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20話

病室から出た荒井達は、石崎が死体を見て失神しそうになりつつも無事に病院から脱出した。

「荒井さん凄いね、ゾンビやっつけれるんだ。」

トラックの助手席で石崎は感心した様に言う。

「アイツらは力は強いけど、動きは遅いし、直線的だから、2〜3匹までは何とか闘える。それ以上になると逃げた方がいいな。まだイノシシとかの方が強いぞ。リナもそのうち自分で身を守れる様にしないとな。」

「荒井さんに守ってもらいまーす。」

「俺が離れてる時に襲われたらどうするんだ?」

「一瞬でも離れないで!」

「それは無理だろぅ?」

「ヤダ!離れないで!」

石崎はハンドルを握る荒井の腕にギュっと絡みつきながら駄々っ子の様に言う。

ただでさえ放置車両で運転しにくいのに抱きつかれては事故を起こしかねない。

「あー、わかったわかった。ったく、危ねーぞ。こんな時にワガママになりやがって。」

「こんな時に置いていったのはだぁれ?」

「悪かったって。でもちゃんと迎えに来たろぅ?」

「当たり前ですぅ。」

「それでも、自分で身を守る術を身につけないとな。それか逃げるかだな。」

「学生の時は陸上部だったから走るのは得意だよ。」

「それは良いな。もしもの時の集合場所を決めておくのが良いかもな。」

「また離れるの?」

「もしもの時だよ。もしもね。」

「どこで集合するの?」

「ダムが近いから、そこの管理事務所が良いだろうな。向こうに着いたら管理事務所の下見に行こう。逃げ込んだ先にゾンビが居たらたまらんからな。」

そう言いながら荒井は右に左にハンドル切りながら放置車両の列を避けトラックを走らせる。

「それにしても、車凄いね。持主はどこに行ったのかな?」

「さぁな。ヤツらに食べられたか仲間入りしたかだろう。」

「食べられるのも仲間になるのもやだなぁ…。あっ!あそこ!」

突然石崎は叫び進行方向のビルを指差す。

「ん?おぉ!SOSだ。」

数ブロック先のオフィスビルの7階辺りの大きな窓いっぱいに白と黒のコピー用紙でドット文字の様に表現されたSOSの文字があった。

「どうする?寄り道するか?」

「うん、助けた方がいいと思う。」

「良し行くか!リナはトラックで待っててくれ。」

「え?」

「ついてくるか?それともゆっくりこの辺りをトラックで流しとくか?」

「どっちも無理。今度トラックの運転教えてね。」

「わかった、今度な。手取り足取り教えてやる。このシフトレバーを握ってぇ、ってな。」

荒井は股間を自分で鷲掴みしながら言う。

「うわぁ、おじさん臭いセリフだぁ。」

石崎は鼻を摘む仕草をする。

「はいはい、リナの彼氏はおじさんですよ。知らなかったのか?」

荒井はこんなやり取りが無性に幸せだと感じ、外の世界とのギャップに急に居たたまれなくなった。



荒井はオフィスビルのだいぶ手前からエンジンを切り、惰性でビルの前まで進み音もなく停車させた。

「じゃぁ、行ってくる。大人しく待ってろよ。ドアは一応ロックしてて。」

「はぁーい!」

荒井は手斧を片手にオフィスビルに正面から入って行った。

電気はまだ活きており自動ドアが小さな作動音を立てて開く。

エントランスのエレベーター前は強い死臭が漂い、食い散らかされた人間と思われる物体が四散され、大きめの塊の傍らには3体のゾンビがうろついていた。

荒井の接近にはまだ気づいてない様子で、荒井は一番近くのゾンビの脳天に手斧を思いっきり叩き込む。

ヴホォっという肺から空気が抜ける様な音を立てて1体沈み、その音を察知した残り2体が荒井へと距離を縮めてきた。

荒井は手斧を近くのゾンビ目掛け投げつける。

ブォンブォンと空気を切り裂く音を立てながら手斧が飛んでいくが残念ながら柄の部分が当り、手斧がゴトンと音を立てて虚しく落ちる。ゾンビは手斧という重めの鈍器が当たったにも関わらず、意に介さずに歩み、前進を止めない。

「さっきのがズガーって決まったらメッチャカッコいいのになぁ。やっぱり練習が必要だよな。まぁ練習台はいっぱい居るから、そのうちなっ!」

言いながら荒井は鉈とナイフをそれぞれに持ってゾンビに向かって行き、危うげなく2体を沈める。

「緊急事態とは言え、こんな事に急速に慣れてきてる自分が居るなぁ。えーっと、確か7階だっけかな?」

エレベーターのボタンを押し、ナイフに着いた血を拭っているとエレベーターがポーンという音と共に到着し扉が開く。10体程度のゾンビが一斉に中から現れた。

「うぉ!ヤバ!」

荒井は一目散にエレベーターホール横の鉄扉がついた階段に向かい走る。

鉄の扉をガーンと閉め階段を駆け上がった。荒井を追って来たゾンビ達は鉄の扉を元気良くドラミングし始めた。

「今のは完全に気を抜いてた。まさか乗ってるとはね。参った参った。」

7階に辿り着いた荒井は階段のドアを少しだけ開けてエレベーターホールを確認する。

そこには2体のゾンビが当て所なくウロウロしていた。

階段のドアをキィと開け、荒井は素早く排除する。

「えーと、7階は1社だけだな。ここか。」

荒井はオフィスのガラスドアをコンコココンとリズミカルにノックした。数秒待つが応えが無い。

もう一度今度は別のリズムでノックする。

奥から意を決した表情をした4人のOLが現れた。

序盤戦ばかりのストーリーで申し訳ありません。

あといくつか進むと、互いに絡み合う様にしていきます。

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