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27話

雲ひとつない快晴。

寒くも無く、暑くも無い、とても過ごしやすい天気の中、福井と中丸は街を進む。

ただ普通と違う事が街に音が無く、出会う者はゾンビだという事と福井と中丸の格好だった。

中丸はジージャンを着て両手にはハンマー。

福井は皮のジャケットに手には物干し竿の端のキャップを外し、出刃包丁をガムテープで固定した手製の槍を持ち、二人とも大型のリュックを背負っていた。


「いい加減機嫌なおしてよ。」

「包丁は料理人の魂だ。それをこんなにして、人斬り用じゃねーんだぞ。関の業物がぁ…。」

「じゃぁ、僕が食べられても良いの?」

「あー、もぅ分かったって。」

中丸は頭をガシガシ掻きながら乱暴に言う。

そこへフラリとゾンビが現れた。

福井がすかさず出刃槍で額を突き刺す。

「ホラ、こんなに便利、そして安全。」

「ハイハイ、好きにして下さい。」

ゾンビを仕留めサッサと歩く福井の後を肩を落とした中丸はついていった。


昼になり二人は大きな公園にある池のボートの上で昼食を取ることにした。

家を出るときに中丸が弁当を作っていたのでそれを食べた。

「うーん、本当に静かだねぇ。そして平和。」

「ああ、岸のアイツらが居なけりゃもっと良いんだけどな。」

「ザブザブ池に入ってきそうだけど、意外だね。水が怖いのかな?」

「少ない割合だが、何体かは池に入ってる?落ちてるぞ。どうも泳げないみたいだな。本能的に水を避けてるみたいだな。」

「本能的ねぇ…、じゃぁさ、火も怖がるとか?」

「かもしれんな。岸に上がるときに試してみよう。」

二人が佇む池の周りにはズラリとゾンビが取り囲んでいた。

空の弁当箱をバックに入れ中丸はオールを手に岸へとボートを向けた。

福井は槍の出刃を付けていない方にTシャツを結びつけ、ライターオイルを染み込ませる。

あと少しで岸にたどり着く時に中丸はZippoを福井に渡した。

岸ではご馳走が向こうからやってくると言わんばかりにゾンビ達が騒めいていた。

「それじゃぁ行くよー。」

ボっと音を立てて勢いよくTシャツが燃え始め、それを岸のゾンビに向ける。

するとこれまで手を伸ばし福井と中丸を求め、わしゃわしゃと手を動かしていたゾンビ達が一斉に手を引っ込め、火を怖がる仕草を見せた。

「おぉー、効いてる効いてる。あはは、ほーれほーれ。」

福井が調子に乗って槍を左右にユラユラ振るとそれに合わせてゾンビが火を避け動き、モーゼの十戒よろしく道が出来た。

「福ちゃん、なんか悪代官みたいになってるぞ。」

「だって、楽しいじゃん。」

「お楽しみのところ悪いけど、俺も松明作るからライター返して。」

中丸はボートを岸につけるとオールにTシャツを巻き、福井同様に簡易の松明を作り上陸した。

ゾンビの包囲網を突破した二人は山へ向かって再び歩き始めた。


「丸ちゃん、疲れた〜。」

「そのセリフ5回目。もうちょい頑張れよ。全体の半分も進んで無いぞ。」

「えぇー、あとどれぐらいあるの?」

「今日は夕方まで歩いて、どこかで一泊。このペースだと明日の昼過ぎから夕方に到着かな?」

「えぇ〜、そんなに遠いの?」

「だから良いんじゃないか。実際、家の近所よりアイツらの数は減ってるしな。」

「どっかで休憩しよー……、あ!丸ちゃんSOSだよ!」

「おーホントだ。福ちゃん行くぞ!」

「あ!誰か飛び降りた……?あれ?ゆっくり降りてる。何あれ?」

「わからん。が、生きてる人ってのは確かだな。」

二人は駆け足で近づいていった。



「おーい!そこの人!おーい。」

中丸は駆け寄りながら、嬉しさのあまりに大きな声で呼びかける。

呼びかけられた荒井はサっと周りを見渡し、中丸の方に向かって唇に人差し指を立てて静かにと、ジェスチャーを返す。

中丸は顔の前で拝む動作を繰り返し謝意を表す。

荒井と中丸がそんなやり取りをしている最中、周りの静寂を切り裂く悲鳴が頭上から聞こえた。

「イヤァァァァア!」

見上げるとアキが大きな悲鳴をあげながら緩降機で降りてきていた。

「バカヤロウ!あれだけ大きな声を出すなって言ったのに!そこの人すまんが、上にまだ3人残ってる。全員降りてくるまでもう少し時間が掛かる。今の騒ぎでゾンビどもが集まってくると思うから状況によっては見捨ててくれても構わんが、出来れば一緒に闘ってくれると助かる。」

「ああ、助太刀しよう。俺は中丸、アイツは福井だ。」

中丸は福井を指差しながら自己紹介する。

「ありがとう。俺は荒井、連れの石崎があのトラックに乗ってる。よろしく。」

中丸と荒井はガシっと握手を交わす。

アキが地上に降り立ち焦りながら緩降機のベルトを外す。

荒井は怒鳴りつけたいのを我慢しながらアキを睨みつけていたが近くの交差点にゾンビが集まって来ている事に気が付き諦めた。

「中丸さん、あっち。」

荒井が小声で指差し警戒を促す。

「丸ちゃんで良いよ。皆んなそう言う。福ちゃんは後ろから援護して。」

中丸はベルトに引っ掛けていたハンマーを取り出しゾンビに向かっていった。


中丸と福井が交差点到着し数体倒す。

福井が何気なく曲がり角から覗くとそこには100体近くの群れがいた。

福井はそろそろ戻り中丸に耳打ちした。

「丸ちゃんヤバイ、そこの角曲がるとメッチャ居る。」

それを聞き中丸も角から顔を出して覗くと青ざめた顔をして戻ってきた。

「あの数はヤバイ、アレを使う?福ちゃん出来る?」

中丸は交差点にある物を指差しながら言った。

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