荒井が冗談っぽく言った。

「もうお嫁に行けない!うぇぇぇ。」

マサミが中丸にしな垂れかかり泣き始めた。

「ちょ、なんだよ?」

中丸はマサミの肩をガシっと掴んでアキに渡した。

「女の子が泣いてるんだから優しくしてあげなさいよ。」

アキが中丸を睨む。

「あー、すまん。すまん。この騒ぎを聞きつけたアイツらが来ないかトラックに戻っとくわ。」

中丸はサッサと逃げる。

子供の様に大きな声で泣き噦るマサミを見て、荒井はまたため息をついた。

「あのなー、お前ら甘いんだよ。いいか、本当の意味で食うか食われるかの世界になっちまったんだよ。何甘えて泣いてんの?草食動物が我が子を喰われたって泣くか?見捨てて逃げるか、安全な距離を保って見守るかしか無いだろ?その泣き声で別のゾンビを呼び寄せるかもしれない。その結果、他の仲間が死んだらどうするんだ?また泣くのか?今やってる事は後で出来るだろ?分かったらサッサと泣き止んでトラックに戻るぞ。」

荒井は一気に捲し立て、踵を返しトラックに向かった。

「何よアイツ。人と動物とは違うじゃない。人としての尊厳とか無くしたらそれこそ動物よ。アッタマくる。」

「いいの、荒井さんの言う通りだとおもう。甘えてた。トラック戻ろう。」

マサミは涙を拭くとトラックに向かって歩き始めた。


その後、トラックは順調に進みキャンプ場へと辿り着いた。

荒井が考えていた通り夕方の到着となった。

「やーっと着いた。イロイロあったが、まぁ計画通りかな。」

荒井はトラックから降りてポキポキ鳴る腰を伸ばしながら言った。

「荒井さんの奥さんと子供もここに居るんですよね?」

石崎が複雑な表情で荒井に問いかける。

「あぁ、それはすまないと思ってるが、しばらく我慢してくれ。

おっ!おじさんだ。

あそこに居るのがここのキャンプ場のオーナー兼管理人だ。

おーい!おじさーん!」

荒井は石崎に説明しながら手を振る。

オーナーは荒井の声に気づいたのかゆっくり振り返る。

それを見た荒井達は動揺を隠せなかった。

オーナーは口から胸にかけて血だらけで左手には人の内臓らしき物を持ち、数本歩いてはそれを口に入れ、咀嚼しながら荒井達に近づいて来るのだった。

前作に引き続きスカとろ…

お食事中の方はすみません。

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