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16話

「私は?一人じゃ降りれないし、帰れないよ。」

石崎が不安と怒りの混ざった表情で荒井を責める。

「必ず迎えに来るから。ここはこの通り外の連中は入ってこれないし、一応は安全だ。」

「はいはい、私はいつも2番ですよ。いつも愛してるって言ってくれるけど、一番じゃ無い。」

「子供がいるからな。子供には母親が必要だし、家で待ってる。それに満足に動けないリナを連れて行動すると共倒れになる可能性がある。だからここで待っててくれ。当面の食べ物は今から探して来るから。」

荒井はソッポを向いて頰を膨らませる石崎の頬を人差し指で突きながらそう言い、窓から身をサッと乗り出し隣の病室を伺う。

「隣には誰も居ない見たいだから窓伝いに隣に移って戻って来るよ。じゃ、ちょっと待ってて。」

そう言うや否や窓から出てしまった。

「都合が悪くなるとすぐ逃げるか誤魔化すんだから!もぅ!」

石崎はベッドにちょこんと腰掛けスマートフォンから流れてくるTVニュースを眺めて待つのだった。



荒井は窓から侵入すると、音を立てないために革靴を脱いだ。

こちらの病室では廊下のゾンビに侵入され、食べられたのかほとんどのベッドが血塗れだった。

荒井は出来るだけ血で汚れていない綺麗なベッドを選び、ベッドシーツを音を立てぬ様に極力ゆっくり引きちぎり包帯状にするとそれを靴の代わりに足に巻き付けた。

残ったシーツも1m程度の長さの包帯状に揃え全てのポケットに詰め込む。

音もなく入り口に近づき、ドアに耳を当て廊下の様子を伺う。

『ドアを叩いてるヤツが増えてるな。廊下にいたヤツが集まってるのか?』

叩くテンポは早くなっているが、音の出方から複数いる様子だった。

荒井は意を決して引き戸をそろそろと開け周囲を伺うと、全開状態で固定し勝手に閉まらぬ様にした。

顔だけ廊下に出し確認するとナースステーション横の自販機に向け移動を開始した。

廊下で貪り食っていた医師や患者は石崎の居る部屋の前に移動しており、廊下には1体も見当たらなかった。

そろそろと移動し、数部屋の病室を横切り自販機のある所まで残りわずか、という所で病室から1体ふらりと廊下に現れた。

荒井は思わず息を止め、歩みも止めた。しかし廊下に出てきたゾンビは、唸り声を上げながら荒井に向かって両手を突き出し深夜の繁華街で見かける酔っ払いの様な動作で近づいて来る。

荒井はシーツの切れ端を一つ取り出した。それは予め端を結び、括り罠の様に輪を作ってあった。

その輪を突き出された手に掛け手前に引き絞り相手態勢を崩す、さらに前のめりになった相手側の首を巻き込む形でシーツを通し、荒井は力一杯引いた。それは自分自身の腕で自分の顔を巻き込む形となった。

荒井は更に何周も頭から巻きつけシーツの端をソレのベルトに結ぶと一息ついた。

『どうだ!アィーん固め。志村のけんさんには感謝だな。』

荒井に縛り上げられたゾンビは、そんな状態でも荒井を求めて片手だけで掴み掛かろうとしてきた。

荒井はその手を払い、強く突き飛ばして転倒させ、今度は両足を縛った。

『ここまですれば大丈夫だろう。まさか片手だけで移動は出来んだろうし。しかし相手が二人以上だと、対応はキツイなぁ。』

そんな事を思いながら荒井は自販機を目指してゆっくりと歩き始めた。



病室に残された石崎はスマートフォンでTVニュースを眺めながら待っていた。

『メールは繋がるって荒井さん言ってたな、よーし。』

石崎はアドレスに入っている友人・知人へ片っ端からメールを飛ばすが、返信はおろか、既読すらならない。

SNSアプリを立ち上げると、そこはSOSの嵐だった。

自宅クローゼット、公衆トイレ、事務所、車、キオスクの屋根の上、電柱の上等、立て籠もれる場所やアクセスが難しい場所へ避難し、一旦難を逃れたものの、その後どうしようもなくなった方からのSOSはもちろん、自宅から家族を心配しているメッセージ等、とにかく助けを求めるテキストで溢れかえっていた。

石崎も家族は見ないだろうが、万に一つの可能性を信じて、病院に居ることを書き込んだ。



荒井はその後、誰にも遭遇せず自販機がある休憩室に到着した。

自販機はジュースとパンの販売をしているものが1台ずつあった。

ポケットから財布を取り出しジュースの自販機から水とジュースを買えるだけ買うと、パンとスナック菓子の自販機の前に立つ。

パンの自販機は前面がガラス張りになっていた。

『緊急時だから良いよな?』

心の中で言い訳すると、イスを投げつけガラスを割り中のパンとスナック菓子を素早く拾うと隣のナースステーションから失敬してきた手提げ袋にどんどん詰める。

その時後ろから足音がヒタヒタと聴こえ、荒井は屈んだ態勢のまま廊下を伺う。そこには4、5体のゾンビが近づいて来ていた。

『やっぱり音を立てるのはマズかったかぁ。』

音を立てない様にサササと自販機のある休憩室から出てナースステーションに隠れると、荒井と入れ違いにゾンビが休憩室へ入っていった。

荒井は休憩室のドアを音を立てない様にゆっくり閉め、手製のロープで入り口ドアを素早く縛ると石崎の元へ戻るのだった。



「ただいまぁ。」

「おかえりなさい。わぁ、いっぱい持ってきたね。」

「ホントはもうちょっと持ってこれたんだけど、外のアレが近づいてきたからサッサと戻ってきちゃった。」

「外のアレってゾンビなんだって。ネットにそう書いてあった。」

「そうか。いわゆる審判の日ってやつか…。」

「何それ?」

「世界の誕生以来の全ての人間が生き返り、そこに彗星が落下し世界を焼く。生前に良い行いをした者は熱さを感じず、悪い行いをした者は地獄の炎に包まれる、というやつだよ。」

「なんだか核戦争を示唆してるみたいだね。」

「俺もそう思ったんだけど、マジで死者が復活するとはね。」

「ところで電話はどうだった?」

「んー、試す暇も無かった。ごめん。」荒井が頭をカリカリ掻きながら謝る。

「謝らなくて良いよ。コレからどうする?やっぱり私を置いて帰るの?」

「すまん。必ず迎えに来るから、遅くとも明日までには迎えに来れると思う。それまで辛抱してくれ。頼む。」

「もぉー仕方ない。私も思う様に動けないし、ここで待ってる。来なかったらゾンビになって荒井さんトコに行くからね。」

「すまんが、少しだけ辛抱してくれ…。行ってくる。」

荒井はそう言うと病室から垂らした手製のロープを体に巻きつけるとヒラリと窓から出て行った。

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先週に日間ランキング3位になりました。

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