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26話

エントランスからゾンビ達に侵入され裏口からの脱出を余儀無くされた中丸と福井。

中丸が裏口ドアノブに手を掛け振り返る。

「3・2・1で出るぞ。」

「なんだか『明日に向かって撃て』のラストシーンみたいだね。」

「あぁ、あの映画は良かったな。」

「僕、ブッチ・キャシディ役!」

「俺はサンダンス・キッド見たいに男前じゃ無いぞ。」

「僕から見たら男前だよ。」

「んなこたぁ、いいから行くぞ!3・2・1‼︎」

中丸は照れ隠しに雑に答える。

中丸がドアをバンと開け、直ぐ外に居たゾンビの頭をフライパンでコーンとフルスイングする。

その脇から飛び出した福井が中丸の死角側から近ずいてくるゾンビの頭を手にしたミートテンダライザーでドゴッと殴打した。

中丸はフライパンで倒したゾンビの首を全力で踏みつけて留めを刺し、少し前進する。後ろは福井がフォローしていた。

裏路地にズラッと並んだゾンビを一体一体倒して進む中丸。

7〜8体倒した頃に後ろの福井の気配が薄い事に気がついた。

不安に駆られた中丸は、次のゾンビを思いきり蹴飛ばして吹っ飛ばし、振り返る時間を作った。

ガバっと振り返る中丸、そこには死体の山の前で肩から息をする福井だった。


死体の山は、最初に倒した死体に引っかかり後続のゾンビが転倒、福井が頭を叩く、その後続も同じように転倒、福井が頭を叩く。それを繰り返したものだった。死体の山は胸程にまで積み重なって堤防さながらになっていた。

後続はよじ登る事が出来ずにただ呻いていた。

「福ちゃん、ナイスミルフィーユ!」

中丸がそう言うと福井はピースサインと爽やかな笑顔で答える。

中丸は力強く親指を立ててそれに応えるとフライパンを握り直した。

「おらぁ!料理されたいやつから掛かって来い!」

中丸の雄叫びがビルの谷間に木霊した。



ビルの陰から陰へ音もなく移動する中丸と福井。

太陽はだいぶ斜めになってビルが落とす影は長くなっていた。

遠くで拳銃の発砲音と思われる音が散発的に聞こえる他は騒音の類いは一切聞こえない。

街そのものが死んだ様だった。

「丸ちゃん、ちょっと休憩しよう。」

福井は地面にへたり込んだ。

「死ねばいくらでも休憩出来るぞ、あぁ、死んでも休憩は無理か…。もう少しだから頑張れ!あと1駅分だ。」

福井は生命の危機というプレッシャーと慣れない乱闘で消耗が激しかった。

「丸ちゃんはスタミナ凄いね。」

「おうよ、灼熱のキッチンで鍛えられたからな。」

その時遠くでバイクのエンジン音と思われる音が聞こえてきた。

「俺たち以外にも頑張ってるヤツがいるなぁ。さぁ、行くぞ。」

凹みまくって原形を留めていないフライパンを握り直し中丸は福井を立ち上がらせた。

「チューしてくれなきゃ歩けない!」

「んもー、しょうがねーなぁ。」

中丸は周りをキョロキョロ見渡してキスをする。

「んふふ、丸ちゃんおかしー。」

「ん?何がだ?」

「だって、僕らの事なんて気にする人はもう居ないよ。アレは別だけどね。」

福井が指差す方向には、遠くに1体フラフラと歩くゾンビがいた。

「こ、これはアレだ。い、一応周りを警戒しないとな、福ちゃんが襲われでもしたらなぁ。」

中丸は照れながら話す。

「あはは、照れちゃって、僕も丸ちゃんがいないと生きてけないよ。」

「いいから行くぞ!」

二人は手を繋いで歩き出した。


「はぁぁ、我が家が一番。」

福井はそう言いながらベッドに倒れこむ。

「なにジジくさい事言ってんだ?」

「だってぇ、疲れたんだもん。明日からどうするの?」

「ん?県境にあるキャンプ場に行こうと思う。前にキャンプ場のオーナーに鹿肉を卸してもらった事があってな。そこなら人も少ないだろうし、街中よりは安全だと思うぞ。」

「どうやって行くの?」

「歩くしか無いな。」

「えぇー、また歩くの?ヤダなぁ。」

「ワガママな子は今日一緒に寝てヤンネ。」

「ハイハイ、歩きますよーだ。」

福井はそう言いながら明日の準備をしている中丸の背中に抱きつく。

「ずっと一緒に居てね。」

「あぁ、離すもんか。」

中丸は振り返り福井とキスをした。


一夜明けて、地上の未曾有の混乱など関係無いかのごとく空はいつも通り快晴で、暁に染まる空を中丸はベランダから見上げながらタバコを吸っていた。

『キャンプ場が安全だなんて確信あるわけないよなぁ。』

中丸はそう思いながらタバコを投げ捨てた。

中丸の捨てたタバコは地上をウロつくゾンビに当たり小さな火の粉が線香花火の様にパッと広がったが直ぐ消えた。

それを見て中丸は一つ溜息を吐く。

「なぁに?朝からはぁはぁ言って〜。」

「アイツらだよ。一晩中ウロウロしてたみたい。昨日と密度が変わらない。」

「お腹空かないのかな?」

「主食は人間って…。食い尽くした後はどうなるんだ?」

「僕の主食は丸ちゃんだけどね。」

「朝っぱらから、ったく。朝飯作るから、食ったら出発するぞ。」

「はーい。」

中丸は簡単に出来るホットサンドをパパっと作る。

「美味しいー。丸ちゃんは良い奥さんになるよ。」

「バカな事言ってねーで早く食え。」

笑顔で怒るという高度なテクニックを披露する中丸だった。

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